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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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家で勉強会


 拓哉は今マンションの前に立っていた。


 拓哉の家で勉強するような話になったが、せっかくやるならまだ終わっていない宿題をやりたいとのことで姫崎が住んでいるマンションに寄っていた。


 部屋の番号まではわからないが姫崎の家の場所を知ってしまったなと拓哉には申し訳ないという気持ちと何故か少しドキドキしている気持ちが入り混じっていた。


「お待たせ。ごめん、遅くなって」


 姫崎はカバンを肩にかけてマンションから出てきた。


「そんなに待ってないって」


 拓哉が笑いながら言うと2人並んで歩き出した。


 先程まで大丈夫だったがいざ行くとなると何だか少し不安になってきた。

 家にあげられない事情ないし、見せられないものがあるわけでもないから問題はないと拓哉は無理やり振り払う。

 何か悪印象でも与えなければいいが。


「ここだよ」


「へー」


 歩き続けると拓哉の家に着いた。


 姫崎は何故かじっと家を見つめている。

 何か気になるところでもあるのだろうか。


「どうかした?」


「いや、一軒家なんだなって」


 拓哉はああ、と頷く。


 姫崎はマンション住まいのようだったから、一軒家について何か思うところがあるのだろう。

 マンションに住んでいることはさっき知ったのだが。


「どうぞ」


「お邪魔します」


 玄関のドアを開けて入ると姫崎は後ろからゆっくりと入ってきた。


 丁寧に靴を並べて家の中に上がる。


「おおー、兄貴おかえり」


「ただいま」


 リビングに行くと紗良が食事を取っている。


 紗良は拓哉を見るとピタッと固まった。

 原因は拓哉の後ろに立っている姫崎だろう。拓哉が今まで誰かを家に呼んだことはほとんどないし、それもいきなりだったから驚くのも無理はない。


「あ、お邪魔します」


 姫崎は前に出て丁寧に挨拶した。


 紗良はその様子を見てもまだ固まっている。動き出すと拓哉に近づいた。


「兄貴、ちょっと来て」


 紗良は耳元で小さく呟く。


 一体何の用だと思いつつ姫崎に「ちょっと待ってて」と言って紗良の後を追った。


 紗良はリビングを出て廊下の端の方に着くと立ち止まって振り返った。


「兄貴、あの人誰?」


「誰って、俺の知り合いだよ」


「へー、そうなんだ。じゃなくて、あの人めちゃくちゃ可愛いじゃん。兄貴にそんな知り合いいたの?」


「そんなに長い付き合いじゃないよ」


「で、一体何の用で連れてきたの?まさか......」


 紗良は怒涛の勢いで質問してきたと思えば、そう言って突然絶句した。


 何を考えているかわからないが絶対に勘違いしている。


「勉強を一緒にしようってなって、場所がなかったからうちを提案しただけだよ」


 拓哉が簡潔に説明すると紗良は表情を戻して「なーんだ」と言った。


 変わり身の速さには驚くが普段のような表情に戻ったが誤解は解けたと思ってもいいのだろうか。


「じゃあ、兄貴。あれをする出番が来たってことだぜ」


「あれって何?」


 紗良はニヤリと笑う。


 何だか嫌な予感がする。というかこういう場合、紗良が言うのは大体拓哉にとって悪い冗談だ。


「何って、そりゃ兄貴が執事するのよ」


「あれ、まだ諦めてなかったの?」


 紗良はもちろんと言わんばかりの顔を見せる。


 執事をするというのは前に紗良の友達が遊びに来た時してくれないかと頼まれたものだ。すっかり忘れてるものだと思っていたがどうやらまだ覚えていたらしい。拓哉はとうに忘れていた。


「しないからな」


「えー。いいとこ見せるチャンスじゃん。かっこよくて何でもできる優しい執事は女子に人気出るよ。漫画とかアニメのキャラがそうだし」


 それは漫画やアニメのキャラがそうなだけであって現実の人ではまた変わってくるだろう。


「とにかくしないぞ。そっちがメイドでもしてみたらどうだ」


「それは嫌」


 拓哉が少し嫌味らしく言うと紗良はむすっとした顔をした。


「仕方ない。じゃあ、待たせるのは失礼だしそろそろ戻るか」


 紗良はそう言い放つと振り返ってさっさと戻ってしまった。


 元はと言えば紗良が呼び出したせいで待たせているのだが、紗良がマイペースなのはいつものことなので考えないことにする。


 拓哉もすぐにリビングに戻った。


「ごめんなさい。お待たせして」


「全然大丈夫ですよ」


「そうですか。ならよかった」


 紗良は姫崎に話しかけたが口調がいつもと違っている。

 おそらく外面を意識してやっているのだろうが帰ってきて1番のいつもの最初の喋り方は聞かれていたので今はない気がする。


「ところで、失礼かもしれませんけど、私のあ、兄さんとはどのような関係で」


「え」


 紗良がいきなりな質問をした。姫崎は明らかに返答に困っている。


「え、えーっと、友達です」


「そうなんですか」


 姫崎が少し俯きながら答えると紗良は軽く返事をして拓哉の方を見た。ニヤニヤとした表情を浮かべている。


 これはまた勘違いしているだろう。最近仲良くなった人とどうかといきなり聞かれてもどのように答えればいいか迷うのは変なことじゃないだろう。


「それじゃあ、私はこれで。ごゆっくり。私は部屋で作業しますので」


 紗良はそう言うと皿を片付けて部屋に戻っていった。

 作業といってもいつも通り趣味に耽るだけだろう。


「いい子だね」


「まぁ、そうかもね」


 いい子であることは否定できるはずもなく拓哉は笑いながらそう返した。


 勉強自体はリビングにあるテーブルで行ったが何事もなく捗った。あれ以降は紗良は降りてはこなかった。


「もう4時か」


 時計を見ると針は4時10分を指している。


「本当だ。私、そろそろ帰るね」


 姫崎は時計を見るとそう言って片付け始めた。


「今日はありがとう」


 姫崎は玄関で満面の笑みでそう言った。


 拓哉自身も楽しかったのでお礼を言われるようなことではないが素直に受け取ることにした。


「こっちも楽しかったよ。送っていこうか?」


「・・・じゃあ、お願いしてもいいかな?」


 姫崎は少し目を逸らしながら返事をした。微笑んだような顔をしている。


 拓哉は靴を履いて姫崎と一緒にあのマンションに向かった。


 マンションには雑談していたらいつの間にか着いていた。

 楽しい時間が過ぎるのはあっという間だ。


「それじゃあ、また今度」


「うん。また今度ね」


 姫崎は軽く手を振ってマンションに入っていった。


 拓哉は今日1日のことを振り返りながら来た道を戻っていった。

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