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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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周りを気遣うということ


 体育館に着くとちょうど拓哉のクラスの試合が始まった。


 サッカー、バスケどちらも同じ時間で決着をつけたり、前半後半がなかったりと公式の試合とはまた違ったルールで勝負が行われる。サッカーなんてコートに出ている人数が多かったりする。


 試合は結果から言うとうちのクラスの勝ちだった。

 先制点は相手に入れられたもののその後、すぐに逆転し、点差をひらけないもののなんとか点数を抑えて勝利を勝ち取った。


 観戦は2階からすることになるが中々見応えがあったと思う。もちろん学校のちょっとした行事のものだからプロとかの試合みたいな見応えではなかったけれど白熱していたし周りも盛り上がっていた。


 グラウンドへ向かうため拓哉は体育館を出る。


「道原。本当に見にきてくれたんだな」


 体育館の入り口付近で水田とばったり会った。


「来てって言われたからな」


「いやぁ、めんどくさがって来ないかと思ってた」


「なんで?なんだと思われてるの俺は?」


 拓哉は行事となれば楽しむ派ではあった。

 せっかくの機会なのに楽しまないのは失礼な気がするし勿体無いような気もする。別に率先してめちゃくちゃやりたいまでは行かないけれどやれるのは悪くないと思っているしやるのならできるだけ楽しむのが大切だと思っている。

 それなのに友人から来て欲しいと誘われて何の予定もないのに断るなんてそうそうない。


「冗談だよ」


 水田は笑いながら拓哉の肩に手を置く。


 拓哉もそんな気はしていたというかそうだろうなとは思っていた。それでも心の奥の方で小さくそう思われてるのかなという考えがあったから言われて少しほっとした。


「それじゃあ、ちょっと応援行ってくる」


 水田は立ち去る前にそう言い残して走っていった。


 友達の応援なのかそれともクラスの応援なのかはたまた彼女の応援なのか。少なくともクラスはまだ試合はないのでその線はない。

 きっと彼女の応援だろうと何の根拠もないまま拓哉はなんとなくそう思った。


 もう少し休憩を挟んだのちに拓哉が出る試合が始まる。そのため拓哉は他にやることもないのでグラウンドに歩き出した。


 グラウンドでは試合が始まっていた。

 得点板を見ると0対0。まだ始まってほんの少しなのでどちらの得点も動いていない。サッカーなので当然とはいえば当然なのかもしれないが。


 5対3で試合が終わり、拓哉のクラスの試合が始まった。

 相手のクラスは運動部が多いらしく優勝候補だと騒がれていたクラスだ。


 勝ちか負けかは関係なく拓哉は試合に臨んだ。結局は楽しむのが一番、正直負けそうなんて思っているが後悔のないようにしたい。


 結果は3対2で拓哉のクラスの負け。


 負けはしたが割といい勝負をしたと思う。

 お互いに一歩も引かず最後の数分になるまでは点数は同点だった。試合内容自体はよかったと思う。


 それでも負けは負けだ。悔しくないと言ったら嘘にはなる。でもなんだか清々しい気分に拓哉はなった。


 負けたので拓哉の試合はあと一回。それまでまた時間があるので拓哉はどうしようかと考えた。


 ***


 姫崎は最初の試合が終わってから体調が優れなかった。朝の不調が今になってかえってきた。


 今やっている試合が終わればその次に姫崎のクラスの2回戦目が始まる。

 そう思ってゆっくりしていると間も無く試合が終わってしまった。


 体調が優れないといっても朝と同じぐらいだ。体は動くし、意識もそこまで朦朧としている訳じゃない。

 これぐらいなら大丈夫だろう、集中していれば忘れるだろうと姫崎は試合に出るべくコートに入った。

 できることなら心配はかけたくないし、いきなりこんなことを言って皆んなを混乱させたくない。


 試合開始のホイッスルと共に姫崎はその足を大きく動かし始めた。


 姫崎のクラスは勝利を収めた。


 しかし姫崎はその内容をほとんど覚えていない。途中から体は途端に重くなり、頭もぼーっとしてボールを追いかけるのも精一杯だった。

 試合終了のホイッスルを聞くと体を無理やり動かしていた力も抜けて倒れそうになってしまった。


「大丈夫?」


 クラスの人達が心配してくれているが声が聞き取りづらい。


「大丈夫だよ。心配しないで」


 姫崎はなんとか笑顔を取り繕う。それでもその人達の心配そうな顔は晴れなかった。


「ほんとに、大丈夫。久しぶりにこんなに動いて疲れただけ」


 姫崎は心配をかけないようにとその人達から離れて校舎へと向かった。

 きっと校舎でなら他人を気にせずゆっくり休める。


 周りに疑われまいと気合いで体を伸ばして平気を演じる。正直、頭は全然働いていなかった。


 校舎の中は外よりも比較的涼しかった。この学校は部屋ごとに空調をかけれない。各教室から漏れ出た冷気が空気を冷やしているのだろう。それに日差しがないというだけで幾分かましだ。


 保健室に行った方が良いのだろうか。きっと体調を考えれば行く一択になるだろう。

 しかし、そうすれば試合には出れなくなるだろうし、クラスの人達に心配や迷惑をかけてしまう。

 でも試合に出たところで今の状態ではまともに動ける気がしない。


 姫崎はわずかにだけ働く頭を動かして考えながら壁をなぞって奥へと歩く。


「大丈夫?どうかしたの?」


 ふと顔をあげると男子生徒が目の前に立っていた。


 どこかで見たことがある気がするがよく思い出せない。一体どこだっただろうか。頭も働かないしうまく記憶とその姿を比べることができない。


「だ、大丈夫です」


 言葉と一緒に出る息の量が多くなっている。これでは「大丈夫」なんて言っても説得力がない。


「どう見ても大丈夫じゃないよ。保健室まで送るよ」


 男は姫崎の肩に手を乗せる。


「大丈夫、ですから」


 姫崎が体を離そうとしてもその男は一歩も引こうとしなかった。むしろ近づいてくる。


「いいから、任せて」


「ほんと、平気ですから」


 何度言っても男は決して離れようとはしない。姫崎の体を動かしてもう片方の肩にも手を置いてきた。


「いいから!大人しくついてこいよ!」


 男は急に調子を変えて声を大きくする。


「いやっ......」


 姫崎はできる限りの力で男の手を振り解いた。そのまま離れようと歩き出す。

 ほんとは走りたかったが早歩きが限界だった。


「あ、ごめん......ちょっと待って」


 男が静止を促した気がするが姫崎は構わず進み続ける。近くにあった角をすぐに曲がった。


 あの男はなんだか嫌な感じがした。なんだか怖く感じてしまった。理由はよくわからない。ただ直感がそうだと告げてくる。

 それに男が大きな声で喋った時、何だか嫌な人被って見えた。その嫌な人が誰かはわからない。ただその人とあの男が重なって見えてしまった。


 体は不調のためすぐに速度が落ちていく。無理に体を動かしたからより一層疲れが増してきた。

 それでも足はたとえゆっくりでも進んでいく。体が先へと行こうとする。先に行ったところで解決するわけじゃないのに。


 ふと顔をあげると1人の人影が見えた。


 その人影は姫崎に気づいたようでゆっくりと歩いてくる。


「大丈夫か?平気か?」


 その人影は姫崎の表情を窺いながらゆっくりと手を差し伸ばしてくる。


 この人は誰かわかる。意識は朦朧としているのに声でその姿で頭がその人だと判断する。


 姫崎は差し伸ばされた手を優しく、しかし確かに掴んだ。

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