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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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明日はどうしますか?


 1日の予定を終え、ホテルに戻り、拓哉は夕食を食べ終えると部屋で同室の友人と雑談していた。


 修学旅行3日目。残念ながら終了まであと1日となった。明日の夜にはいつもの街に帰っていることになる。


「明日の自由行動だけどみんなどこに行くの?」


「俺はとりあえずお土産買いに行くかなー」


「いきなり行くのかよ」


 同じ部屋の人達と笑いながら会話する。修学旅行中部屋はずっと一緒だったはずだが、夕食後すぐにこの全員が集まって長く会話するのはあまりなかった。


「道原はどうすんの?」


「決まってないんだよな。俺は適当に歩いてるかな」


 拓哉は答えることができなかった。


 行きたい場所は決まっておらず、どうするのかを考えることも修学旅行中はなかった。どうしたものかと拓哉は今更になって考え出した。


「炭谷は?」


「俺も決まってない」


 炭谷は堂々とした態度で言った。なぜかその顔は自信に満ちているように見える。


「そんな自信満々で言うことじゃねえって」


「それもそうか」


 この4人が集まってこんな他愛もない話を集まってすることも修学旅行が終わってしまえばそうそうないだろう。そう思うと拓哉は少し寂しくなった。


 炭谷は教室でも結構話す方だが、他の2人はそこまで話す機会はない。1人は違うクラスによく行っているようだし、もう1人はいつも静かに机で何かしているからだ。


「なぁ、知ってる?6組の田中と鈴木付き合ったんだって」


「え、そうなの?」


 1人がその話題を持ち出した。拓哉は知らず、他の2人もどうやら知らなかったらしい。

 田中というのはサッカー部のエースであるらしく、鈴木は生徒会のメンバーでどちらも同じ学年内では有名な生徒だ。


「それっていつから?」


「それが昨日、ホテルで田中が告白したんだって」


 1人は興味深く話を聞いており、炭谷は軽く頷きながら話を聞いていた。


 ホテル内でやるのも人の目があるからなかなか勇気がいるだろう。人がほとんど来ない場所でもあったのだろうか。


 話をしていると拓哉のスマホが通知音を鳴らした。


 画面を見るとメッセージが届いている。送り主は水田だった。内容は「話をしたいから来て欲しい」と書いてある。


 拓哉は3人に事情を伝えると部屋を出て集合場所に向かった。


 夕食後は決められた就寝の時間までは自由行動となっており、ホテル内はある程度自由に歩くことができる。


 集合場所に着くと水田は先に着いていたようでスマホを触っていた。


「待たせた?」


「そんなに待ってないよ」


「それで用って何?」


 水田は少し頭を掻いてから拓哉に向き合う。


 そんなに重要な話なんだろうか。こういう態度を取られると緊張してくる。

 水田がゆっくりと口を開いた。


「母さんがな、今日から無事に仕事に復帰したらしいんだ。今日姉から連絡がきた。お前には世話になったし、ちゃんとお礼も言ってなかった気がして」


 水田は深々と拓哉に頭を下げる。


「あの時はごめん。あと、ありがとう」


「そういうのいいって」


 お礼を言われることも謝られることもしていない。結局あの時は何もできなかった。だからこんなことをする必要はどこにもないだろう。


「それより、お母さん。よかったな」


「ああ、ほんとによかったよ」


 水田はゆっくり顔を上げながら返事をする。その顔は小さな笑みを浮かべている。


 無事に戻れて本当に良かったと思う。もう一度同じようなことを起こさないようにして欲しいものだ。


「そういえば、下の兄弟は大丈夫なのか?」


「ああ、そこは母さんと姉ちゃんがどうにかするから行ってこいってうるさくて」


「いい人達だな」


 水田は「ほんとに」と囁いた。


 その後少し話をすると拓哉は水田と別れた。


 拓哉もすぐ部屋に戻ろうと思ったが、あまりこのホテルの中を歩いたことがなかったなと少し散策してから戻ることにした。


 どういったものがあるのか適当に歩き回る。歩いていると何人も同じ学校の生徒を見かけた。


「お願いします」


 ここら辺は生徒がいないなと歩いているとどこからか声が聞こえてきた。誰のものかは定かではないが男子の声だった。


「姫崎さん。明日、自由行動一緒に行きませんか?」


 拓哉がどうしようかと考えているとそんな言葉が耳に入り、考えていたことが吹き飛んでしまった。


 どうやら声がする方に姫崎がいるらしい。それも誰かと一緒で、明日のことを誘われている。


 拓哉は足が一歩前に出そうになった。その声の主が誰なのか知りたくなった。どう返事するのかが気になった。

 でも、それを知る資格はないだろう。こんな話、少なくとも誘っている側は誰かに聞かれたくはないはずだ。邪魔をするなんてなおのことだ。


 拓哉の足が止まっている数秒間に姫崎は返事をしなかった。

 さっさと言ってくれれば事故だと言うことができたのになんて考えが浮かんできてしまった。なんて卑怯なんだろう。


 拓哉は来た道を戻って行った。


 気になって仕方がない足を無理やり動かして部屋に戻るための道を歩いた。歩いている間もどうなったのかと意識が自然と向かっていってしまう。

 少しずつ離れていくがその後味はとてもひどいものだった。

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