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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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新しい不安


「拓哉、おかえり」


 修学旅行が終わって数日、家に帰るとリビングで母が出迎えてくれた。母はソファに座って本を片手に持っている。

 いつもの帰りの時間よりは少し早いのでどうやら仕事が早く終わったらしい。


「ただいま」


「ねぇ、今更だけどさ。修学旅行、どうだった?」


 母はしっかりと拓哉を見て尋ねた。


 確かにちょっと遅い気がする。休日挟んで何度か会ったのに聞くのが今なのは今更感がある。


「......楽しかったよ」


 楽しかったのは間違いないのに一瞬言葉が詰まってしまった。

 修学旅行では大きなことがあった。自分の恋心に気づいてしまった。それによって今までの出来事が、今まで何とも思っていなかったものが違うように見える。


「そう。まぁ、楽しめたのならいいわ。お腹空いてる?」


「え?まぁ、ちょっとだけ」


 学校が帰ってきたばかりでそこまでお腹は空いていない。今日は少し帰るのが遅くなったとはいえ、いつもより10数分遅れた程度だし、いつもよりもご飯にするには早い。


「今日は私が作るから、拓哉はゆっくりしていらっしゃい」


 拓哉は「はーい」と二つ返事をすると自室へと向かった。着替えて部屋でゆっくりと過ごす。


 しばらくしてリビングに向かうと母がキッチンで料理をしていた。


「手伝うよ」


「大丈夫。もうすぐできるから」


 母の言葉を聞くと拓哉はソファに腰をかける。目の前にあるテーブルには一冊本が置いてある。先程、母が読んでいたものだ。


 少し待つと母が料理の乗った皿を運んできた。合計3枚。母が作る時はいつもだがかなり手が込んでる。


「ありがとう」


「いいのよ。平日にはあんまり会わないしね。紗良呼んできてくれる?」


 拓哉は頼まれると2階に上がり、紗良の部屋へと向かった。


「紗良、ご飯できたって」


「あ、兄貴、すぐ行くからちょっと待って」


 少し待つと紗良は部屋の外に出てきた。2人並んで一階にテーブルの前に座る。

 母もゆっくりと拓哉の隣に腰をかけた。拓哉達は「いただきます」と言って食べ始めた。


 休日はいつも作ってくれるが平日に食べることは珍しいのでもちろん美味しいがより美味しいような感じがした。


「母さん。美味しかったよ」


 紗良はそう言って食事が終わるとさっさと上に上がってしまう。紗良がいなくなったことを確認すると母親が普段より真剣な目つきで拓哉を見た。

「拓哉。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」


「何?」


「紗良に何かあったの?」


 拓哉はその言葉で手が止まった。


 紗良に何かがあった?母からそんな言葉が出てくることは滅多になかった。つまりそう言わせるような状態なのだろうか。


「どうかしたの?」


「いや、なんか拓哉が修学旅行に行ってる時、紗良の様子がおかしかった気がするのよ。どこか塞ぎ込んでるって言うか、思い詰めてるって言うか」


 母は拓哉が修学旅行に行っている時1人では不安だろうと休みを入れたり、早く帰ってくるようにしていたらしい。

 その時に紗良に違和感を感じたらしい。


 拓哉は修学旅行の前に会った時の紗良を思い出す。


 確かに何か違和感があったような気がする。特に修学旅行前日は。あの時はすぐに話題を切り上げられてしまったのでそこまで気に留めなかった。

 それに言われてみれば最近の紗良は何だかいつもより部屋にいる時間も長い気がする。

 何かあったのかもしれないと思うとなぜ気に留めなかったのかと拓哉は自分自身にイラついた。


「何もないといいんだけどね」


「うん」


 母の言葉に拓哉は頷く。


 本当に何もなければ良いが。どうしてもっと気に留めてやらなかったのだろう。

 紗良は隠し事が得意だった。特に自分の感情を隠すことがうまかった。でも、何かあったとしたらそれは言い訳だ。結局は気づいてやれなかったのだし、それを打ち明けて相談してもらうこともできなかったのだから。

 気づくのが何かあってからでは遅すぎる。知らなかった、気づかなかったなんて通じる訳がない。


「ちょっと話聞いてあげてくれる?ほんと母親として不甲斐ないけど、拓哉の方がずっとそばにいて話しやすいと思うから」


「わかったよ」


 拓哉はそんなに自分を卑下することないと思った。

 実際、紗良の違和感に気づいているのだし自分よりもよく見ていると拓哉は思う。それに母だって紗良にとっては話しやすい相手だとも思う。


 明日、帰ってきたら聞いてみようと拓哉は決めた。


 何事もなければそれでいい。何かあったとして、聞いてもたぶん紗良は言わないと思う。それでもきっとそうすることに意味がある。


 拓哉はそう思って皿を片付け始めた。

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