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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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エピローグ「記憶から記録へ変わる日々」3

 それからもかけがえのない思い出は続く。


 同棲をして一年後には子どもを出産した。私の提案もあって自宅出産だった。


 出産した副産物か未だに分からないけど、声もしっかりその時から発声できるようになった。


「りゅうちゃん……私、声がでるよ……。この子には負けるけど、ちゃんと声が出るよ……。これでいっしょにおしゃべりできるよ、この子どもとだって、りゅうちゃんとだって」


 私は涙ながらにその腕に生まれたばかりの赤ん坊を抱えながら呟いた。


 出産の痛みは陣痛から何まで経験したことのない尋常なものではなかったからずっと泣きっぱなしだったけど、でも、最後には笑顔になれて、嬉し涙に変わっていた。


 声が出せるようになったのは性交を重ねながら、いや、そのおかげと信じるのはどうかしてるから聞かなかったことにして欲しいけど、一緒に暮らすようになってからで、少しずつ喉から声を発することが出来るようにはなっていって、もう少しすれば発音もしっかりできて、お医者さんと相談しながら、言葉もちゃんと話せるようになると期待していた。


「そうだな……きっとこの子が届けてくれたんだな。

 ずっと待っていたよ……晶子の声が戻ってくるのを、ずっと待ってたよ」


 こうして涙を流しながら喜ぶ隆ちゃんは同棲するようになってから、私のことを晶子と呼ぶようになった。

 私はそう呼んだ方が知り合いに紹介しやすいからだと疑っている。


 私の方はその頃、ちょっと意地悪だったから変えることなく隆ちゃんと呼んでいたけど、彼の身長も伸びていって、さらに男前の男性になって一層心配になった。

 こんなに貴族のような綺麗な白い肌と金色の髪をしていて、スタイルもいいとなると言い寄ってくる女が突拍子もなく沸いてくるのが恐ろしかった。



「うん、待たせちゃったね、本当に長い間待たせちゃったわね」



 しみじみと布団の中で身体を楽にしながら私は思った。


 やっぱり、私の身体に一番聞く特効薬は隆ちゃんのそばにいることなのだ。


 彼の言葉は真実だったのだろう。



「やっと、自分の声で言えるわ。りゅうちゃん、愛してる、世界で一番よ。


 出会ったあの日から、どんどん惹かれていった。

 

 そうよ、あの日からずっと好きだったのよ」



 出産日のその時に、はっきりと声が出るようになって、発音にも違和感がなくなって、あまりに嬉しくて、心底参ってしまうくらい、新婚らしくいっぱい甘い言葉を言い合った。



 その後も子どもの成長の早さをこの身で味わいながら、日々は過ぎ去っていった。


 ウェディングは子どもが一歳を迎えるのと同じ時期に執り行った。


 私のわがままみたいなもので結婚式は由緒ある教会で開いた。


 式見先生とそこで再会できたのも嬉しかった。


 先生は感極まった様子で”本当におめでとう”と言ってくれた。


 私が一番綺麗な姿を見せたいからとわがままを言って純白のウェディングドレス姿で大きなパイプオルガンに座って演奏もした。


”一生モノの宝物にしましょう、あなたも見たいでしょう? 一番綺麗に彩られた私の姿を”


 私がそう言うと、隆ちゃんはぐぅの根も出ない様子で頷いていた。


 私も1日くらいは見世物にされてもいいかと張り切り、精一杯着飾って披露宴を過ごした。


 思い出を話せばいくらでも湧いてくるものだ。

 それだけ私たちは日本とオーストリアを跨ぎながら、たくさんの人に祝福され、恵まれていた。


 大切なことはきっと、あの時、震災の直後に落ち込んで何もしないことを選ばずに、手を差し伸べてくれた隆ちゃんの手を握って歩み出したからだろう。


 だから、私は隆ちゃんを一生大切にすると決めた。


 きっと、それが後悔することなく私が私であるために、必要なことだと信じているから。


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