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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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2学期の始まり


 夏休みが明け、学校に登校しなければならない始業式。拓哉は夏休み以前と同じように登校していた。

 学校に近づくにつれて生徒が多くなっている。その人達は学校に行かなくてはいけないという気持ちからか肩を落として歩いているものと友人と思われる人と楽しそうに話している人に大きく分類できた。


「久しぶり。道原」


 教室へと向かうため階段を登ろうとすると炭谷に話しかけられた。

 炭谷は夏を満喫したのか少し肌が焼けて焦茶色になっている。


「久しぶり」


「ちょっとお前に言わなきゃいけないことがあるんだ」


 炭谷は態度を改めながら言う。炭谷の様子が口を閉じて出し渋っているように拓哉は感じた。


「どうした?」


「実はな、俺......」


 炭谷はまた口を閉じて一度言葉を止める。


 そんなに言いにくいことなのだろうか。無理には言わなくてもいいのだが。


「俺、彼女ができたんだ」


 炭谷は一変して幸せそうな顔を浮かべる。拓哉は思わずため息が出そうになった。


 今までのためは一体何だったのか。言葉を勿体ぶっていたのに中身は思ったよりもでなんだか気が抜けてしまう。

 これも夏休みにちょっと重めの話を何度も聞いたからこんなことになってしまっているんだろう。


「おめでとう」


「ありがとう。それで悪いんだけどこれからは一緒に飯食べれそうにないわ」


 炭谷は両手を合わせて「すまん」と言う。


「別にいいよ。彼女と食べるんだろうし」


「そう。だからごめんな」


「だからいいって。せいぜい彼女大事にして振られないようにな」


 昼食を1人で食べるとなると少し寂しくなるなみたいな気持ちも拓哉にはあったがそれよりも友人の幸せの方が大切だ。


「道原も彼女作れよ。いいぞー付き合うってのは」


 炭谷はよっぽど嬉しいのか自慢したいのか教室に向かっている途中にうんうんと頷きながら言う。

 しかし、作りたいからと半端な気持ちで彼女は作るようなものではないと思うため拓哉は適当にあしらった。


 教室まで炭谷とやり取りをしているとすぐに目の前までついた。


 何だか教室を行き来している人が多い気がする。

 きっと久しぶりに会う友達に会いに違うクラスからも来ているのだろうと考えながら炭谷と教室に入った。


 教室内はクラスの半分くらいの人が登校しており、賑やかになっている。

 その中の一部の者達が時々一点に視線を向けているような気がする。


 拓哉は自席について座るとすでに隣の席に座っていた生徒に話しかけられた。


「なぁ、道原。あれって姫崎さんだよな?雰囲気変わってめっちゃ可愛くなってんだけど」


 男子生徒はチラチラと見ながら小さな声で話す。


 拓哉は納得がいった。

 姫崎は夏休みの間に髪を切ったらしく、それによって隠れていた良さが表に出てくるようになった。

 その代わりようを見て皆んな騒いでいたのだろう。拓哉は夏休みの間に知っていたから特に何も思わない。せいぜい可愛いという意見に共感するぐらいだった。


「俺、アタックしてみようかな?」


 拓哉は一瞬モヤっとした。


 普段であれば頑張れとか気の利いた言葉をかけていたと思うが今回はそんな気にはなれない。言葉にできない何かがそんな気にさせた。


「それより、宿題終わったのか?」


 男子生徒の机の上には今日提出の課題が置いてある。拓哉はそれを見つけて話題を逸らした。


 男子生徒は「やべっ」と言って机に向かう。

 拓哉は少しほっとするような感じがしていた。


 チラッと姫崎を見ると何人かと話している。

 あまり学校で他人と話しているところを見かけないから何だか新鮮だ。


 定期的に姫崎の方を見ていると突然チャイムが鳴り響く。


「お前ら、席につけー」


 担任教師が教室に入ってきて生徒達の着席を促す。

 拓哉は時間を意識していなかったらしく時間が経つ早さを感じた。そんなに時間が経ったのだという実感がない。


 生徒全員が席に着くと始業式が始まった。


 ***


 始業式が終わると一気に生徒が騒ぎ出した。


 始業式のため今は午前中だ。早く帰れるということも相まってテンションが高くなっている人が多いのだろう。


 姫崎の席を見るともうそこにはいなかった。先に行ってしまったんだろう。

 今日は多くの人に話しかけられていたみたいだった。見るたびに誰かが側にいた気がする。


 拓哉も話しかけたい気持ちがあったがその人達を押しのけることができず、今日はまだ一言も話せていない。


 拓哉はもしかしたらまた、一緒に帰ろうといつもの場所で待ってくれているかもしれないと少し急ぎ気味になった。


 校門につくと姫崎はいつもの場所で待っていた。


 拓哉はほっとするような気持ちと嬉しいような気持ちが入り混じって笑みが溢れた。


「道原さん」


 姫崎は拓哉に気づくと振り返って歩いてくるのを待った。近くまで行くのを柔らかな笑顔で出迎えてくれている。


「一緒に帰ってもいいかな?」


「もちろんですよ」


 拓哉が尋ねると姫崎は明るい声で返事をした。姫崎の笑顔につられて顔が少しずつ綻んでいく。拓哉はそれを拒まずに素直に受け入れた。


 何故か不安になってしまって「一緒に帰っていいか」などと聞いてしまったが断れなくて拓哉はすごくほっとした。


 2人で並んで何度も通った道を歩いていく。


「今日はなんかいっぱい人に話しかけられたからびっくりしたよ」


「姫崎さんの雰囲気がだいぶ変わったからみんなびっくりしたんじゃない?」


 「そうかなぁ」と姫崎は髪の先をいじる。


「髪切っただけなんだけどなー」


「それでも、さらに可愛くなったから」


 何度見ても元々整った顔をしているのが表に出て髪といい感じに合わさって可愛さをぐっと引き上げている。

 元々可愛いことを知らなかった人が見れば衝撃を受けてもしょうがないと思う。


「に、似合ってるかな?」


「もちろん」


 姫崎は顔を赤くしながら拓哉から顔を逸らす。


 今日散々褒められただろうにまだ慣れていないのだろうか。指で毛先をこねながら俯いている。


「それより、10月には文化祭なんだね」


 姫崎は気を取り直して前を向く。


「そうだな。今月には一回球技大会っていうのがあるけど」


「そうなの?球技大会って何?」


「1日球技種目で大会を学年別でするんだよ。小さめの体育祭みたいな感じ」


 姫崎は「へー」と軽く頷いた。


 拓哉達が所属している学校は1学期に体育祭があり、2学期に文化祭と学年別に球技大会がある。2年生であればそこに修学旅行も加わる。


「それじゃあ、2学期は忙しいね」


「まぁ、そうだね」


 行事の話をしているといつの間にかいつもの分かれ道についた。


「それじゃあ、また明日。学校でね」


「また明日」


 拓哉は姫崎と別れて自分の帰路についた。


 今日で姫崎の可愛さが学校中に知れ渡っただろう。そう思うと拓哉はなんとも言えない気持ちに駆られた。

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