帰り道の遭遇
1日の授業がまた終わり帰宅をするために拓哉は下駄箱に来ている。
靴を履き替え立ち上がると一番近い校舎の出入り口の近くに女子生徒が3人ほど屯していることに気がついた。
あまり見ない顔だ。拓哉の下駄箱の先は一年生の下駄箱になっているからおそらく一年生だろう。
「最近あの子来ないよね〜」
外に出るため出入り口に近づくと会話が聞こえてきた。
「ほんとねー。だから最近暇だわ」
「何で休んでんだろうね」
「病気なんじゃないの?」
「何の病気よ」
女子生徒達は笑いながら大きめの声で話していた。会話に夢中になっているようで近くを通った拓哉は気にも留めていない様子だった。
一体誰の話をしているかは見当がつかない。そもそも一年生同士の会話なのだから話題に上がっている人もおそらく一年生で知ってるはずもほぼないけれど。
拓哉は部活にも入ってないし活発な方でもなかったから同じ学年意外ほとんど関わりがない。
校門に着くといつもと変わらず姫崎が待っていた。
「道原さん」
拓哉が近づいていることに気づいたようで姫崎は体の向きを変えた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ」
姫崎の前につくと2人並んで歩み始めた。
すっかり一緒に帰ることが恒例になってしまった。
基本的には先にいつも姫崎がいるので待たせている気がして申し訳ないのだが。
「もうすぐ夏休みだね」
「そうだな」
ここ最近夏休みの話をよくする気がする。
近いのであまり前と言われれば当たり前だがまだ授業はあるのだから気が早いとも思う。
「道原さんは夏休み何するの?」
姫崎は首を傾げながら尋ねた。
予定を聞かれるのはこの手の話題が始まれば覚悟しなければならないことだろう。
勝手に思っているところもあるが一度は「予定ある?」とか「空いてる?」みたいな質問が飛んでくるものだろう。
「特に決まってないよ。そっちは?」
「私も特にはないかな」
姫崎は横目で拓哉のことをみた。
夏休み何をするかなんて何度も聞かれたが日が経っても予定は一つも出てこない。毎年夏休み前に予定があることなんてほぼなかった。だから聞かれても同じような返事しかしたことがない。
「愛菜?」
姫崎は突然名前を呼ばれて後ろを振り返った。拓哉もつられて後ろを見る。
見たところ成人女性で手には買い物袋らしき物を持っている。
「奇遇ね。こんなところで」
「お母さん」
拓哉はその言葉に驚いた。
この女性が姫崎の母親らしい。
確かによく見れば目元が似ている気がする。それにあまり関係ないかもしれないが姫崎と同じく髪が背中のあたりまである。
「こちらの方は?」
「同じクラスの道原さん」
姫崎は尋ねられると端的に答えた。
「愛菜と仲良くしてくれてるの?ありがとう」
「お母さん。そういうのいいから」
姫崎は慌てるような様子で停止を促した。
姫崎母はその様子が面白いのかうふふと笑っている。
母親も姫崎と同じくかなりの美人だ。まさにこの親にしてこの子ありだと拓哉は思った。
「いいからお母さん早く帰って」
「いいじゃない、ゆっくりしていっても。そうだ。道原くん今からうちくる?」
「もー、お母さん」
姫崎は少し膨れながら言った。姫崎母母はその様子を見て相変わらず笑っている。
仲のいい親子だ。2人のやりとりを見ているだけでそれがよく伝わってきた。
「冗談よ。ねぇ、道原くん。よかったら連絡先交換しない?」
「だから」
姫崎が言っている途中で姫崎母が「いいじゃない」と割り込んだ。
「駄目かしら?」
「いいですよ」
断る理由もなかったので拓哉は了承した。
交換し終えると姫崎が「ほら。帰った、帰った」と母親の背中を押した。
「こう言われてるし、私はそろそろ行くわ。私まだ行くとこもあるから」
姫崎母は笑いながら手を振った。
「道原くん」
「なんですか?」
「愛菜とこれからも仲良くしてあげてね」
姫崎母は今までと違う優しい笑顔で言った。
娘思いで優しい母親だと拓哉は思った。
「ええ」
「よろしくね」
最後に大きく手を振ると姫崎母は上機嫌な足取りで立ち去った。
「いいお母さんだな」
「うん」
そっと姫崎の顔を見るとどこか遠くを見つめている気がした。
「それじゃあ私達も帰ろっか」
パッと顔色を変えて姫崎は母親が立ち去って行った方向から帰り道へと目を向けた。




