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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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文化祭の午前


 キーンコーンカーンコーン


 いつものチャイムが時間を告げる。だがしかしそれはいつもとは違うものを示していた。


 今日は文化祭当日。チャイムと同時に学校内が一気に明るくなった気がする。

 すでに準備していた人達はそのまま残りそれ以外のほとんどが教室を飛び出して行った。廊下にはクラスメイト以外の人も往来している。


 拓哉はまだやることがない。今はまだ9時。図書委員の仕事まであと約2時間ある。


「道原くん」


 拓哉がどこに行くか考えていると姫崎が話しかけてきた。


「どこ行くの?」


 姫崎は何気ない顔で聞いてくる。


 姫崎の仕事は最初にあるらしい。この時間帯では入る人はほとんどいないだろうから楽そうという意味では羨ましくも思った。


「とりあえず、外見てこようかな」


 姫崎は「へー」と拓哉を見つめる。


「いってらっしゃい」


「......いってきます?」


 姫崎が軽く手を振るのを見るとと拓哉は歩き出した。


 クラスメイトから「いってらっしゃい」なんて言われると変な感じがする。拓哉はどう返したらいいのか一瞬戸惑ってしまった。


 外には親御さんらしき人が大勢見えた。当然ながら全く知らない人ばかりだ。他の学校や中学生、子供や御老年の方まで多種多様な人が訪れている。


 この学校の生徒は屋台に入っていたり、着ぐるみを着ていたり、チラシを配ったりしている。


「よかったらどうぞ」


 拓哉は近くにいた人にチラシを渡されたので受け取る。


 紙には演劇部の公演時間とざっくりした内容が書いてある。拓哉は歩き出すと小さく折りたたんでポケットにしまった。


 ***


 ガラガラと扉を開ける。


 拓哉は時間がきたので図書室へときていた。


 10数名の方が図書室を歩いている。図書室では本の紹介などを展示してあるので数名の方はそれを見ていた。


 本の紹介は募集していたが集まらず結局図書委員が書いたものがほとんどだ。


 それを見ていない人達は大半がスタンプラリーが目当てのようで賞品と交換したり図書室に設置されたスタンプを押していた。


「じゃ、あとよろしく」


 していた対応を終わらせると受付の人はそう言って図書室を出ていった。

 次に待っていた人の対応を拓哉はすぐに始める。


「ご、ごめんなさい。遅れました」


 拓哉が対応していると浅羽ともう1人女子生徒が謝りながら入ってきた。


「全然、大丈夫だよ」


 遅れたといってもせいぜい5分。仕事も紙に確認済みのスタンプを推して賞品を渡すだけで簡単なものだから問題はない。


 この学校の制服を着ている男女の2人に賞品を渡すと一旦落ち着いたようで図書室はガラッと静かになった。


「ほんとに、遅れて、すみません」


 浅羽達は席について拓哉に頭を下げる。


「だからいいよ。何かあったの?」


「すみません。私がちょっと熱中しちゃって」


 浅羽の友達らしき人が「あはは」と笑いながら言った。


 熱中したということは自分が何か行う系のものに行ってきたのだろう。具体的に何があったかわからないがどうやらこの女子生徒が大元の理由だったらしい。


「そうだ、先輩。時間ありそうなんでちょっと本見てきていいですか?」


 女子生徒は本棚を指差しながら提案してきた。図書室にはほとんど人がいない。


「別にいいよ」


「すみません。人来たら私達が相手しますんで」


 女子生徒はさっさと本棚へと向かう。


 やることがなくて暇になってしまうこともあるだろうと拓哉は許可したがよく考えると浅羽のことを放置しているがいいのだろうか。


 浅羽はちょこんと静かに座っている。退屈ではないのだろうか。


「あれだったら、浅羽さんも行ってきていいよ」


「い、いえ。私は大丈夫です」


 浅羽は両手まで使って遠慮した。


 ここにいてもやることがないのだから遠慮なんてしなくてもいいのに。あの女子生徒が遠慮がないのか浅羽が遠慮しずきなのかわからなくなってきた。


「あの、すみません」


 ぼーっと窓の外を見ていると突然知らない声に話しかけられた。振り向くと子供連れの女性が立っている。


「はい。交換ですか?」


「はい。お願いできますか?ほら」


 女性は子供に優しく話しかけた。子供はおずおずと紙を渡してくる。


「ありがとう。浅羽さん、ちょっと取ってくれる?」


 子供から紙を受け取ってスタンプを押す。押すとすぐに浅羽から賞品を向けられた。


 浅羽から賞品を受け取る。その時拓哉は浅羽と少し手が触れてしまった。


「はい。どうぞ」


 拓哉は賞品と紙を一緒に子供に渡す。すると子供は笑顔になった。


「ありがとう」


 子供に続いて女性も「ありがとうございます」と言うと図書室を出ていった。

 横を見ると浅羽の顔が少し赤くなっている気がする。何があったのだろうか。


「どうしたの?」


「そ、その、大丈夫です」


 浅羽は俯きながらそう言った。


 そういえば、あの女子生徒、誰かがきたら対応すると言っていたのに戻ってこなかった。


 拓哉が今何してるのかと本棚の方を見るとちょうど歩いてきていた。


「すみません。結局対応できなかったですね」


「そうだね」


「なんで、やっぱここで待機してます」


 女子生徒は席に座る。手には一冊の本を持っていた。


「そういえば、先輩って彼女いたりします?」


 女子生徒がいきなり話を突っ込んできた。


 大人しく本を読んで時間を潰すのではないらしい。


「いないよ」


「じゃあ、好きな人とかは?」


「ちょっと」


 女子生徒の質問に浅羽が制止を促したが女子生徒の期待の眼差しは止まなかった。


「いないよ。何でそんなこと聞くの?」


 この女子生徒と拓哉の関係値はほとんどゼロに近しいだろう。それなのにこんなことを聞く意味がよくわからない。


「そんなんですね。先輩、モテそうなのに」


「お世辞はいいよ」


 拓哉は恋人と呼べる人ができたことはないし、周囲から特別注目されたこともない。モテそうなんて言葉は拓哉にはお世辞にしか聞こえなかった。


「えっと、それじゃあ......」


「ストップ」


 浅羽が女子生徒の肩を持ち質問の途中で割り込んでやめさせた。


「道原さん。気にしないでください」


 浅羽がそう言うと拓哉はうんと頷いた。


 その後は時々人が来たのを対応して図書委員の仕事をこなしていると、時間がきたらしく次の当番の人が図書室にきた。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 拓哉達は当番を交代すると図書室を出た。

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