とある早朝
いつもよりも早く起きた拓哉はかなり早く学校に着いた。
校門を抜け、下駄箱に着いてもいつものような賑わいがなくとても静かだ。
靴を履き替え終えると拓哉は教室に向かうため再び歩き出した。
拓哉が3階に着いても依然とあたりは静かなままだった。
教室の中を覗くと姫崎が居るだけで他には誰もいなかった。
「おはよう」
近づいて拓哉が声をかけると姫崎はビクッと肩をあげ拓哉の方を向いた。
「お、おはよう、道原くん」
「早いんだな。何か用事でもあったの?」
今は部活動で朝練をしている時間帯だ。
ここにいるということは部活でもないだろうし何かやる事でもあったのだろう。
「いや、そういったものは特にない、かな」
「いつもこれくらいに来るの?」
「いつもはもうちょっと遅いかな」
どうやらいつも通りではないらしい。
それでもどうしてそんな時間に来ているのか気になりはしたが拓哉は口には出さなかった。
「道原さんも今日は早いね」
「今日はめちゃくちゃ早く起きたからなんとなく」
昨日、早く寝たからなのか拓哉は1時間ほど早く起きた。二度寝したらそのまま寝過ごしそうだったしやる事もなかったのでそのままいつも通りに学校に来た。
大半の生徒が登校する時間帯まで後10分ほどある。
拓哉は姫崎の机の上に置いてあった手帳に目をやった。表紙のデザインが同じだからおそらく前に忘れていったものだ。
「あの、えっと、これは......」
拓哉が見ていたことに気づいたらしく姫崎は慌てて手帳を机の中にしまった。
「ごめん、何か不味かった?」
「その、大丈夫です」
姫崎は拓哉から目を逸らした。
何か悪いことをしてしまっただろうか。
「その......えっと......テスト大丈夫そう?」
「テスト?ああ、もう1週間前だもんな。それならにってところかな。そっちは?」
「えっと私はまだ不安なところがあって」
姫崎は顔を拓哉に向けながらも目を合わさないまま答えた。
テストはもうすぐそこまで迫っている。不安があるという言葉もよく勉強しているからこそ出てきた答えだろう。
「できる範囲でよかったらまた教えるよ。でもま、教師に教えてもらった方が確実だと思うけどね」
姫崎がどれぐらい出来るのかわからないから「自分じゃ実力不足だろうから」と拓哉は付け加えた。
「ありがとう」
姫崎はおずおずと拓哉を見ながらそう言った。
廊下から複数人の話し声が聞こえてきたので拓哉は「それじゃ」といって自席に向かった。
その後間も無く教室には生徒が入れ乱れるようになった。
「おはよう道原。今日は早いんだな」
席に座ってボケっとしている拓哉に炭谷が話しかけてきた。
「別にいいだろう。たまには」
「ちょっと珍しいなと思っただけだよ」
拓哉がため息を軽くつきながら言うと炭谷は笑いながらそう返した。
「そういや結局昨日のは何だったんだ?」
「詳しくは話せないけど図書委員関係」
昨日のというと加藤に呼び出された件だろう。一応ネタバレになってしまうので詳しくは話せない。
「やっぱそうだよな。一瞬告白でもされるのかと思ったけどな」
「そんな訳ないし、思ってなかっただろそんなこと」
炭谷が笑いながら言ったので拓哉は少し呆れた。
加藤と自分に接点が無いことを炭谷はわかっているだろうし、そもそもこんな冴えない自分に好意を抱くやつなんていないだろと拓哉は思った。
炭谷は「ごめんって」と言って自席に向かった。
その後拓哉が早起きの反動からかうたた寝していると担任が入ってきて学校にチャイムが鳴り響いた。