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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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最終章前編「生きているルーツを見つけにいこう」3

 バスが発車してしばらく経過してからだった。


 並んで座る私たちのところに5、6歳くらいの可愛らしい女の子が近寄って来た。


「おねえちゃん、テレビでピアノ弾いてた人?」


 私の身体に寄りかかるようにやってきて、話しかけてくれた女の子、私はバスの車内でよく揺れやすいこともあり、危ないと思い女の子の身体を受け止めて、まばたきをしながら笑顔で頷いた。


「そうなんだぁ、お話しできないのって辛くない?」


 女の子は私が声を出して喋れないことをテレビで知ったのだろう。

 この年頃の子どもだから、つい気になってしまうのだと思う。


 私は筆談ボードに”彼が付いてくれるから、大丈夫よ”と笑顔で自慢げに笑顔を浮かべて女の子に見せた。


「そんなんだぁ、カレシかっこいいもんねっ! ラブラブなんだね!」


 無邪気に言う女の子に隣で座る隆ちゃんはちょっと困ったような表情を浮かべたが、どうやら照れている様子だった。


 私は恥ずかしさもありつつ嬉しくなって、さらに言葉を加えて女の子に見せた。


”それに、こうして君と会話できるからいいの、話しかけてくれてありがとう”


「おねえちゃん、やさしいんだね。またえんそう聞かせてくれる?」


 私は女の子の問いに”もちろん”という意味を込めて大きく頷いた。

 こうして人と触れ合えると愛おしい気持ちが湧き上がってくる。


 私が女の子との会話に夢中になっていると、隣にお婆さんが立っていた、一緒に来ていた家族のようだった。


「ごめんなさいね。この子、あなたの演奏に夢中だったの。

 あなたのような若々しくて綺麗な女性が、繊細なメロディーを弾いてくれていたから」


 お婆さんの言葉に恐れ多い気持ちになりつつ、私は感謝の気持ちを伝えた。


 その後、バスが現地に到着するまでの間、女の子の家族のお話しを聞く機会が出来た。

 

 女の子は震災で母親を亡くしたそうで、それで余計に私の境遇を知って親近感を覚えていたようだ。

 最近まではよく母親を亡くした悲しみで泣いていたそうで、私の演奏を聴いて勇気をもらい、明るく振舞っているなんて話も聞かせてくれた。女の子の中では私は悲しい別れがあってもくよくよしない、立派な演奏家に見えたようだった。

 お世辞のようなものではあると思うけど、私の演奏が女の子のためになっているなら光栄なことだと思った。


「やっぱり晶ちゃんは凄いね、みんなを勇気づけて明るくする演奏を出来るんだから」


 隆ちゃんが隣でそんなことを言ってくれるから、私は余計に恥ずかしくなって、飲み物を含んで心を落ち着かせた。自販機で買ったイチゴオーレは甘ったるかった。


 元いた座席に戻った女の子は一緒に来ている弟の面倒を見ていて、しっかりお姉ちゃんをしている様子だった。

 泣いてばかりはいられない理由がある、それが女の子の心を強くさせているのだと気づかされた。


(―――泣いてばかりはいられない、か……。みんな、それぞれ震災で悲しい思いを抱えながらも乗り越えようと頑張ってるんだ……)


 女の子の健気な姿に自然と私も勇気づけられていた。

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