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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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いじめの話


「中橋さん」


 拓哉は驚きを隠せずその名前を口にした。


 中橋は体をふらつかせながらも拓哉のことを見つめる。


 中橋は加藤曰くしばらく学校に来ていなかったらしい。それが今日は学校に来ている。そしていじめられていた。

 いじめていた奴らの「来てないよね」と言う発言からおそらく学校に来ていなかったのはいじめが原因だろう。

 では何故今日は来ているのか。これがわからない。

 いじめが解消されたと思ったのか、それともいじめは今日が初めてだったのか、はたまたそれを跳ね除けても行かなければいけない理由があったのか。


「せん、ぱい......」


 中橋はゆっくり口を開いたがすぐに閉じてしまった。


「ゆっくりでいいから。何かあったのか?」


 中橋は近くにあった段差に腰掛けるとゆっくり話し始めた。


「何で、わたし、こんなこと、されなきゃ、いけないんだろう」


 中橋は一つ一つ言葉を短く連ね、涙を浮かび上がらせてうずくまった。


 なぜいじめられるのか。

 そんなことはわからない。本人もこう言っている以上これは考えても仕方がない。

 拓哉は中橋は悪い奴ではないと思う。もちろん拓哉は中橋のことを詳しく知っている訳じゃない。関わったことは数少ないがその中で彼女に対しての印象は大人しい子だった。

 誰かの悪口を言ったり、悪事をしでかすような人物ではないと拓哉は思う。だからこれは一方的な利己だけを考えたいじめだと拓哉は思う。


「大丈夫。何があったか聞かせてくれる?」


 姫崎は中橋の隣に座って背中をさすりながら優しく問いかけた。


「あの人達、この学校に入学したら、すぐいじめてきたんです。わたし、何も、してないのに。色々押し付けてきたり、いじってきたり、時には暴力、振るってきたりして」


 中橋は途切れ途切れになりながらも言葉を続けた。


 酷い話だ。本当にこんな奴いるんだと思うほど典型的ないじめっ子だ。

 結局人は自分のことが一番大事という考えを否定するわけではないけど自分の愉悦の為に他者に犠牲を払わせていると考えると多少腹が立ってくる。


「やっぱり、先生に相談した方がいいかな?」


 姫崎は拓哉を見つめて言った。


 教師に相談。この場合1番最初に思いつく手だろう。


「変わりませんよ。そんなことしても」


 中橋は少し間を開けて言葉を返した。


「相談なんてもうしました。けど、無くなりなんてしませんでした」


 中橋の今日聞いた言葉で1番力がこもっていた。周りには静寂が走った。


 教師に相談したところでいじめている生徒本人の考えが変わらなければ意味がない。下手すればめんどくさい事しやがってと逆恨みされて悪化だって考えられるだろう。

 悲しいがそれが今のいじめという問題だ。


「やっぱり、今日も学校、来なきゃ、良かった。そしたら、こんなこと、思わずに、済んだのに」


 中橋は力なく言った。


 何故今日学校に来たのかはわからないがこんな目に会うぐらいなら来なきゃ良かったと思うのも無理ないだろう。


「何かあったら頼って。一応先輩だから」


「私も、頼ってくれていいからね」


 拓哉達の言葉に中橋は沈黙で返した。きっと何か思うところがあるのだろう。


 あまり関わりのない人に頼っていいと言われてもそうしづらいところはある。


「ありがとう、ございます、先輩、方」


 中橋は一言お礼を言うと腰をあげた。


「今日は、本当に、ありがとう、ございました」


 中橋は一礼すると立ち去ってしまった。

 姫崎が「1人で大丈夫?」と言うと中橋は振り返って会釈するとすぐにまた歩き出した。


「俺たちも帰ろうか」


 歩き去っていく背中が見えなくなると拓哉はそう提案した。


「うん」


 姫崎は元気なさそうに返事した。


 あんなことがあったのだこうなるのも仕方がない。


 2人はいつもより重い足取りで歩き始めた。


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