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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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自分の思いとは


 修学旅行初日、拓哉は京都にきていた。


 栄えている街だからなのかいつもいる街の風景と一風変わった景色に多くの生徒がはしゃぎ、騒いでいた。


 クラスごとに並んで街並みの中を歩いていく。ここは何度か来たことがあるがやはり見慣れない街並みというのは何か好奇心をくすぐるものがある。


 しばらくして、昼食を済ませると拓哉達のクラスは金閣寺へと向かった。


 今日の予定は金閣寺を見ればを終わりだが、今日1番の見どころだろう。

 水の上に1人堂々と、凛として座している金閣寺には多くの人が見入っていた。


 この時間は範囲内であれば自由なので拓哉は一度その姿を拝むと他の人の邪魔にならぬようにその場を離れた。

 ここには学校の生徒だけではなく、もちろん他の観光客も来ている。学生がそこを陣取っていては迷惑だろう。


「あ、道原くん」


 範囲内でできるだけ人がいない場所へと移動しているとその先で姫崎に出会った。


「こんなところで何してるの?」


 ゆっくりと歩み寄りながら姫崎に尋ねる。


「あんまり長くいると邪魔になるかなって」


 拓哉は「そっか」と軽く答えた。


 拓哉は自分と同じ考えだったことに驚いた。別に変わったものでも、特別なものでもないのに。


「金閣寺はどうだった?」


「うん。綺麗だった」


 遠くを見つめる姫崎の横顔が拓哉には綺麗に感じられた。


 でも、きっとこれは珍しいというか、あまり見ることがないものできっと特別な感情はない。ないはずだ。


「やっぱりいいよね」


「うん。明日以降も楽しみだね」


「そのためにも今日はしっかり休まないと」


「それもそうだね」


 姫崎と顔を見合わせて拓哉は笑う。


 拓哉は人混みが得意な方ではなかったから、人が多いところに行くとそれだけで疲れてしまうことがあった。そのため、全力で楽しむためにも連続で行く日はしっかり休む必要がある。


 お目当てのものは残念ながらあまり見ることはできていない。それでも、拓哉はこの時間が楽しいと感じた。


 見終わったらしい生徒がだんだんと周りに多くなっていく。それに伴って他の一般観光客が歩いていった。


 ***


 拓哉達は初日の予定が終わってホテルで食事を楽しんでいた。


 メニューは魚がメインで他にいくつかの料理が並んでいる。どれも美味しそうという印象を抱くものだ。


 複数人でテーブルを囲って食事を食べる。拓哉の周りには男子生徒が多い。


「なあなあ、やっぱりさ、修学旅行で告白するやつとかいるのかな?」


 拓哉の席の近くに座っているクラス1のムードメーカーというかおちゃらけキャラが近くの男子に話しかけた。


 こんなところでする話題ではないだろう。もししようと思っている本人がいたらなんだかやりにくくなってしまいそうだ。いや、だとしたらその程度だったと言われてしまうのだろうか。

 幸いなことにこの話に耳を傾けている人は見える限りではいなさそうだが、拓哉がそう見えていないだけかもしれない。なんにせよ、この手の話題は部屋でするべきだろう。


「そういえばさ、明日なんだけど」


 話題をあげた本人が自ら話題を変えた。これは周りの空気を見てそうしたのか、何も意図してないのか普段の行動から拓哉は判別できなかった。


 それにしても、修学旅行で告白する人か。いいシチュエーションだし、実際する人もいそうだが、創作とかの印象が強くてあまりピンとはこない。


 もしするなら誰が誰にするのだろうか。

 クラスの中のいわゆる陽キャと言われる人達が「恋人欲しい」と話しているのを聞いたことが何回かあるがそういう人がするのだろうか。だとしたら誰に。

 今まであまり意識したことがなかったが一度考えると拓哉は妙に気になってきた。


 色々と考えながら黙々と食事を拓哉は済ませた。


 ***


「ちょっと出かけてくる」


 そういうと同じ部屋の2人がどこかに出ていった。


 基本的に部屋割りは一部屋4人で分けられている。拓哉のいる部屋もその基本に漏れず4人だ。


「どうせ、女子の部屋とかだろうな」


 もう1人の部屋のメンバーである炭谷は笑いながら拓哉に話しかけた。


 炭谷とは複数人と組めと言われたら基本的に組んでいる。そのため修学旅行中には一緒に行動することが必然的に多くなっている。


 それにしても、もし女子の部屋に行くのなら一体誰の部屋に行っているのだろうか。

 やっぱりよく絡んでいる女子のグループなのか、それともそのほかなのだろうか。


「道原どうかしたのか?」


 炭谷が拓哉の顔をじっと覗き込みながら尋ねてくる。


「なんでもないよ」


「そうか?ご飯食べてる時もお前、結構思い詰めたような顔してたぞ」


 拓哉はその言葉に驚いた。


 意識など全くしていなかった。本当にそんな顔をしていただろうか。そしてしていたのならそれはなぜ。


「何だ、お前好きな子でもいるのか?」


 炭谷は何か顔をにやつかせて聞いてくる。きっと何か勘違いをしている。


「いないよ」


「ほんとにそうか?もう一度自分に聞いてみろよ」


「だから、いないって」


 聞いてみろと言われたっていないものはいない。自分に聞けなんてどうすればいいかわからないし聞いたところで答えはきっと変わらない。


「でも、お前が張り詰めた顔したの、誰かが告白をするかっていう話が出た時と俺が女子部屋じゃねって言った時なんだぜ。そう考えるのが妥当だろ」


 そう言われればそんな気はしてくる。だが何度聞かれても返事は変わらない。何かモヤモヤしてきたから早くこの話題を切り上げたいと拓哉は思った。


「じゃあ、お前、姫崎さんのことどう思ってるんだ?」


「何で姫崎なんだ?」


「いいから」


「友達だよ」


 この返答に間違いはないはずだ。姫崎自身もあの時友達だと思っていると答えていた。友達であることに違いはない。


「じゃあ、姫崎さんとの時間になんの特別な感情もないと言えるか?」


「......ああ」


「そうか」


 炭谷の目が急に優しくなった。まるで微笑みかけるような目で拓哉のことを見つめる。


 姫崎には何の特別な感情もないはずだ。

 なぜなら、姫崎はただの友達で、一緒にいる時間が楽しいのも話が合うからであってそれは特別なものではない、友達に抱くもののはずだ。

 姫崎の話に関して感じるモヤモヤはきっと仲が悪くなるのを恐れただけだ。


「わかった。でももし、誰かのことで思い悩んだり、苦しくなったりしたのならもう一度考えてみてくれないか?俺からの頼みだ」


「......わかった」


「思ってるよりも恋っていいものだぜ」


 恋が良いとか悪いとかじゃなくてその前にきっとしていない。それでも炭谷の言葉は胸に置いておこうと拓哉は思った。

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