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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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街を出て向かうは海


「お待たせー」


 姫崎は少し大きめのリュックを抱えて拓哉に近づいて言う。


 拓哉は今駅前にいる。

 姫崎とご飯に出かけてから1週間、今日は加藤が海に行こうと誘われ指定された日だ。


 海に行くには電車に乗って行かなければならない。そこで家も近く同じ電車に乗るなら一緒に行こうと姫崎に誘われてここにいる。


 何故か最近定期的に来ているからか駅前の風景もだいぶ見慣れてきた気がする。


「それじゃあ、まだ早いけど行こうか」


 拓哉はそう言うと姫崎と並んで駅の中に入っていった。


 駅の中は人口密度がそれなりに高く、多くの人が改札から出口までを行き交っていた。

 拓哉達は改札を通って駅のホームに向かう。


 待ち合わせの時間自体が早めに設定されていたし、2人ともその時間よりも早く来たせいで時間にはそれなりに余裕がある。


「ついさっき電車が出たみたいだね」


「そうだね。時間にはまだ余裕があるな」


 拓哉達はホームにある椅子へと腰をかける。


「私、あんまり海行ったことないと思うんだけど、これから行くところはどんなところなの?」


 姫崎が顔を拓哉に向けて話しかけた。


 行ったことがないと思うとはどういうことだろう。どれぐらいからよく行く判定になるのかわからないけど、そこまで保険をかけなくてもいいと思うが。


「普通によくある海水浴場だよ。ここら辺からだと1番近いから、この辺の人がよく行くぐらい」


「へー、そうなんだ」


 それから少し話をしていると電車がやってきた。


 電車から出てくる人を待ってから中に乗り込む。

 電車内には席の半分ぐらいの人がいたが2人分座るスペースは空いていた。2人並んで席に座る。ドアが閉まるとゆっくりと加速をかけながら電車は動き出した。


「何だか、緊張してきたよ」


「何で?」


 姫崎は周りに人もいるし電車内のため小さな声で話しかけてきたので拓哉も小さな声で返した。


「色々、そう、色々ね」


 姫崎はそう言いながら顔を晒す。


 知らない人もいるらしいし、というか確実にいるし緊張するのも無理ないだろう。


 それ以降はマナーを守ってあまり会話することはなかった。


 目的の駅に着くと席から立ち上がり、電車を出る。そのまま真っ直ぐ改札を抜けて駅を出た。

 海が近いからか微かに潮の香りがする。


「やっと着いたねー」


 姫崎は大きく体を伸ばす。


「まだ少し時間あるけどどうする?」


「先に入ってちゃだめかな?」


 拓哉が尋ねると姫崎は少しワクワクしたような顔で返事をした。


「楽しみになってきたの?」


「うん。えーっと、海なんて来ないから」


 拓哉も海には普段行かないから気持ちはわからなくもない。やっぱり珍しいから気持ちは少し前に出てしまう。先のことを考えると打ち消されるが。


「そうだな。先に行っておくか」


 拓哉達は海水浴場へと向かった。


 気持ち同じ方向に歩いている人も多い気がする。気のせいではあるだろうが。


「あれ、早いね。集合時間までまだあるよ?」


 向かっている途中後ろから声がしたので振り返ってみると加藤がいた。


「そういう先輩も早いですね」


 拓哉が言うと加藤は「まあね」と軽く笑って返した。


「そっちの子はもしかして姫崎ちゃん?」


「はい、そうです」


 姫崎が答えると加藤は大きく口を動かして「やっぱり」と言った。


 尋ねてしまう気持ちもわかる。姫崎は髪を切ってだいぶ印象が変わった。変わったといっても隠されていたものが表に出てきただけだが。


「髪、切ったんだね。すっごく可愛いよ」


「あ、ありがとうございます」


 姫崎は少し引っ込みながら言うとチラッと拓哉の方を見た。


「道原くんもそう思うよね?」


「もちろん、そう思いますよ」


 拓哉が答えると姫崎の顔は少し赤くなった。


 そこまで褒められ慣れていないのだろうか。恥ずかしそうに縮こまっている。


「あ、あの、加藤さんも一緒に行きますか?」


「え、いいの?」


 加藤は不思議そうに聞き返す。


「えっと、それは、だ、大丈夫です」


「そっか、それじゃあもうすぐだし、一緒に行こうかな」


 加藤は一度拓哉を見てから答えた。


 まぁ、海水浴場はもうすぐだし、ここで別れるのは逆に難しいだろう。他に用事がなければ遠回りをすることになる。


 拓哉達は2人だったところが3人になって海水浴場へと再び歩き出した。

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