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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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昼休みの出来事


 昼食を食べるために拓哉は炭谷と食堂へと向かっていた。


 今日は午前中に体育があり、かなり運動したためすごくお腹が減っている。


「腹減ったなー」


 炭谷は随分と能天気な調子で言った。


 移動している人の波がひと段落ついたらしく廊下の人通りは休憩時間とさほど変わらない。しかし教室の中からはがやがやと賑やかな声が聞こえていた。


「そうだな。席、空いてたらいいなー」


 拓哉は淡い期待をのせて言った。


「空いてないだろうけどなー」


 炭谷はははっと笑う。


 食堂は意外と人気で行くのが遅くなればポツポツしか空いていないことも多々あった。さっきの授業が少し長引いてしまったためそこが不安だ。

 見知らぬ誰かと席を一緒にするのはできるだけ避けたい。


 食堂につくと案の定生徒でいっぱいだった。


 拓哉達は注文を済ませて品を受け取ると席を探した。幸いなことに席はすぐに見つかった。

 テーブルに料理を置くと拓哉と炭谷は横に並んで座った。

 今日は2人揃ってカレーを頼んだ。「いただきます」と言うと2人は食べ始めた。


「あー、俺も彼女欲しいなぁ」


「急にどうした?」


 カレーを口に運んでいると炭谷がそう呟いた。


「夏休みといえば恋愛じゃん。今日も朝にあいつとあいつが付き合い始めた聞いて羨ましいなって思った訳よ。俺も彼女と夏休み遊びに行ったりしてぇなって」


 炭谷はカレーを食べながら少し思い詰めたように述べる。


 夏休みは恋愛ごとというのは一昨日、紗良からも聞いた。あの時は紗良の自論かと思っていたが炭谷も言っているからもしかして普通のことなのか?


「それじゃあ頑張って好きな人作れば?」


「自分から進んで作りにいくもんじゃないだろ、こういうのって」


 炭谷は淡々とした調子で返した。


 確かに無理に作りにいくものじゃないとは思う。だから好きな人がいない今はどうしようもない。もしも誰かから好かれていれば話は変わるが。


「道原は夏休み何か予定あるのか?」


「ないけど」


「そうだよな。俺達仲間だな」


「炭谷は部活あるだろ」


「そういう今じゃねぇよ」


 炭谷は笑いながらそう言った。


 炭谷は今まで誰かと交際するとかそういう浮いた話を経験したことはないらしく、同じく経験のない拓哉によくこういった話をした。そういう意味では確かに仲間と言えなくもないだろう。


「俺ちょっと部活で集まれって言われてるから先行くわ」


「わかった」


 炭谷は先に食べ終わると皿を持って立ち去って行った。

 今日は何だか急いで食べている気がしてはいたがなるほどと納得した。


 炭谷はバレー部に所属している。実力は確かでメンバーにも信頼をおかれている。

 拓哉は運動が並程度しかできないから炭谷のそういったところは尊敬する。なりたいとはそこまで思わないけど。


 拓哉も昼食を食べ終わって皿を返すと食堂を出た。


 廊下を歩いていると職員室の前で大量の荷物を運んでいる加藤を見かけた。


「先輩。手伝いましょうか?」


 加藤は両手いっぱいに抱えていてとても重そうだ。


 加藤は一度荷物を近くの机に置くと拓哉の方を向いた。


「ごめん。今日日直で。それじゃあ半分手伝ってくれる?」


「いいですよ」


「ありがとう」


 加藤は感謝の言葉を伝えると半分荷物を持って拓哉に渡した。


 物を見ると大体はノートや冊子でおそらく提出物が一気に返却されたのだろう。

 こういった返却物は教師が職員室近くにある各学年の各クラスごとにある決められた場所に置いて日直がクラスに持っていくというシステムがある。


「先輩のクラスまででいいですよね?」


「うん。協力感謝するよ」


 加藤も荷物を持つと目的地に向かった。


 途中階段を使って上に上がったが全て1人で持っていたらかなり大変だっただろう。何回かに分ける方法もあるがそれはそれで往復しないといけないから大変だ。


 加藤の教室につくと黒板のすぐ前にある教卓に持っていた物を置いた。


 前にも来たが3年生の教室に入るのはあまりしないので興味本位で周りを見ると自分のクラスと結構違っていた。

 メンバーが違うのだから当たり前だが何と言うか大人びたというか静かな印象だった。


「どうもありがとう」


 加藤は笑顔を作った。


「それで一つ聞きたいんだけどいいかな?」


「何でしょう?」


 加藤はじっと拓哉を見つめて神妙な顔をした。


 何か大切なことなんだろうか。相談をされるような間柄でもないし学校の噂とかをよく知っている訳じゃないから全く見当がつかない。


「図書委員の君と同じグループに中橋って子いたでしょ。あの子のこと何か知ってる?」


 加藤は少し小声で言った。


「あの子しばらく休んでるみたいで何かあったのかなって思って」


 中橋綾子(なかばしあやこ)。前に図書委員の時1週間ずっと休んでいた一年生。あの時は確認していたが仕事が終わるとしなくなってまだ休んでいたことを知らなかった。

 確かにそれほど長い間休みだと少し心配になってしまう。中橋の第一印象は明るい子だったのもあって。


「知らないですね」


「そうだよね。私の考えすぎかなの可能性だってあるし」


 加藤は明るい調子でつげた。


 別に悪いことは何もなくてただ単に休んでいる可能性だって大いにある。


「それじゃあほんとにありがとう。またね」


「はい。失礼します」


 拓哉は加藤に会釈すると教室を出た。


 

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