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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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唐突な訪問


 駅前に着いて辺りを見ると人々は忙しなく往来している。


 夏休みが始まって1週間。拓哉は加藤に空いている日を聞かれ、この場所に呼び出された。

 用件が何かはわからない。ただ単にきて欲しいと言われただけだった。

 ただ、大雑把にだが予想はつく。中橋に関してのことだろう。加藤が自分を呼び出すのはよっぽどのことがない限りないはずだ。

 ふと視界に見覚えのある人影が入った。夏休みだし駅前なのだからこういうこともあるだろう。しかしあの人は一体どこで見たんだったかあやふやだ。


 拓哉はポケットからスマホを取り出した。

 時刻は11時50分。加藤との待ち合わせの時間は12時ちょうどだ。

 拓哉はこういった場合人を待たせることがあまり好きではないので基本的に早く着くようにしている。

 拓哉は画面を切り替えてニュースを流し読みした。


「ごめん。待った?」


 声が聞こえた方を見ると加藤が立っていた。

 時刻は12時。待ち合わせちょうどの時間だ。


「そんなに待ってないですよ」


 事実待った時間は10分ほどでそこまで待たされていない。


「そこは嘘でも今来たとこっていうところでしょ」


 加藤は若干笑いながらつっこんだ。


 それは現実でもいうことなのか。そういうことはアニメや漫画などの創作物の中だけの話だと思っていた。


「まぁ、いいや。ついてきて」


 加藤は振り返って歩き出した。


 当然拓哉はどこに行くかは知らない。言われた通りに加藤の後ろをついていった。


 ピーンポーン


 加藤がインターホンを押した。


 ついて行った先に着いたのは一軒家だった。二階建てで拓哉から見て左側に庭もある。


「はーい」


 インターホンから女性の声が聞こえてきた。


「すみません。東高のものなんですけど、綾子ちゃんは元気にしてますか?」


「綾子の友達?どうかしたの?」


「綾子ちゃんのことが心配で」


「そう、とりあえず上がって」


 ガチャと切れる音がした。


 会話の中で出てきた綾子という名前で何となくここがどこかわかった気がする。

 加藤が前に立っていたせいであまり見えなかった表札を確認すると中橋と書いてある。

 やはりここは中橋綾子の家なのだろう。


「先輩。まさかここって」


「たぶん君が思ってるとおりだよ」


 ガチャリと玄関の扉が開いた。奥から女性が姿を見せる。


「さ、どうぞ」


 拓哉は動きが止まってしまった。


 まさか本人の家に行くとは思っていなかったからかなり驚いている。


「とりあえず上がろうよ」


 加藤は拓哉の肩を叩いて歩き出す。拓哉もゆっくり後に続いた。


 家の中にお邪魔するとリビングに案内された。

 長細いテーブルを囲むように置いてある椅子に拓哉達は腰掛ける。


「これ、つまらないものですが」


「あら、ありがとう」


 加藤は持っていた紙袋を中橋の母親らしき人に渡した。


 何故か持っているなと思ったらそういうことだったらしい。先に言っておいてくれれば自分も何かを用意できたものをと思い拓哉は少し申し訳ない気持ちになった。


「お母さん、お綺麗ですね」


「そんなことないわよ」


 加藤が言ったことに女性は少し嬉しそうな表情で返事した。


 やはりこの女性は母親だったらしい。


「申し遅れました。加藤真央と申します。綾子ちゃんと同じ図書委員やらしてもらってそこで知り合いました」


「あ、道原拓哉です。同じく図書委員です」


 加藤がいきなり自己紹介したので拓哉もそれに続いた。


「ごめんね。綾子、最近部屋から出てなくて」


「無理ないですよ」


 加藤はいえいえと首を左右に振りながら答えた。


 いじめていられたら部屋にこもってしまうのも仕方ないだろう。


「その様子だと知っているのかしら。綾子がいじめられていること」


「はい。だから今日ここに来ました。まぁ、私は道原くんに教えられただけで実際に見たわけじゃないんですけど」


 加藤の言葉を聞くと中橋母の視線が拓哉を向いた。


 これは拓哉が何を見たのか説明しなければならない雰囲気だろう。


「私が見たのは終業式の日のことです」


「そう、やっぱりあの日もなのね。あの日は友達に来て欲しいってお願いされたし授業もすぐ終わるからから行くって言ってたんだけど、帰ってから部屋にずっと引きこもっているの。時間も空けたからなくなってることを祈ってたんだけどね」


 中橋母は俯きながら話した。


 あの日中橋が学校にきた理由は友達が理由だったらしい。何故急に来たのか疑問だったがそれがようやくわかった。


「実はね、転校も考えてるの」


「そうなんですか」


 加藤は驚いた様子で言った。


「やっぱり辛いものは辛いからね。まだ決まったわけじゃないけど。これから提案してみようと思ってるの」


「私はいいと思います。辛い思いはしてほしくありませんから」


 加藤は少し悲しげな顔で話した。


 その意見に拓哉も賛成だった。拓哉はその意思を伝えるため数度うなづいた。


 それから少し話を続けた。お互いにわかっていること思うことを交わす時間になった。


「早くどうにかしてあげたいですね。私達はそろそろ帰ります。今日はありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ。あの子のこと思ってくれてありがとう。よかったら少し声をかけてあげてくれないかしら?」


「でも、迷惑でしょう?」


「いいのよ。私からお願いするわ」


「わかりました」


 加藤は承諾した。もちろん拓哉の意見は聞いていない。拓也としては今はそっとしてあげた方がいいと思うのだが。

 一階で待っていようと思い座っていた拓哉に加藤が「行くよ」と声をかけて渋々2階へ上がった。


 



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