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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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この事件に対して


 玄関の扉を開けると置いてある芳香剤の香りが漂ってきた。詳しい種類は忘れたが爽やかな感じの香りだ。


 手を洗うと自分の部屋に荷物を置きに行く。拓哉の部屋は2階にあるから階段を上らなくてはならない。

 荷物を置くと拓哉は一階へ降りた。

 お腹が空いた。今は昼時、昼食には最適な時間帯だ。


「あ、兄貴。おかえり」


「ただいま」


 拓哉がリビングで昼食をどうするか考えていると紗良がやってきた。

 紗良の通っている中学校も今日から夏休みらしい。


「どうした?浮かない顔して」


「昼飯どうしようか考えてただけだよ」


「昼飯ならお母さんが作り置きしたの食べてって書き置きがあったよ」


「母さんが?」


 紗良はこれとテーブルにある紙を指差した。

 紙には「お昼ご飯作って冷蔵庫に入れてあるから2人で食べてね」と書いてある。


 母と父は共働きで夜になるまで家に帰ってくこない。昨日も仕事だったはずだから夜にかそれとも朝早くに作ってくれたのだろう。

 忙しいはずなのにこんなことしてくれるのだからほんと、良い母親だと思う。


 冷蔵庫を確認するといくつかの料理が入っていた。冷蔵庫から取り出し、電子レンジへと入れ順に加熱する。

 温め終わるとテーブルに運び互いに向かい合って座り、食べ始める。


「いただきます」


 当たり前だがいつも母が作ってくれるものと味は変わらなく美味しい。量自体はそこまで多くないからすぐ食べ終わるだろう。


「なぁ、兄貴。何かあった?」


 紗良は突然食べる手を進めたまま質問した。


「何で?」


「いや、兄貴なんかいつもと違うなって思ったからさ。なんかちょっと張り詰めたような顔してる」


 自分では気づいていなかったがそんな顔をしていたらしい。原因はあのいじめだろう。


「なんかあったんなら、相談のるぜ」


 紗良はにっと笑いながら言う。


 話しても問題はないだろうか。こういったことは広げられたくはないだろう。紗良ならちゃんと言えば誰かに言いふらしたりしないだろうが。

 どうにかしてあげたいという気持ちも強いが自分にはどうにもできないという気持ちも強い。紗良なら何かいい案があるだろうか。


「誰かに言ったりするなよ」


「わかってるよ」


「実は」


 拓哉は今日あったことを話した。もちろん名前は伏せながら。


「ていうわけなんだ。どうしたらいいと思う?」


 紗良は腕を組んで考え始めた。


 もしかしたら何かいい案をくれるかもしれないという淡い希望で話してみたがやっぱりそう簡単に浮かぶものではないだろう。


「私もどうにかしたいけど何も思いつかないなぁ」


「一応もう一回言っとくけど言いふらしたりするなよ」


「わかってるよ。こんなこと広げられたくないだろうし。そんなことしないよ」


 拓哉は念を押したがやっぱり問題無さそうだ。

 紗良は軽いところもあるが誰かとの約束を破ったり、他者の痛みを理解して傷つくことはしない奴だ。こういった問題であれば特にそんなことはしない。


「そのいじめてる奴ら、だいぶ性根が腐ってるね。教師に言っても無駄だったんだよね?そりゃ上手いことやってるだろうし、1回目じゃ停学も難しいよな。やっぱりそいつら叩き直してやるしかないよね」


 何度もまだ続いていると報告すればいつかは停学だの何だのになるだろうがそれまで本人は傷つくことになる。それに学校内ではなくなってもそれ以外の場で手が出る可能性や復学後にまた始まる可能性もあるのだから根本的な解決にはならない。


「兄貴の知り合いに信頼できて色んな生徒と関わってる人とかいないの?そういう人にまず相談してみたら?そいつらどんな奴か知ってる、知ることできる?って」


「そんなに人脈広くないからなぁ」


 拓哉は1人だけ思いついた。確かあの人は部活にも入ってるし一年生との関わりを持っているだろうし、何より中橋の身を案じていた。


「1人だけ」


「じゃあ、まずその人に相談してみて色々情報仕入れて教師とか相談所に相談しに行ってみればいいんじゃない?」


「そうだな。ありがとう」


 何も情報を得られなくても相談所にいくことはできる。何か得られたならきっと何かの助けになるだろう。

 あの人なら無闇に言いふらしたりもしないはずだし昼飯を食べ終わったらしにいこう。

 知ってしまったのに何もしないのは何か嫌だから。




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