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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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最終章前編「生きているルーツを見つけにいこう」2

「おはよう、晶ちゃん、待った?」


 一番会いたい人を目の前に、私は心躍りながら首を縦に振った。


 迷うことなくどちらともなく手を繋いで、自然と笑顔がこぼれた。



”自分が確かに生きているという実感が沸きあがって来た”



 恋人同士一緒にいるのが当たり前と言えるほどいつもいられるわけじゃない。

 一緒にいればいるほど、彼なしでは生きていけない錯覚に襲われる。そういう自分になってずっと甘えていられたらという願ってはいけない願望を抱いてしまう。


 一番大切な人が私のことを必要としてくれていること、それが嬉しくないわけがない、舞い上がらないわげがないのだ。


「すっかり暑くなったね、バスの時刻に遅れないように行こっか?」


 私は小動物のように頷いた。

 言われるがままに付いて行く、ちゃんとエスコートしてくれる隆ちゃんの背中が愛おしかった。

 この人に付いて行けば、どこに行っても平気だと、そう信じさせてくれる。


 専用のバスに乗って、海辺の町まで向かう。


 震災から4か月は経とうとしているのに、未だ復興が進んでいない場所。

 津波による被害は想像以上で、写真や映像で復興の経過を見るたびに心が痛むほどだ。

 

 現在も立ち入り禁止の場所もあって、震災前の活気が戻ることはないと嫌でも認識させられる。思い入れのない人にとっては積極的に今後も住みたいとは思わないだろう。


 それでも、あの町で生まれ育った人にとっては、帰りたい場所でもある。


「調子はどうかな?」


 彼の視線が私の耳の方に向けられているから、彼の言葉は理解できた。

 指を差してこない辺り、配慮もしっかりしている、そういう彼の誠実で優しいところは、一緒にいて安心する要素だった。


 私はあのコンクールの後に補聴器を買った。

 式見先生に付いてきてもらって、値段は張るものだけど色々選ばせてもらって使うようになった。


 最初はどれだけ効果があるのか分からなかったけど、今では付けているのが当たり前になった。


 私は隆ちゃんに”ちゃんと聞こえてるよ”と伝えた。


 両耳がしっかり聞こえるという、ただそれだけのことが、私にとっては幸せなことだった。


 まばらに乗客の乗り込んだバスが発車し、私たちは後ろの方の席に二人並んで座った。


”私にとって故郷に帰るのは、本当に震災の日以来だった”


「久しぶりだね、ちょっと緊張するかな。やっぱり4年ぶりとなると」


 隆ちゃんにとっては4年ぶりの故郷。


 これから、このバスは二人の思い出がいっぱい詰まった場所へ向かう。

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