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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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夏休み開始


「それじゃあ、明日から夏休みだが羽目を外しすぎないように」


 生徒全員が立ち、礼をすると夏休みが始まった。


 ほとんどの生徒は嬉しさのあまりか鞄を持ってすぐに教室を出て行った。

 少しぼーっとしていれば教室の中にはほとんどの人がいなくなる。


「あの、道原さん」


「どうかした?」


 姫崎が話しかけてきて拓哉は驚いた。


 関わり始めてから今まで教室で声をかけられたことはないし放課後になればすぐに教室を出ている。それが今日は残っていたらしい。


「道原さんって......」


 姫崎が何かを言いかけているが拓也の目には廊下でニヤニヤしている加藤が入ってきた。


 顔に手を当てて笑いを堪えているように見える。姫崎は何だか言葉を詰まらせているし一旦加藤をどうにかしたほうがいいだろう。


「ちょっとごめん。どうかしましたか先輩」


 拓哉は姫崎の口が言葉を発する前に加藤に呼びかけた。


「あれ、バレてた?」


 姫崎は後ろを振り返って加藤を見ると顔がみるみる赤くなっていく。


 2人だと思って話しかけていたがそれを誰かに聞かれそうになったからと言っても一体何を言おうとしていたのだろう?


 加藤がゆっくり近づいてくると姫崎は笑顔を取り繕った。


「この子は?」


 姫崎は初対面の相手だからか俯いたまま顔をあげない。


「同じクラスの姫崎さんです」


 加藤は「ほほう」と言いながら顎に手を当ててじっくりと姫崎を見ている。すると何かを納得したようにうんうんとうなづいた。


「可愛いね。彼女さん?あ、私は加藤真央よろしくね」


「違いますよ。一体何の用ですか?」


 ちらっと姫崎を見るといっそう赤くなっている気がする。

 そこまで見られるのが恥ずかしかっただろうか。


「ごめんって。夏休み図書委員で集まって一回遊ぼうって話になったんだけど道原くんの連絡先知らないからいつ空いてるか聞きにきたんだよ」


 加藤はここに来たわけを淡々と述べたがどこかまだニヤニヤしている気がする。


「ま、道原くんまだ話してる最中だったみたいだし、連絡先交換して後で教えてよ」


「いいですけど。俺ほぼほぼ空いてるんで多分いつでも大丈夫ですよ」


「いいから、いいから。どうせ決まったら教えなきゃいけないんだし」


 図書委員の中で交換している人となると水田か浅羽だけなのでそれはそうだなと思いながら拓哉はスマホを取り出して連絡先を交換した。


「というか、どうなったら図書委員で集まろうって話になるんですか?」


 部活とかクラスだったらわかるが委員は何か違う気がする。一応仲間ではあるがこれらに比べたら関係性は薄いだろう。


「もちろん来るのは全員じゃないよ。君は知らないだろうけど元々結構遊んでたりしてたんだよ。今日誘いにきたのは今学期君には世話になったからだね」


 図書委員で仲のいい人がほとんどいないから全く知らなかった。

 世話になったと言われても対して思いつかない。強いて言えば図書知らせのアイデアを提供したぐらいだろうか。


「ああ、そうそう。水田くんも声かけたんだけどさ、忙しくて来れないそうなんだよ。何か知ってる?」


「知らないですね」


 水田はどうやらまだ忙しくしているらしい。何があったのか気になるが詮索するのは失礼だろう。


「そうだ。ここであったのも何かの縁だし姫崎ちゃんも連絡先交換しない?遊びに行くのも参加してよ」


 ここまで話に入ってこれていなかった姫崎に急に振られてあたふたしている。


「いいんですか、図書委員でって言ってましたけど」


「良いんだよ、元々違う人も来る予定だったし」


 違う人も来るならわざわざ図書委員と言わなくてもよかっただろう。


「君は何となく図書委員での集まりって言わないと来ない気がして」


 視線から何となく察したのか加藤は弁明した。


「自分は何だと思われてるんですか」


 そんなくくりがなくても時間が空いてたり都合が悪くなかったりすれば参加ぐらいする。まぁ、めんどくさいものは簡便だが。


「それより受験勉強とかしなくていいんですか?」


「たまには息抜きも大事だよ」


 加藤は満面の笑みを浮かべた。


 確かに息抜きは大事だと思うが本当に大丈夫だろうか。夏休みは受験に向けての大事な時期だろう。


「で、どうかな。姫崎ちゃん」


「だ、大丈夫です」


 姫崎は久しぶりに口を開くとゆっくり顔をあげた。そして鞄からスマホを取り出し交換し始めた。


「ありがとう。それじゃあ、予定はおって連絡するね」


 加藤は交換し終えるとそう言って教室を出ていった。


「何か、すごい人ですね」


「そうだな」


 加藤は少しマイペースなところがあるが気遣いができていい人だ。


「遊ぶの嫌だったら、断ってもいいから」


 別に断ったとしても悪くは言われないだろう。それぐらいで他人を責めるような人ではない。


「嫌なんてそんな。むしろ嬉しいぐらいで」


 姫崎は左右に軽く首を振りながら答えた。


 気を悪くしていないならよかった。何故だかわからないがそう思う。


「あ、そういえば、さっきなんて言おうとしてたの?」


「もう、大丈夫です」


 姫崎は拓哉を向いて微笑んだ。


 何を聞こうとしていたかは気になるが無理に追究するものでもないだろう。


 拓哉は持っていたスマホをしまうと鞄を持って姫崎と教室を出た。






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