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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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始まった海での話


 時間が経つにつれて段々と人が増えていく。


「そろそろ、みんな来ると思うよ」


 加藤は海の中ではしゃぐ人々を見ながらゆっくりと近づいてくる。


 ゆっくりと波打つ海でそれぞれの人が自分達の世界に夢中になっている。

 拓哉は泳ぐのがあまり得意ではなく、日差しも強く海に入るような気分ではなかった。今はレンタルのパラソルの下で日差しを避けている。


「君たちは海に入らないの?」


 拓哉の横には姫崎が座っている。布を一枚羽織って小さくなっている。


「みんな来てからでいいんじゃないですか?」


 人が全員集まっていないのに先に楽しんでいるのは気が引けるところがある。それ以前に入りたくないような面もあるのだが。


「みんな海には着いたみたいだから、もう合流できるよ」


 加藤は通知オンのなったスマホを見ながら言った。


 拓哉は「そうですか」と言って立ち上がる。


 どれぐらいの人数が来るのだろう。行けるか行けないかのどちらかしか聞かれておらず、聞いてもいないからよく知らない。


「喉乾いたんで何か買ってきます。欲しいものとかあったらついでに買って来ますけど何かあります?」


 拓哉が質問すると加藤は顎に手を当てて考えた。


「今は特にないかな」


「姫崎さんは?」


「えっと、私は」


 姫崎は膝を抱えながらゆっくりと口を開く。


「何か欲しいものがあるんだったら、一緒に行ってきたら?ここは私がいとくから」


 加藤が姫崎が結論を言う前にそう言ってきた。


 姫崎は何か悩んでいる様子だったしついていってついでに何か買うことを進めてくれたのだろう。

 そうすると、加藤はここに誰かがいなくては合流することはできないから移動できずここでずっと待つことになる。


「1人で大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。それより行ってきなよ」


 加藤は笑いながらそう告げる。気を使わせないように振る舞ってくれているのだろう。


 姫崎は「すみません」とゆっくり立ち上がってから言った。


「それじゃあ、ちょっと行ってきます」


 拓哉はそう言うと海岸とは逆方向に歩き出した。


 拓哉は海の家の横に並んでいる自動販売機の前で足を止める。


 ざっと何があるのか見てみるがこの中だと今はサイダーが飲みたい気分だ。というか一体誰がここに自動販売機を設置しているのだろう。

 小銭を入れてサイダーのボタンを押す。ゴトンという音とともに目当てのものが出たきた。


「それで、姫崎さんは何が欲しいの?」


「あ、えっと......」


 姫崎は少しもじもじしている。何か伝えにくいものなのだろうか。


「私も何か飲み物が欲しくて」


「そっか。じゃあどこか海の家でも行こうか」


「どうして?私も自販機のでいいよ」


「せっかく海来たのに自販機は何か勿体無いでしょ」


「それなら道原さんはどうなんですか」


 姫崎はふふっと笑う。


 笑ってくれてよかった。

 姫崎はおそらく緊張していたのもあったのだろう。それでどうしようかと悩んでいたのもきっとあったと思う。これで少しはほぐれたのならいいのだが。


「加藤さん待たせてしまうのも悪いし、今はここのでいいよ」


「そっか」


 姫崎は財布を取り出して飲み物を購入する。買ったのは拓哉と同じサイダーだった。


「じゃあ、戻ろうか」


「うん」


 姫崎は返事を聞くと拓哉は2人並んで歩き出した。


「おかえり。君達が買ってる間に皆んなきたよ」


 元の場所に戻ると加藤が2人に気づいて話しかけた。

 加藤の前には複数人立っている。人数は8名。今日は拓哉達を含めて11人で遊ぶ話だったらしい。

 図書委員で集まると言う話だったが図書委員は20人くらいいるから集まったのは半分よりも少ないぐらいだ。

 拓哉が知っている人は3人いるがそのうち2人は話したことがほとんどないので知らないに等しい。


「さーて、今日は遊ぼう!」


 加藤が大きく言うとこの場にいる人のほとんどが「おー」と言った。拓哉はこういったノリを経験することが今まであまりなかったから乗り遅れた。


 開始の掛け声が終わるとそれぞれが自分が思うように動き始めた。

 早速海に駆け込んでいく者もいれば、浮き輪を膨らませている者、何かを買いに行く者と自由に動き出している。


「統率はないんですね」


「やっぱり、自分がやりたいことやるのが1番だからね」


 拓哉は「はー」と言って海の方を見る。人が多くて今日集まった人を見失ってしまった。


 加藤は女友達に「一緒に行こう」と誘われると即了承して海に向かった。


「道原さん。お久しぶりです」


「あ、うん。久しぶり」


 拓哉は隣に立っていた1人の女子に話しかけられた。声の主は浅羽梨華。彼女も今日誘われたうちの1人のようで拓哉が唯一今日来た中で知っていた人物。


 拓哉の周りには今、姫崎と浅羽しかいなかった。他の人達はもう行ってしまったようで、この3人は意図的なのかそうでないのかわからないがこの場に残されている。


「久しぶり」


「あ、あの、こちらの方は?」


 浅羽の視線はは姫崎と拓哉を行き来している。


 そういえば浅羽と姫崎は拓哉が知っている範囲では面識がなく、お互い知らない人だろう。


「ああ、俺と同じクラスの姫崎さん」


「初めまして、姫崎愛菜です」


「は、初めまして。浅羽梨華です」


 お互い一歩引いたような感じで自己紹介をした。


 初めて話すからか緊張が見て取れる。拓哉にはどうしたらいいのかわからない。


「ど、どうかしました?」


 姫崎が気を使う感じで尋ねる。

 浅羽は気がつけば姫崎のことをじっと見ていた。


「あ、ごめんなさい。海、入られないんですか?」


「えっと、今はちょっと」


 互いに絶妙に目を合わせずに会話している。


 海に入る気にもなれない拓哉はどうすればいいのか誰かに尋ねたい気持ちになった。

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