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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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今日の予定の決まり方


 目が覚めるとカーテンの隙間から日がさしている。時間を見ればちょうど7時半。いつも通りの朝だ。

 夏休みに入って今日で17日目。もうすぐ半分かという頃。いつもより遅く目が覚めるのにだいぶ慣れてきた。


 拓哉はまだぼんやりとした視界で一階へと降りた。

 あくびを2、3度挟みつついつものルーティンをこなす。こなしている間リビングには拓哉しかいない。

 両親は今日も仕事でもう家を出ている。紗良はいつもこの時間は起きてるから部屋で何かしらしているのだろう。

 拓哉もいつもなら部屋に戻って1日趣味に耽るところだが今日は出かける支度をしなければいけない。


 昨日の夜姫崎から出かけないかと誘われた。スマホで連絡がきたわけだがものすごい敬語だった。あまりスマホでやり取りすることがなかったのかと思うほどに。

 内容は至ってシンプルでご飯を一緒に食べないかというもの。その割にすごい堅苦しかったので何かあるのかと考えてしまうが杞憂だろう。

 拓哉は部屋に戻って着替えを済ませると適当に時間を潰した。



***


 駅前は今日も今日とて賑わっている。

 夏休みにここに来ることは今までほとんどなかったため今年は割と外に出てるなと実感する。


 拓哉はいつものように集合時間15分前には着いていた。これはどうしようもない拓哉の性質なので別に何も思っていない。


「道原さんおはよう。早いね」


 拓哉が適当にスマホでニュースを眺めていると前から姫崎が衝撃と共に歩いてきた。


「おはよう姫崎さん。髪切った?」


 「切った?」なんて聞いたがどう見ても切っている。今まで顔を隠していた髪がなくなってだいぶ明るい印象を帯びていた。


「そうなんだ。どうかな?」


「すごい似合ってるよ。結構明るい感じにしたんだね」


 自信なさげに質問した姫崎に対して拓哉は思ったことを口にした。

 一瞬誰かわからなくて戸惑ったレベルで雰囲気だ。正直拓哉はドキッとした。

 姫崎のビジュアルの良さが全面に押し出されていて誰から見てもそれが伝わるようになっている。

 これなら夏休みが明ければ男子の多くは姫崎の話をすることが多くなるだろう。そう考えれば拓哉は少しモヤっとした。

 そんなことより何故急に髪を変えたのだろう。聞きたいがそれは野暮だと思って拓哉は聞けなかった。


「ご飯食べるって話だったけど、どこで食べるの?」


 姫崎は拓哉の言葉を聞いて唖然としている。


「もしかして決まってない?」


「どうしよっか?」


 姫崎は苦笑いしながらこちらに尋ねてくる。


 誘われた側だから大丈夫だろうと思ってそんなことは全然考えていなかった。


「一緒に行けるだけで......」


 姫崎の声はそこから先はうまく言葉になっていなかった。というかわずかに口が動いただけに見えた。


 何にせよどうするのだろう。考えてみてはいるがあまり外食しないためいい店はあまり思いつかない。


「道原さん、どこかある?」


 ないと考えている矢先にそれを指摘する質問が飛んできた。


 拓哉はもう一度考えてみると一軒だけ思いついた。

 そこであれば問題は起きないだろう。


「食べられないものってある?」


「何でも食べられるよ」


「なら、一軒だけあるよ」


 姫崎は「じゃあそこにしよう」と言って早く行こうと目で伝えてきた。

 拓哉は笑みをこぼしながらその店に向かって案内を始めた。


 着いた店は[晴天]という名前の喫茶店だ。この辺りの喫茶店では有名な方で店主が作る料理が絶品だった。

 1年ほど前に来たのが最後だったが外観は全く変わっていない。少しおしゃれな雰囲気を帯びている一軒屋がそこには立っている。


 店の中に入ると席の半分ぐらいが埋まっていた。

 誰もいないテーブル席を見つけると拓哉達はそこに座る。


「何頼もうかな。道原さんはどうするの?」


 姫崎はメニューを見ながら拓哉に尋ねた。


 何を頼むかはサンドウィッチに決まっている。久しく来ていなかったから美味しかったのは確かだがよくあれの味を覚えていない。だから久しぶりに食べたくなった。

 この店は個人が経営しているからなのかメニューはさほど多くない。どれも味は確かだが。


「俺はサンドウィッチにするよ」


「じゃあ私も同じの頼もうかな」


「いいの?他にも美味しいのあるよ?」


「うん。初めてのところだから何がいいかわかんないし、道原さんが頼むなら美味しいだろうし」


 姫崎は満面の笑みで拓哉に言う。


 本人がそう言うのであれば問題はない。

 拓哉は店員を呼んで注文をした。


「加藤さんに来週海に行かないって誘われたんだけど、道原さんも行くの?」


 料理が届くのを待っていると姫崎が突然尋ねてきた。


 こちらも行くのかと聞かれているということはそれは拓哉も知っているものだろう。

 2日ほど前に加藤から拓哉に連絡がきていた。終業式に言っていたものの日程があらかた決まったらしく、来れるか確認を取るものだった。

 海に行くと言うのも同じなのでこれのことを言っているのだろう。

 正直迷ってはいる。大人数でどこかに遊びに行くというのはほとんどしたことがない。それに加えて、あまり知らない人もいるらしいからどうしようか悩んでいる。


「私、図書委員でもないし悩んでるんだよね」


 姫崎は拓哉が返事を考えていると口を開いた。


「それは違う人も来るって言ってたし、気にしなくていいんじゃない?」


「でも、私のことなんて知らない人がほとんどだろうから迷惑かなって」


 姫崎は少し目を伏せる。


 確かに姫崎のことを知っているのは少人数かもしれない。なかなか覚悟が決まらないのもよくわかる。


「それで、道原さんは来るのかなって」


 姫崎は拓哉の顔をじっと見る。


 どう答えるのが正解なのだろうか。拓哉は予定自体は空いてるので行くことはできる。だがしかし、知り合いがほとんどいないところに行くのは少々躊躇ってしまう。


「姫崎さんは行きたいの?」


「え。・・・今は道原さんの話をしてるんだよ」


 話をすぐに戻されてしまった。

 どうしよう。何も言われなかったら何となくで誘いを受けていた気がするが聞かれると悩んでしまう。

 姫崎はじっと見つめてくるしどっちの答えを求めているのだろう。


「えーっと、俺も悩んでるんだよね。どうしようかなって」


「そうなんだ......」


「まぁ、今のままだったら行くかな、たぶん」


 あちら側が善意で誘っているとわかっている以上断るのは気が引ける。誘いやお願いを断ったことなんてほとんどなかったし、今回も例に漏れず多分行っただろう。そしてあとから行ったことを多少後悔していた気がする。


「じゃあ、私も行こうかな。道原さんがいるなら心強いし、せっかく誘ってくれたのに断るの申し訳ないしね」


「いいんじゃない」


 拓哉はうんと頷いた言われて少し嬉しくはあるが自分1人いたところで心強いかはよく分からない。

 姫崎の顔が少し明るくなった気がする。


 視線をカウンターの方へ目を向けるとちょうど店員が料理を持ってきてくれていた。そしてあの店員見覚えがある気がする。


「水田」


 拓哉はその店員が近くに来て確信した。


「道原。久しぶりだな」


 水田は驚いた表情で言った。

 拓哉も驚きを隠せなかった。こんなところで会うとは万が一にも思っていなかったから。


「ここでバイトしてたんだな」


「ああ、ちょっとな。俺、仕事あるから戻るな。ごゆっくり」


 水田は店員らしい一礼をするとすぐに戻っていった。

 水田がバイトしているなんて知らなかった。それに加えてここでしているのだから本当にびっくりした。


「さっきの人は?」


 姫崎は不思議そうな顔を拓哉に向けている。


「友達だよ。それじゃあ料理もきたし、食べようか」


 姫崎は頷くと「いただきます」と言いサンドウィッチを食べ始めた。拓哉もそれに続いて食べ始める。

 食べていると味は変わっておらず少し懐かしい感じになった。


「さて、これからどうする?」


 食事が終わり会計を済ませて店を出ると拓哉はこの後の予定を聞いた。

 この後何をするのか知らない。そもそもどこの店に行くかすら決まっていなかったのだからこの後の予定なんて決まっているのだろうか。


「どうしよっか?」


 姫崎は苦笑しながら聞いてくる。


 やはりノープランだったらしい。


「ごめん」


「いいよ。決まってないならこのまま帰る?」


「えっと、それは......」


 姫崎はなんだかあたふたしている。

 何か用事でもあるのだろうか。


「何か用でもあるの?」


「えっと、それはないんだけど......」


「?」


「そうだ。これから勉強会しようよ」


「別にいいけど、どこで?」


「そうだ。私の家近いし、うち来る?」


 あまりに急な誘いで拓哉は驚いた。

 姫崎も何だか取り乱しているような様子だしきっと言葉のあやだとわかっていても驚いてしまう。


「遠慮しとくよ。俺みたいなやつをいきなり家にあげるなんて姫崎さんも困るだろうし」


「いや、そんなことないよ。ぜひ来て」


 拓哉はまたも驚いた。女の子に家に誘われるなんて初めてだからどうしていいのかわからない。


「そ、それじゃあ、うちに来ない?うちもそんなに遠くないし」


 我ながら何言ってんだろうと拓哉は思った。

 別に拓哉自身は家にあげることに抵抗はないがいきなり男の家に行くなんて姫崎が嫌だろう。

 焦って言う前に冷静な判断が出来なかった。


「いいの。じゃあそうしよう」


 姫崎は両手を合わせて明るい顔で言った。


 まさか承諾されるなんて思っていなかった。


 今家には両親はいないが紗良がいる。冷やかされそうだが言ってしまったし、そうしようと言われたのでもう後に引けない。


 拓哉達は目的地に向かって歩き出した。

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