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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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美しいまでの絆


 昨日と同じ時間に駅前に拓哉は着いた。


 昨日よりも若干人通りが多い気がする。子供連れの人は明らかに昨日より多い。


「道原さん」


 拓哉がスマホを眺めていると姫崎が話しかけてきた。

 昨日の夜「私もついていっていいかな?」と聞かれたのだがもちろん拓哉に決めることはできない。だから本人に聞いて欲しいと答えたら「じゃあ私も待ち合わせ場所に行ってそこで聞くよ」と言われた。

 姫崎も杉宮の連絡先は勿体無いらしい。心配なことはわかるが素晴らしい行動力だなと拓哉は思った。


 5分ほど2人で雑談していると少し先に杉宮の姿が見えた。


「先輩。おはようございます」


 杉宮は目の前にくると丁寧に一礼をした。顔をあげると視線を拓哉からゆっくり姫崎へずらしていく。


「急に来てごめん。私もあの子がいじめられてるところ見たことがあるから、すごく心配だからついてっていいかな?大丈夫。絶対邪魔しないから」


 杉宮は「大丈夫ですよ」と笑顔を作って言った。


「私1人で行くべきところを怖くてついてきてもらうんですから。居てもらえるなら心強いです。それにあの子を心配してくれているのなら私が止めれることじゃありません」


 1人で行くべきと言われてしまったら拓哉には否定することはできないが、出来そうにないことをやるために他の人に背中を押してもらうのは悪いことじゃないと思う。


 拓哉たちはすぐに中橋の家へ向かった。


 ピーンポーン


 中橋の家についてインターホンを押す。

 後ろを見ると杉宮は姫崎の背後に隠れていた。


 今日あの母親が家にいるかはわからない。母親じゃなくてもいいが誰かが居てくれなくては今日来たのは無駄足になってしまう。それは出来れば避けたい。


「はーい。あれ、あなたは昨日の」


 少し経った後、インターホンから声が聞こえてきた。昨日と同じものだ。

 姫崎と杉宮はインターホンに付いているカメラに映らない位置に立っているから中橋母は気づいていない様子だった。


「すみません。連日お尋ねして。今日はお願いしたいことがありまして」


「あら、何かしら」


「娘さんに一目だけ合わせて頂けませんか?お願いします」


「・・・とりあえず上がって。鍵は開いてるから」


 ガチャっとインターホンが切れる音がした。

 拓哉たちはドアに向かって歩いた。


 ドアを開けると中橋母が立っていた。


「!あなたは」


 中橋母は拓哉の後から入ってくる人物を見て驚いた。


 それはそうだろう。インターホンで見た時はいなくて来ると思っていなかった知り合いが訪れたのだから。


「鈴ちゃん!」


 中橋母は手を口に当てている。よほど驚いたのだろう。

 杉宮はおずおずと後ろから前へ出ていく。


「お願いします。綾子ちゃんに合わせてください。伝えないといけないことがあるんです」


 杉宮は深々と頭を下げた。

 中橋母はその様子にも驚いたようで固まってしまったようだった。杉宮は返事が来るのを頭を下げながら待っている。


「もちろんよ。私からもお願い。あの子に会ってあげて」


 中橋母は落ち着きを取り戻して微笑みながらそう言った。

 杉宮は頭を上げた後また一度「ありがとう」と頭を下げる。

 ここで断られることも覚悟していたのだろう。杉宮の目に少し涙が浮かんでいるようにも見えた。


 靴を脱いで上がると杉宮を先頭にして階段を上がった。2階は昨日と同じような空気が流れている。


「綾子ちゃん......」


 杉宮はドアに向かってポツリと呟いた。


 拓哉たち3人は離れてその様子を窺っている。


「ごめん。本当にごめんなさい」


 杉宮はドアに向かって頭を下げる。声は絞り出しているように感じる。

 ドアの先から返事はない。


「許されないことをしたのはわかってる。それでも謝りたかった。本当にごめんなさい」


「・・・謝る?あんなことしておいて?私がいじめられてたことも知ってたくせに」


 ドアの向こうからゆっくりと重々しい声が聞こえてきた。


「ごめんなさい。そう、私は全部知ってた。あの脅しに応じたらどうなるかもわかってた」


「それなのにあんなことしたんだ」


「怖かったの。あれ以上何かされるのが」


「鈴ちゃんだけは信じてたのに」


 重いただただ重い言葉が交わされていく。聞いているだけで逃げ出したくなるような雰囲気だ。母親も姫崎も黙って見届けている。


「ごめん。結局私は自分の方が大事だった。でもあの時からずっと苦しいの。後悔してるの」


「だったら最初からそんなことやらないで!」


「ごめん。弱くてごめん。あの時からずっと苦しかった。早く謝りに行こうなんて思うだけで怖くて、行けなくてこんなに遅くなった」


 杉宮の言葉にだんだんと涙がのってきた。互いの言葉は大きくなってきてより感情を刺激してくる。


「ごめんなさい。許されないってわかってる。それでもやっぱり綾子ちゃんとちゃんと仲直りしたいって思っちゃってるの」


 中橋の頬には涙が流れている。


「もし許されるなら、今度は一緒に戦わさせて。私もあの痛みを知ったから。もう綾子ちゃんに苦しい思いをして欲しくないから」


「私あの時、信じられなかった。鈴ちゃんに騙されたなんて、裏切られたなんて信じられなかった。今度は信じていいの?」


「うん!」


 ドアが開いて中橋と杉宮は抱きしめ合った。


 仲直りは成功したみたいだ。これは2人が長年の親友であったからこそできたものだろう。もう一度互いを信じれるほど強い絆だった。


「ありがとう。道原くん。2人を仲直りさせてあげてくれて」


 中橋母は涙を溢しながら拓哉に感謝をした。


「私は何もしてませんよ」


 きっと2人は拓哉がいなくてもきっと自分達でできたはずだ。少なくとも拓哉はそう信じたい。

 杉宮はただきっかけが欲しかっただけなのだ。今回はそれが拓哉だっただけで、そうじゃなくても自分で見つけられただろう。


「それにしても無事に終わってよかったね」


 姫崎が笑顔で拓哉に話しかけた。


「そうだな」


 2人は涙を流したお互いの顔を見合わせて笑顔を溢した。



 

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