他人ではなく自分で
拓哉は自分の2回戦目が終わって少しした後飲み物を買いに自動販売機があるところに向かって歩いていた。
しかし体育館横に着くと自販機の前には数人の生徒が屯しており、拓哉はそこに割って入る気にはならなかった。
時間はまだあるし少し遠いがもう一箇所ある自販機にへと足を進めた。
この学校は不思議なことに2箇所に自販機が設置されている。それも2つは間反対にあり、片方は校舎内にある。
目的地につくと財布から小銭を取り出して飲み物を購入する。この後もまだ動くのでスポーツドリンクを選択した。
スポーツドリンクを飲むと全身に染み渡っていくような感じがする。思っていたよりも体は水分を求めていたのかもしれない。
この後まだやることがない。次の試合までまだ時間があった。
次で最後になるのだから早くしたいと思ってしまうが盛り上がりを考慮すればこんなものだろう。そうは思うが結局やることはない。
同じクラスの試合はさっきちょうど女子のサッカーが終わって今はやっていない。
仕方ないから他のクラスを見に行くかと来た道を戻り始めた。
下駄箱に向かうため角を曲がる。奥を見ると1人が歩いてきていた。
ここ最近で見慣れた姿、その人は姫崎だった。
壁に手をついて足をふらつかせながらゆっくりと歩いている。顔も前は向かず俯いている。その様子を見るにすごくしんどそうだ。
拓哉には気づいていないようで必死に足を前に進めている。
姫崎が出ていた一回戦のあと、様子がおかしい気がするが気のせいだろうとその時は思っていたがあながち間違っていないようだしどう見ても悪化している。
「大丈夫?平気か?」
拓哉は姫崎に近づいて声をかけた。姫崎の顔はやおらに上がっていく。
拓哉はしんどそうな動きを見てつい手を差し出した。姫崎はおずおずとその手を掴む。
熱い。その手は熱かった。きっとそれだけ体調が悪いということだろう。
こんなになるまで何故我慢していたのか、拓哉にはわからなかった。きっとこんなふうになる前に前兆があったもしくは悪化する前があっただろう。
何故そこでしんどいと体調が悪いと言わず試合に出てしまったのか。
「無茶しちゃだめだよ」
姫崎は小さくなって目を伏せる。
なんだか小さな子供みたいだ。
「それで、平気?」
「だい、じょうぶ」
「ほんとに?」
姫崎はこの様子で大丈夫と言った。
誰がどう見ても大丈夫ではないと言う思うほどの容体だ。体は熱いし、息も大きく壁を頼らなければ真っ直ぐ歩けもしなさそうな状態だ。
この状態でどうしてまだそんなことを言い続けられるのだろうか。
「大丈夫。試合に出れなくなっても誰も姫崎さんを責めないよ」
きっと姫崎が言い出せないのはこの後も試合があってきっと自分が抜ければ迷惑がかかると思っているのだろう。
だけど誰もそんなことをしたって責めはしない。そんなことをする奴は酷いやつだと思う。むしろこのまま出た方が迷惑を掛けるだろうし、心配もされるだろう。
それでも拓哉は姫崎の優しさを否定する気にはしなかった。きっと他人が無理矢理ではなく自分で今は無理だと認めることが大切だ。
「もう一度自分に聞いてみて。ほんとに大丈夫?ほんとにみんなに心配をかけないように動ける?」
姫崎は顔を下に向けてしまった。拓哉の手を握っていた手に力が入る。
「ちょっと、しんどいかも、しれない、です......」
「そっか。なら、今は保健室で休もう。無理に出て、悪化しちゃったらみんな負い目を感じちゃうから」
「うん.....」
姫崎はどこか恥ずかしそうに答える。
こうは言ったが負い目を感じる前にまず試合にも出させないだろう。流石にそこまで鬼畜な人はいないはずだ。
姫崎の反応を見るに拓哉の予想通り自分が出ないことで迷惑がかかってしまうと思っていたんだろう。そこまで責任感が強いのか、自信がないのか、心配なのかそれ以外にも考えられるがなんにせよこの状態では無理だ。
「それじゃあ、行こう。歩ける?」
姫崎は軽くうんと頷いて手を握ったまま、歩くために体を起こした。
拓哉はふと姫崎から視線を逸らすと奥に1人の男子生徒が立っているのが見えた。
あれは海で別れようと言っていた男子生徒だ。
あの後加藤から少し話を聞いたが同じく2年らしく名前は確か松野だったはず。
ちなみに元彼女は一年だったらしい。そう思うと海に行った時3年生は少なかったのだろうか。全員を知っていたわけじゃないからわからない。
それにしても何故ここにいるのだろうか。拓哉と同じく飲み物を買いに来たのだろうか。
いや、今はそうではなく姫崎のことが先だと拓哉は意識を戻す。
拓哉は姫崎の小さな歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。
保健室は一階にあるためすぐに着いた。
ドアを開けて部屋に入る。
「あら、どうかしたの?」
白衣を着た女性が優しく話しかける。
「ちょっと、しんどいみたいでベッド貸してもらってもいいですか?」
「もちろん。熱とかも測っとく?」
拓哉は姫崎の方を見る。決定権は拓哉にはなく姫崎にあるからだ。
「大丈夫です。ちょっと疲れただけなので」
姫崎がキッパリ言うと先生は「そう?」と言った。
「好きなところ使っていいけど、何かあったらすぐに言うのよ」
「わかりました」
姫崎は返事をすると「ありがとう」とだけ拓哉に言ってベッドに向かった。
「かなりしんどそうだったけど大丈夫かしら?早退してもいいと思うけど」
先生が拓哉に向かって話しかける。
大丈夫かどうかなんて浜崎にしかわからない。でもやはり大丈夫ではないほうに考えは傾いている。
「それは本人に聞いてください」
「球技大会みたいだし熱中症かしらね。君、教師とかクラスの子に伝えておいてね」
拓哉は「はい」と返事をすると保健室を出た。
姫崎が出れなくなったことを伝えるためにグラウンドへと向かう。
色々聞かれたりしたらめんどくさいなぁ、なんて思いながら、少し駆け足で向かった。




