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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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お見舞いの出来事


 拓哉が椅子に座っていると姫崎はちょうど目を覚まし、体を起こした。


「おはよう。体調はどう?」


 姫崎はぼーっとしているようでぼんやりと拓哉を見つめる。

 少し長く見つめられて拓哉は気恥ずかしくなり目線を逸らした。

 いつも見られるのは平気なのになんだか寝起きだと考えると胸が高鳴ってしまう。自分はどうしたのかと拓哉は少し不思議の感に打たれた。


 姫崎ははっと目を見開いて首を大きく振る。


「どうしたの?何でここに?」


「球技大会終わったから、心配でちょっと見に来ただけだよ」


 球技大会は閉会式を終えた。拓哉がいるチームはあの後勝って第3位で終わった。姫崎がいたチームは。


「姫崎さんのチームは2位だったよ。みんな優勝をあげたかったみたいだけどしょうがないよね」


 あの後話をするとチームメンバーは大いに心配し、お見舞いの代わりにと一丸となって優勝を目指していた。結果は2位で終わったけれど決勝戦もものすごく奮闘していた。


「そう......。私が休んだから......」


 姫崎は責任を感じるように俯いてしまった。


 姫崎がいたとしても優勝できたとは限らない。そこまで自分を悪く言わなくてもいいのにどうして姫崎はそうするのだろう。


「姫崎さんのせいじゃない。もっと周りを頼ってもいいんだよ、姫崎さんは」


 もっと頼って欲しいというのは拓哉の望みでもあった。

 今回は無茶をしすぎだ。正直心配でしょうがなかった。またこんなことは起こしてほしくない。


「そっか。みんな心配したよね」


「そうだよ。みんな無理させてたのかなって。だから、しんどかったら言っていいんだ」


 姫崎は「ごめん」と言って前を向いた。


「みんなに迷惑かけたくなかっただけなんだけどな。私から回ってたんだね」


 全くもってその通りだ。姫崎はそこまで信用できていなかったのかと不安になるほどに。


「迷惑なんて誰も思わないよ。もうちょっと甘えたって文句なんて言われないよ」


「ごめん。そうだよね。私、しんどくて頭まで回ってなかったのかな」


 一概にないとは言えないだろう。しんどくては冷静な判断ができないことだってある。


 姫崎は「そうだ」と言って胸の前で手を合わせた。


「ねぇ、甘えていいって言うならさ、一つお願いしてもいいかな?」


「何?」


「その、もうちょっと、自然な感じで話してほしいの。もっとありのままに喋ってほしい」


 姫崎は恥ずかしそうに言う。


 拓哉は少し笑ってしまった。

 この状況でこんなお願いが来るとは思っていなかった。それに思いついたような時とそれを言う時で様子が違う。それがなんだか可笑しかった。


「そう?割と自然に話してると思うけど」


「そ、そんなことないよ。まだ、なんだか一線引かれてる気がするし、今だって敬語で話したりしてたし」


 姫崎は他の女子などに比べて自然体でいられる相手だし、自然に喋っている。

 でも、言われてみれば確かにこの保健室で話している時、敬語で話していた気がする。でも、それは心配したからであってわざとじゃない。

 たまに敬語になるのも意識してやっていたわけじゃない。でも、確かに男友達と同じかと言われたら違うようにしているかもしれない。

 だけど、どれも無意識だからどれも自然と言えるのではないだろうか。いや、自分が無意識に線を引いていただけか。


「いいよ。わかった。でも、どうして?」


「それは......」


 姫崎は少し顔を赤くして拓哉と違う方を向く。


 理由はわからないけど、それで何か不利益が生じる訳でもないだろうし、何より相手が望んでいるのだからと拓哉は詮索はしなかった。


「それで、体調は大丈夫か?」


「う、うん。十分寝たから、だいぶ良くなったよ」


 姫崎は一瞬驚いたような様子を見せたがすぐに元に戻って答えた。


 あの後から今になるまで結構な時間が経っているからずっと寝ていたとすれば確かに十分かもしれない。


 姫崎は「あ、」と言って布団にくるまった。


「それより、私が起きる前からいたってことは......。み、見たの?」


「見たって、何を?」


「そ、その......。ね、寝顔」


「あー、ごめん。起きてるのか寝てるのかわからなかったから、入ってきた時一瞬だけ」


 姫崎は顔を赤くして顔を布団にうずめてしまった。


 拓哉は寝顔を見られたくないなんて思ったことがないからよくわからなかった。一体何がいけなかったんだろうか。


「ごめん。よくわからなくてさ」


「別に、怒ってるわけじゃないよ」


 姫崎は顔を少しあげて言う。


 やっぱり怒っているのだろうか、どうしたらいいのかと拓哉は戸惑った。


「ごめん」


「いいよ。代わりと言ってはなんだけど」


「どうしたの?」


「その、み、道原くんって呼んでいいかな?」


 拓哉は目を丸くしたあと笑いが出てしまった。

 あまりにも予想外だった。呼び方を変えるにしてももっと何かあっただろうに。さんからくんでは大して変わっていない気がする。


「わ、悪かった?」


「ち、違う違う。いいよ、好きに呼んで。変えたくなっても許可なんてとらなくていいから」


「ありがとう。道原くん」


 そう言って姫崎に微笑まれると拓哉は恥ずかしくなってしまった。


 また心臓が高鳴っている。ただ呼び方が少し変わっただけなのにどうしたのだろうか。


「それじゃあ、俺はもう行くよ」


 拓哉が横に置いている荷物を取ると姫崎は「待って」と言って引き留めた。


「私も一緒に帰っていいかな?」


「もちろん」


「あ、でも、荷物今ここにないや。待ってて。取ってくるから」


 姫崎はそう言うとすぐにベッドから降りて保健室を出ていった。


「青春ねぇ〜」


 保健室の先生がカップに入れた飲み物を持って歩いてきた。


「いつから聞いてたんですか?」


「ずっとよ。そもそもここそんなに大きくないんだし、自然と話聞こえちゃうわよ。ま、面白そうだから耳傾けてたのもあるけどね」


 確かに保健室はそこまで大きくはない。だけどここは1番窓側だし、先生の机からは離れているので、後の理由がほとんどだろう。


「なんですか?青春って」


「青春は青春よ。それは自分で考えてみなさい」


 さっきの場面のどこが青春だっただろう。

 スポーツで盛り上がって、ちょっと失敗するのは青春かと拓哉は思った。


「それじゃ、失礼します」


 拓哉は扉の前で先生に向かって一礼する。


「あ、そうそう。あの子、まだ完全には治ってないだろうから、安静にって言って置いてくれるかしら?」


「わかりました」


 拓哉は了承すると保健室を出た。


「おーい」


 教室に向かっている途中で姫崎にばったり出会った。


「待っててくれれば、よかったのに」


「割と早かったな」


「荷物取るだけだしね」


 拓哉の横に姫崎が並ぶといつもの帰り道を歩き出した。

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