表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
33/71

お互いのこと


「そういえば、なんか今日知らない人が話しかけてきて......」


 姫崎がふと横を見ると道原が眠っていた。


 すやすやと小さく体を動かしている。

 今日はきっと疲れてしまったのだろう。結構な時間泳いでいたし、何か考えることもあったみたいだから。


 向こう側にある窓から外を眺めていると突然左肩に重みがかかった。

 横目で見ると道原がもたれかかってきている。姫崎は二度見するとすぐに視線を前に戻した。


 電車は小刻みに揺れていて座ったままだとバランスが崩れてしまって倒れてしまったことはわかる。だけど飲み込むことができない。

 鼓動が早くなっているのを感じる。道原の顔を直視することができない。


 少し大きめのゴトンという音とほぼ同時に道原は肩から離れていった。今度は席の端にある壁にもたれた。


 もう少しあのままでもよかったけど。ふとそう思って姫崎は顔を横に振った。

 自分で何を考えているのかわからない。でもふとあのままでもいいと思ってしまった。今でも肩にあの重みが残っている気がする。

 今日一緒にこれてよかった。理由はよくわからないけど心の底からそう思った。

 それと同時に道原の海で加藤とどこかに行って帰ってきた時の顔を思い出した。

 一体何があったんだろう。あの時道原は張り詰めた顔をしていた。行く前にはそんな雰囲気なかったのにそんな顔で帰ってきたのだから驚いた。


 そしてもう一つ姫崎は思い出した。


「ごめん。道原さん......」


 姫崎は小さな声で謝った。


 実は道原が忘れ物を取りに行った時姫崎はどうしても気になって跡をつけた。悪いような気がしていたのに衝動を止められなかった。

 自然と視線が下に落ちていく。


「ごめん......」


 姫崎は小さな声でもう一度謝った。


 ***


「ごめん......」


 拓哉は目を覚ますと姫崎の声でそんな言葉が聞こえてきた。

 もたれかかっていた体をゆっくりと起こす。

 姫崎は俯いていて拓哉が起きたことに気がついていない様子だ。


 いつの間にか眠っていたらしい。姫崎が何か話していた気がするのに途中で寝ていたなんて我ながらひどいと拓哉は思う。

 だから謝るべきは自分だと思うのだが姫崎は何故謝っているのか不思議だと拓哉は思った。


「ごめんって何が?」


 拓哉は思ったことをそのまま口にした。


 ***


「ごめんって何が?」


 姫崎は声が聞こえるとビクッと体を動かして横を見た。道原がじっと姫崎を見ている。


 気が付かなかった。驚きのあまりうまく言葉が出てこない。


「ああ、さっきまで寝てたみたいで。ごめん」


 姫崎が返答を考えていると道原が口を切った。


 何故道原が謝るのか姫崎にはわからない。でも、気にして謝ってくれたのだから自分もちゃんと話すべきだと姫崎は思った。


「その、ごめんなさい。実は先に行っててって言われた時ちょっとついていってたの」


 姫崎の言葉を道原はじっと聞いた。


「加藤先輩と会って話しているとこまで見てた。何話してるかは聞こえなかったし途中で離れたけど」


 最後まで聞くと道原は目を伏せて何か考えているような様子をみせた。


 2人が何故会って何を話しているのかわからなかった。でも自分に内緒で2人で会って話している様子を見ていると何だか苦しくなって姫崎は逃げ出した。苦しくなった理由はわからないけど。

 自分のことながらひどいと姫崎は思う。勝手に見ておきながら苦しくなったなんて。


「仕方ないよ。確かにあの感じじゃ気になるよね」


「え?」


「内容は知らないんだよね?」


「うん......」


「じゃあ、俺から言うことはないよ」


 思わず立ち上がりそうになった。


 本音を言うと姫崎は嫌われてしまうんじゃないかって怖かった。

 勝手にあとをついていったのだから何か責められることは覚悟していた。でも道原は微笑みを浮かべながら許してくれている。それがとても嬉しい。


「本当に何も言わないの?」


 姫崎は信じられなくて聞いてしまった。


「何を言うって言うの?姫崎のことは信用してるしほんとに何にも聞いてないなら言うことない」


 すごくほっとしてしまった。心の底から安堵している。


 安心すると姫崎は逆に何の話か気になった。だけど聞いてないならなんて言うからあまり人には言えないことなんだろう。それを聞くのは失礼だ。


「道原さんは好きな人とかいるの?」


 思わず口から出てしまっていた。


 何を聞いているんだろう。実は2人は付き合っているんじゃないかって思ったせいでそんな質問が出てきてしまった。


「いないけど、ずいぶん突然だな」


 それを聞いて姫崎は今までと心の違う場所でほっとした。何でかわからないけど、嬉しい気がする。


「姫崎さんはどうなの?」


「え、いないよ。全然いない」


 いきなりの質問で驚いてしまった。


 少しの間沈黙が流れた。

 自分がこんな質問をしてしまったがためにと後悔する心もあるが聞いてよかったと思う心も姫崎にはあった。


「姫崎さんって何か好きなものとかってある?」


 雑談していると突然道原がそんな質問をしてきた。


「どうして聞くの?」


「いや、そういや俺、全然姫崎さんのこと知らないなって思って」


 道原は平然とした顔で返答した。


 それはもっと知りたいということだろうか。そう考えると恥ずかしくなってきた。

 頑張って何が好きなのかを絞り出す。


「猫とかかなぁ。道原さんは?」


「俺も猫は好きだよ」


 よく考えてみたら姫崎も道原のことを知らない。そう考えるともっと知りたいという欲が出てきた。


 それからお互いに何が好きか話していると目的の駅についた。電車を降りて駅の外に出る。


「今日は楽しかったね」


 姫崎は今日の話をしてさっきの話題から逸らした。


 道原がどうなのか聞いている時は楽しかったが、話している時どう答えるか考えるのが大変だった。

 そしてずっとあの手帳が頭の片隅にあった。


「それじゃあ、また」


「またね」


 手を振って道原と別れる。


 姫崎は次はいつ会えるだろうと心の奥でワクワクしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ