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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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呼び出し


「道原くん、今日の放課後って空いてる?」


 拓哉は昼食を食べていると同じ図書委員で先輩の加藤真央に声をかけられた。


「どうかしましたか先輩?」


「話があるから放課後取り敢えず私の教室に来て。それじゃあ、私はやることがあるので戻るわ」


 言いたい事を言うだけ言って加藤はさっさと行ってしまった。


「大変そうだな」


「大変だよ」


 小さなため息をこぼしてから拓哉は食事に戻った。



***


「じゃ、今日も付き合ってもらおうと思ってたけどそっちはやることあるっぽいし先に帰るわ」


 炭谷は拓哉の肩にポンと手を置いた。


 いつもなら用がなければ一言別れの挨拶をするだけだったので拓哉は珍しく思った。

 「じゃあな」と言うと炭谷は回れ右をして教室を出て行った。


 加藤に呼び出されたため行かないといけないとは思うが正直面倒だ。何か変なことをやらされそうな気がしてままならない。


 来いと言われた教室は2階にある。拓哉の教室が3階だから下に降りることになる。そのまま通り過ぎて帰ってもいいだろうか。そんなことをすればあとでさらに面倒なことになるが。


 拓哉は肩を落としてしぶしぶ2階に向かった。


「よく来たね。申し訳ないんだけどちょっと219号室で待っていてくれる?」


 目的地に着いた拓哉は教室を覗くと加藤はドアの近くにおり話しかけてきた。

 加藤は手に箒を持っている。どうやら掃除をしていた最中だったらしい。


 拓哉は「わかりました」と伝えると教室を離れた。


 219号室は普段放課後は開いていないので加藤がこの為に教師から許可を取ったらしい。

 そこまでする用事とは一体何なんだろうか。


 219号室に着くと中には3人の生徒がいた。

 1人が浅羽であることはわかったが残り2人が誰なのかわからない。1人が男子、もう1人が女子で自分も浅羽も加藤も図書委員であるから2人もそうなのだろう。


「道原さん。こんにちは。道原さんも呼ばれたんですね」


 教室に入ると浅羽が話しかけてきた。


「うん。それより浅羽さんは今日当番だよね。そっちはいいの?」


「すぐ終わるからちょっと来てって加藤さんに言われて。さっきそれを2人に言ったら全然いいよって言われたので」


 浅羽は言い終わるとそっと拓哉から目を晒した。

 彼女は少し人見知りのようで目を見ながら話すのが苦手だと水田が前に言っていた。

 拓哉はそれよりも他の用があれば他の人に任せてそっちに行けるということが少し羨ましく感じた。自分は1週間1人でやっていたから。


 拓哉が席に座ると見計らったように加藤が教室に入ってきた。


「ごめんごめん。お待たせ」


 加藤は頭を少し下げて人が座っている近くの席に腰掛けた。


「今日君達に集まってもらったのは少し手を借りたかったからだ」


「その内容は?」


 男子生徒が尋ねると加藤は机に肘をついて手を組んだ。


「実は......。図書知らせ7月何書くか決まってないから知恵を貸して欲しいんだ」


 加藤が顔を下に下げながらそう言うと周りに少し静寂が走った。


 図書知らせと言うのは毎月の初めに出している掲示物のことだ。内容としては図書室に来て欲しいと言うのと流行っている本やその時期に合うような豆知識みたいなものが多い気がする。

 どうやら書くネタがもうないらしい。


 拓哉はそれを聞いて何で自分がここにいるのかがわからなくなった。

 流行りのものとかそういったものに疎いし、そんなに知識があるわけでもないので有益な意見を出せる気が全くしない。


「すみません。何でこのメンバーなんですか?」


 拓哉がそっと手を挙げると加藤はこの場にいる全員の顔を一度見回した。


「そうだね。浅羽ちゃんはいっぱい本読んでて流行りの本とか知ってそうだし、西嶋くんと北波ちゃんは豆知識とか流行のものとかいっぱい知ってるし、君は、

・・・。君は、何となく目に入ったからかな」


 加藤はこちらを向くと口角を上げて微笑んだ。


 どうやら拓哉が呼ばれたのは何となくらしい。

 そんなことならもう帰ってしまっても良いだろうか?


「流行りのファッションについて書く?」


「うーん、それはあんまり図書関係ないからなぁ」


「最近人気の本と言われてもちょっと今は思いつかないないです」


「そっかぁ、思いつかないかぁ」


 会議が始まったがなかなか終わる気配がなかった。


 拓哉はもちろん入ることが出来ずただ黙々と話を聞いて時間の経過を待った。


「道原くんは何か意見ある?」


 経っていてもせいぜい10分ほどだろうと思いながら経過時間を確認しようと時計を見ようとした時に話を振られたので少し驚いてしまった。


 早く決めたくてなのか心なしか期待を持っている眼差しを加藤に向けられた。

 何となくで呼ばれた自分に期待などして欲しくないと思いながら拓哉は少し考えてみた。


 今考えているのは7月の分だ。7月といえば何があるだろう?


「あんまり図書関係ない気がするけど、七夕も近いし織姫と彦星の御伽話とそれにまつわる豆知識的なもの調べてまとめたものとか?」


 加藤は腕を組んで少し考えると顔をあげて頷いた。


「そうだね。今回はそれでいこうか」


 安直な意見だと思ったがどうやらお気に召したらしい。


「それじゃあ、みんな今日はありがとう。解散しようか。道原くんはちょっと残ってね」


 解散と言われたのに残れと言われて拓哉は小さくため息を溢した。


 他の3人はそれぞれさよならを言って教室を出て行った。


「で、何のようですか?」


「いや、君には書く内容まとめるの手伝ってもらおうと思って」


「浅羽さんは図書委員で仕方ないかもしれないですけどそれなら西嶋さんとか北波さんとかに手伝ってもらえばいいじゃないですか。あの2人にも何か用事があるんですか?」


「それはね、実はあの2人付き合ってるんだよ。2人の時間を取るのは悪いでしょ」


「それなら最初から呼ばないであげてくださいよ」


「はは、それもそうだね」


 加藤は軽く笑った。


「まぁ、それで君は暇そうだし手伝ってくれると思って呼び止めてみた。それとも何か予定ある?」


 拓哉は暇であることを否定出来なかった。実際帰ってもやることは特にない。強いて言えばテスト勉強ぐらいだ。


「わかりましたよ。手伝います」


「ありがとう。感謝するよ」


 拓哉は鞄の中から道具を取り出した。



***


「今日はこんなものかな。5時過ぎてるしもう帰っていいよ。どうもありがとう」


 時計を見ると分針は10分を指していた。


 拓哉は荷物を片付け終えると「さようなら」と言って軽くお辞儀してから教室を出た。


「道原さん」


 下駄箱で靴を履き替えていると自分の名前が聞こえてきた。

 声のした方を向くと姫崎が立っていた。


「今から帰り?」


 姫崎は場所を移動して自分の下駄箱を開けながら尋ねてきた。


「そう。ちょっとやることあったからね」


「ねぇ、帰りは徒歩それとも自転車?」


「徒歩だけど」


「校門出て右に行く?それとも左に行く?」


「左だけどどうしたの?」


「それならちょっと一緒に帰らない?もちろん嫌だったらいいんだけど」


 姫崎は顔をこちらに向けていたが目は合わせなかった。

 拓哉は「いいよ」と短く返すと姫崎が履き替え終えるのを少し待った。


 拓哉と姫崎は校門を抜けると左に曲がった。


「今日もテスト勉強してたのか?」


「うん。他にやることもなかったから」


「偉いな。ちゃんと勉強してて」


 拓哉はテスト1週間前に入ったり、誰かにしようと誘われたり何かきっかけがないとあまり勉強しなかった。だから常日頃から進んで勉強している人は普通にすごいと思っていた。


 その後も時々沈黙しながらも世間話をしながら帰宅した。


「あの、私あっちだから」


 姫崎は左にある曲がり道を指さした。

 拓哉はこのまま直進するのでここで別れることになる。


「俺はこのまままっすぐだから」


「そう」


 姫崎は進行方向を見ると俯いてしまった。


 曲がり道に着くと姫崎は体をこちらに向けた。


「それじゃ、バイバイ。また明日」


「ああ、また明日」


 姫崎は振り返って道を進んで行った。


 拓哉は少しその背中を見つめてから帰路に着いた。



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