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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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図書室の常連


 週が開けてまた月曜日となった。


「おーい、みちはらー」


 帰りの支度をしていた拓哉が声のした方を向くと炭谷が立っていた。


「この後暇か?」


「特に予定はないけど、何かあったっけ?」


「先週言ってた通り勉強しようぜ」


 拓哉はそう言われて一緒に勉強をしようと言われたのを思い出した。


「あー、そうだな。やることもないし。ちょっと待ってくれるか」


 そういうと炭谷は静かに拓哉の支度をしている様子を眺めた。


 そうじっと見ても面白くもないだろう。

 長く待たせるのは申し訳ないので拓哉は少しペースを上げて支度をした。


「よし、行くか」


 拓哉は鞄を閉めると席を立ってそう言った。


「で、どこでやるんだ?」


 拓哉が尋ねると炭谷は「そうだなぁ」と言って顔を少し上げた。


 どうやらどこでやるかは決まっていなかったらしい。

 学校内では図書室か教師に話を通して教室でやるかだろう。

 学校外となればどちらかの家か図書館と言ったところだろうか。

 図書館は基本的に私語が禁止されているから教え合いには不向きではあるけれども。


「ま、図書室でいいでしょ」


 炭谷は拓哉の顔を見てそう言い、拓哉を置いて教室を出て行った。


 全くマイペースな奴だなと思いながら拓哉は荷物を持って歩き出した。


 よくよく考えてみたら拓哉は先週に引き続き平日は毎日きている。

 今この時期にこの学校で図書室を6日間も連続で訪れるようなある種常連客みたいな人他にどれぐらいいるのだろうか。

 しかし拓哉は1人の心当たりを思い出した。

 姫崎愛菜。彼女も先週は毎日きていた。もし今日も来たならば彼女もまた6日間連続となる。いや、先週以前のことは知らないからそれ以上の可能性もある。


 そんなことを考えているうちに図書室の前に着いた。

 教室から最短で来て、ここまで合わなかったから炭谷は先に中に入っているらしい。


「あ、道原さん。こんにちは」


 拓哉が図書室に入ると受付にいる女子生徒に声をかけられた。

 彼女は浅羽梨華(あさばりか)。水田の幼馴染らしく去年は同じクラスだった。今は同じ図書委員をやっていてどうやら今週は彼女の番だったらしい。

 ちなみにテストは来週の水曜から5日間でテストの1週間前とテスト中は放課後の図書室は開いていないので今週は2日のみになる。

 ただたった2日だけはずるいと言うことで再来週もやることとなっている。


「どうも。他の人は?」


「まだ来てないんですけどもうすぐ来ると思います。本でも借りられるんですか?」


「いや、友達とテスト勉強しようってことになってね」


「もうすぐですもんね。頑張ってください」


「ありがとう。そっちも頑張れ」


 拓哉は話終えると机がある方を向いた。


 座っている炭谷は見つけたが姫崎の姿はなかった。

 まぁ、そんな毎日来る訳もないと思いながら拓哉は炭谷のところに向かった。


「遅かったな」


「置いていってよく言う」


 炭谷は拓哉の顔を見ると少し口角を上げた。


「じゃ、始めるか」


 炭谷はそういうと出していた勉強道具を使い始めた。


 始めるといっても2人ともただ問題を解いてわからないところがあれば教え合う形だから先に始めてもらっていても別に構わなかった訳だが。


 拓哉も席について勉強道具を取り出すため鞄を開いた。

 しかし英語を復習したい気分だったのだが今日は英語の授業がなく、用意を持ってきていないことを思い出した。


「ちょっと参考書取ってくる」


「わかった」


 炭谷はそう短く返した。


 拓哉は参考書が置いてある棚に向かった。


 この学校の図書室には少し前のものがほとんどだがそこそこな数の参考書がある。


「道原さん?」


 拓哉は参考書を選んでいると自分の名前が聞こえたので声がした方を向いた。

 拓哉の視界には姫崎が映り込んだ。


「今日は受付じゃないんだね」


「あー、あれは1週間で交代だから今週は違うんだよ」


「そうなんだ。じゃあなんで来たの?」


「勉強しに来たんだよ」


 拓哉がそういうと姫崎の顔が少し明るくなった。気がする......


「友達に誘われてな」


 拓哉がそう付け加えると今度は明るくなった気がしたのが元に戻った。

 一体どうしたのだろうか。


「そう......。私も勉強しに来たんだ。お互い頑張ろうね」


「ああ、そうだな」


 姫崎は参考書を2冊ほど取ると机の方へ向かって行った。

 拓哉も1冊取ると元の席に戻った。


「ちょっと遅かったな」


 先に戻ると炭谷に指摘された。


「どれ取るかちょっと迷ってな」


 炭谷は「ふーん」と言ってノートの方を向き直した。

 ここの席から参考書の棚は少し離れていて他の棚に遮られて見れないから先程のことは知られていないはずだ。


 拓哉は持ってきた本を開いて問題を解き始めた。


「そろそろ切り上げるか」


 炭谷はそう言いながらペンを置いて伸びをした。

 時計を見ると針は5時15分辺りを示していた。


「そうだな」


 拓哉がそう言っているうちに炭谷は物を片付け始めていた。


 相変わらずいつも自分のペースで進んでいく炭谷に拓哉は少し呆れた。


「それじゃあ、また明日」


 炭谷は片付け終えるとそう言って先に帰ってしまった。


 拓哉は自分のものを片付け終えると本を返しに席を立った。

 少し周囲を見回して見ると姫崎の姿はなかった。

 どうやらもう帰ったらしい。


 拓哉は参考書を返すと鞄を持って出入り口に向かった。


「あ、道原さん。さようなら」


「あ、うん、さようなら」


 浅羽に声をかけられると思っていなかったから少し驚いてしまった。


 拓哉は出入り口のドアに手をかけるとゆっくりと開き外に出てからゆっくりと閉じた。





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