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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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贈り物


 黒板には端から端までびっしりと字が書き込まれている。

 さっきの授業は数学だったから字といってもほとんどが数字だ。

 黒板消しを当てて端から字を消していく。

 上から下へと黒板消しを移動させていく。拓哉はこういうのは出来るだけ綺麗にしたいタイプだ。


 拓哉は今日日直だからこういったことをしている。今は放課後でほとんどの生徒達は教室を出ている。残った生徒も掃除の準備をしているので早く終わらせないと邪魔になってしまうだろう。

 掃除の人達がついでに黒板もやっておいてくれればいいと思うのだがクラスの中に黒板の掃除は日直の仕事という暗黙の了解みたいなものがあった。

 時間がかかるわけじゃないし放課後の黒板は誰がやるか明記されてないから拓哉はなんとも思ってはいない。


 拓哉は掃除が始まる前に終わらせると机の上に置いておいた鞄と日誌を持って教室を出た。


 日直は日誌を書くことも仕事の一つにある。内容は主に1日の授業内容だ。書き終えると担任教師に渡して日直の仕事は終わりとなる。


 拓哉は階段を降りると職員室に向かった。


 ドンッ


 曲がり角で誰かとぶつかった。ぶつかった相手が持っていたと思われる紙がバラバラと散らばる。


「すみません」


 拓哉は謝罪しながら相手を見ると女性だった。

 その女性は制服を着ていないし学生というには大人びているからおそらく学生ではないだろう。


「こっちこそ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて」


 こちらこそ日誌を見ていて前を見ていなかったのだから申し訳ないと思いつつ女性が紙を拾っているのを手伝った。

 落ちている紙の内容を見るのは失礼だから出来るだけ見ないように意識したが何枚かちらっと目に入ってしまった。学級通信と書いてあった気がする。


「あなた何年生?」


 紙を拾い終わって立ち上がると女性が問いかけてきた。


「2年生です」


「そう......」


「どうかしましたか?」


「あ、いえ、何でもないの。ごめんなさい」


 女性は会釈すると歩いていった。


 質問してきた時少し思い詰めたような顔をしていたから拓哉は妙に気になった。


「道原さん。遅かったですね」


 拓哉は担任に日誌を渡すと校舎を出て校門にいる姫崎にあった。


「ごめん。今日日直だったから」


「わかってますよ」


 姫崎はそう言って笑うと2人は歩き出した。


「あの......道原さん......」


「どうした?」


 姫崎は少しもじもじしながら問いかけたが拓哉が聞くと黙ってしまった。


「言いたくなったら言って」


 拓哉はそう言うと無理やり話題を変えた。内容は今日日直どうだったかみたいな話だったが彼女は乗ってくれた。


 拓哉はこういう場面で話題を出すのが苦手だった。事前に考えておかないと急には話題が思いつかない。


 その後いつも通り他愛無い世間話をした。


 もうすぐいつもの分かれ道だが今日の姫崎は妙によそよそしかった。

 きっとさっきの話に何かあるのだろう。姫崎が言いたくなければそれでいいと思いながらも拓哉はどこか違和感を感じていた。


「あの、道原さん」


「何?」


 分かれ道に着くと姫崎が意を決したかのような顔で話しかけてきた。

 姫崎は鞄の中から小さな袋を取り出した。


「これ、あげます」


 顔を赤くしながらその袋を拓哉に差し出した。


「何、これ?」


 拓哉は受け取るとその袋をじっと見つめながら尋ねた。

 色は赤くて可愛らしい模様が描いてある。透明ではないため中は見えない。


「あの、前のお返しです」


「前?」


「えっと、たい焼きの」


 姫崎は若干顔を拓哉からそらしながら小さめの声で言った。


 どうやら前にショッピングモールに行った時のことを覚えていたらしい。確かあの時何か埋め合わせをしたいみたいなことを言っていた。

 それがこれなのだろう。


「そんな、いいのに。あれはお礼だから」


「やっぱり何かしたかったの。それに......」


「それに?」


「私があげたかったから」


 姫崎は赤くなった顔をそらしながら小さな声で呟いた。


「代金はなんか違うなって思うし、その家族に作った分のあまりだからちょうどいいかなって」


 姫崎は慌てて付け加えた。


 確かにお金だったら受け取らなかっただろう。

 例え自分のために作られたものでなくてもお礼とかお返しを誰かから貰えるというのは悪い気はしない。


 拓哉は姫崎を見ながら「ありがとう」と言った。


「そ、それじゃ、またね」


「ああ、また」


 姫崎は振り向いて立ち去った。

 何故だかいつもより早足な気がする。


 拓哉は鞄に袋を丁寧にしまうと歩き出す。

 その帰り道はもらったことを思い出すと何故だかわからないが笑みが溢れた。




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