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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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何か変わったいつも


「もうすぐ修学旅行だね」


「そうだね」


 拓哉は姫崎と一緒に帰路を歩いていた。


 文化祭のあともこうして一緒に帰っているが拓哉はなんとなく違和感を感じていた。

 姫崎がなんだかよそよそしい気がする。声の調子などはいつも通りだがどこか遠慮しているというか踏みとどまっているように感じた。

 いや、もしかしたら自分も同じようによそよそしくなっているのかもしれないと拓哉は思った。今までと同じように喋れているかと言われたら自信を持ってそうだとは言えない。


 話は変わってもうすぐ修学旅行がある。開催まであと一ヶ月もない。

 行き先は京都。同じクラスの人は行ったことがない人が多く、ちょくちょく話題に取り上げていた。


「姫崎さんは京都行ったことある?」


「えーっと。う、うん」


 なんだか自信なさげに姫崎は答える。随分前でうろ覚えとかなのだろうか。


 拓哉も京都には行ったことがあった。

 父親が歴史好きで昔はよく城や寺、神社に連れて行ってもらったことがある。最近は少なくなってしまったが、拓哉は楽しかったのでいい思い出になっていた。


「京都では行きたい場所とかあるの?」


 修学旅行の最終日には自由行動の時間がある。その時間では個人的に行きたい場所を巡ることができる。しかし時間の制限があるので出発点からあまり離れることはできないだろう。


「よく知らないからまだわかんない。でも、できれば......」


「行きたい場所あるの?」


「え、あ、あの、そうじゃなくて」


 姫崎は慌てて否定してきた。


 別に隠すようなものでもないと思うのだが。途中で止められると余計に気になってくる。


「道原くんはどうなの?」


「今はあんまり考えてないかな」


 京都は観光名所も多くあるので父親に連れて行ってもらった回数も多い。おそらく大体の名所は回ったと思う。

 しかし、全く行きたい場所がない訳ではなかった。いい場所というのは何度も行きたくなるものだ。


 それからしばらくして、いつもの分かれ道についた。


「あ、あの......」


「どうかした?」


 姫崎がいつものように曲がっていかず立ち止まって拓哉をじっと見つめる。


「ま、また、明日」


「うん。また明日ね」


 いつもならはっきり言う別れの言葉を今日は少し溜めてから言った。

 拓哉は他に何か言おうとしていたのではないかと感じた。


 だとするならば、それが何か知りたい。わざわざ隠さずに伝えて欲しい。

 他に伝えたいことがあるとして、それはきっと事情があって黙っているのはわかる。それでも話して欲しいと思う自分はきっと卑しいのだと拓哉は思った。


 姫崎は軽く手を振ると振り返って歩いて行った。


 拓哉はあれからいつもここで何かを感じるようになった。それでもその何かの正体はわからない。いつも出てきては後味を残して消えていった。


 拓哉も家に帰るために真っ直ぐ歩き出す。そしてあの日のことを考え出した。


 姫崎はあの日「付き合えない」と言っていた。それはなぜなのだろう。

 他にもう先に付き合っている人がいるのだろうか。そう考えると胸が痛みが走る。それとも他に何か事情があるのだろうか。だとしたらそれはなんだろう。気になって仕方がない。


 いや、自分は何を考えているんだと拓哉は考えを振り切ろうとした。

 たとえ、姫崎が誰かと付き合っていたとしても、他に事情があったとしてもそれは自分には関係のないことだとあの時結論を出したはずだ。そして、それは今も変わっていないはず。


 ドンッ


 そうやって色々と考えていると誰かにぶつかった。

 迂闊だった。考えることばかりに意識が向いていて前を気にしていなかった。


「ごめんなさい」


 拓哉は謝りながら、ぶつかった相手を確認すると相手は学生服を着た意外と若い男だった。

 この学生服は確か紗良が通っている中学のものだったと思うのできっと年下だろう。


 気がつけば家の近くまできていた。自分はそれに気づかないぐらい一体何を考えていたんだろうと拓哉は思う。


 相手はじっと拓哉を見つめる。


 顔に何かついているのだろうか。その顔は驚いているようにも感じられた。


「だいじょ」


 相手は拓哉が言い切るより早くどこかへ走っていった。


 理由はさっぱりわからない。でも、あの様子を見る限り何か思うところはあったのだろう。

 拓哉の知り合いではない。どこかで会ったこともおそらくない。でも相手は拓哉の顔を見て何かを思ったようだった。


 考えても仕方ないので拓哉はそのまま家に帰った。

 ドアを開けて靴を脱ぐ。いつも通りだが親はまだ帰ってないらしい。


「おかえり、兄貴」


 家のリビングでは紗良がスマホをいじっていた。帰ってきた拓哉に気づくと軽い足取りで近づいてくる。


「どうした?」


「いや、なんでも」


 紗良は理由を聞かれるとそばを離れて元の場所に戻った。


「そういえば兄貴ってそろそろ修学旅行なんだよね?」


「そうだけど」


 紗良からも修学旅行の話題が出るとは思っていなかった。さっきの行動といいどうしたのだろうか。


「そういえば、最近外行かなくなったけど、どうかしたのか?」


 紗良のことで気になることといえばもう一つあったことを拓哉は思い出した。


 紗良は最近学校から帰ってくるとあまり外出していない。普段であれば結構外に行っていたが最近ではあまり見かけず、家にいることがほとんどだった。


「別に、出る用事がないってだけ」


 いつもよりそっけない態度で返事が返ってくる。拓哉は「そうか」とだけ言って自分の部屋に行った。

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