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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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他人からの誘い


「兄貴ー。この後時間ある?」


 拓哉は部屋で本を読んでいるとドアから紗良の声が聞こえてきた。


「とりあえず入るぞー」


 紗良は返事をするよりも早くドアを開けて部屋に入ってきた。流れるようにベッドに腰をかける。


 何か用があると部屋に勝手に入ってくるのはいつものことだから気にしていない。


「で、この後時間ある?」


「何の用?」


「夏祭り行こうぜ」


 拓哉はああ、と声を漏らした。


 そういえば今日は近所で夏祭りを開催している日だった。

 今日の祭りは毎年この辺りでは1番大きく、小規模ではあるが花火も上がるということで訪れる人も多い。


 拓哉は今年はいいかなと思っていた。

 今日は8月27日。夏休みも終盤だ。最後の思い出作りということで知り合いに会う可能性も高いだろう。

 今年の夏休みは知り合いとの外出をそこそこしたし、夏らしいこともしたのでそこまで行く気にはなってなかった。


「1人で行ってきたら?」


 紗良はあははと苦笑いしながら顔を逸らした。


「実はさ、前に兄貴の話をしたら会いたいって言ってくる友達が多くて」


 紗良はまともに目も合わせずに言う。


「何をどう話したら俺に会いたいなんてことになるんだ?紗良、お前何か話盛ったか嘘ついたろ?」


 ただ兄がいると話してそれだけで会いたいなんて言う子はそうはいないだろうと拓哉は思う。ならば、その兄が何か珍しいだとか面白いだとか思われるような有る事無い事言われているんだろうとも思った。


「お願いだよー。後生だよー。可愛い妹の頼みじゃん?」


 紗良は縋り付くような調子で言った。


「知らないよ。そもそも何を言ったらそうなるんだ?」


「さっきから私が嘘ついたみたいになってるけどさ、私そんなこと言った覚えないんだよー。兄がいるって話したら、意外だって思われたみたいで、前に家に来た時もいなかったから余計に気になったみたいなの」


 てっきり紗良に嘘つかれたと思っていたから拓哉は驚いた。


 どうやら紗良の友達は拓哉がそういないと思っていた側の人に分類される可能性があるらしい。

 それにしても紗良に兄がいることがそんなに意外だろうか。紗良は外と中で態度がガラッと変わるタイプなので兄が学校では兄がいなさそうな態度をとっているのだろうか。


「それでも俺は知らないよ。頑張ってくれ」


「別にいーじゃん。兄貴だって夏祭り行きたいでしょ?夏っぽいことしたいでしょ?」


「今年はもういいよ」


 ピロン


 行くか行かないかやりとりをしている間に拓哉のスマホが通知音を鳴らした。

 拓哉と紗良はそれを聞くなり会話をピタッとやめてスマホのほうを見る。拓哉は手を伸ばして何の通知なのかを確認した。


『道原さん。一緒に夏祭り行きませんか?』


 姫崎からそんなメッセージが送られてきていた。


 拓哉は学校の知り合いから誘われるなんて全く思っていなかったから少し目を疑った。一度目を閉じてからもう一度見ても一文字も違わずそう書いてある。


 ハッと気がついて紗良を見ると顔をにやつかせている。


「兄貴ー、どうするー?これは行くしかないよね?」


 紗良はニヤニヤと笑いながらゆっくりと語りかけてくる。


 確かに誘われていて断るのは心苦しい。ならば行くしかないが、行くと言えばついでに私の友達にも会えと紗良に言われるだろう。


 拓哉は大きくため息をついた。


「しゃーない。行くか」


「もちろん、私の友達にも会ってくれるよね?」


「会う時間があったらな」


 紗良はやったと大きくガッツポーズをとった。


 ここまできたら覚悟を決めるしかない。紗良の友達に今回会わなくても機会があればまた会って欲しいと言われるだろう。そう考えれば問題を先延ばしにしないで済むと捉えられる。


 拓哉は「問題ないですよ」という内容の文を姫崎に送った。


「それじゃ、私準備してくるから、またあとでね」


 紗良は拓哉が返事をするよりも先に部屋を出ていってしまった。


 拓哉も読んでいた本を片付けて外出の準備を始める。


 それにしても姫崎は何故誘ってきたのだろうか。

 理由なんていくつか考えられたがどれもピンとはこず、拓哉はこの謎を心の奥にしまいこんだ。

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