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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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第13章「雨とピアノの回廊を登って」3

 いざ本番の舞台に向けて白いドレスに着替えて、髪を結んで、入念に化粧を鏡で確かめてから、私は前奏者が演奏を続ける舞台袖に向かった。

 サイズは今日が一番フィットしていると感じた、この衣装も喜んでくれているのかもしれない、本選でも披露することができて。

 ステージマナーも大事な審査の要素であると聞かされているだけに、私は式見先生や隆ちゃんを見習って、姿勢を正して、緊張し過ぎないよう身体を伸ばしてから、舞台袖へと向かった。


 今回のために新しく買った銀色のピアノシューズを履いて歩く。

 最初は慣れなかったけど、もう安心して歩けるようになった。

 私はこの演奏用のシューズは今のドレスにも合うから気に入っていて、こういう事も気持ちを高める上では大事なことだと肝に銘じている。


 舞台袖にやってくるとすでにオーケストラはステージ上にスタンバイできているようだった。


 今回の本選の最後のコンテスタント、この完全に温まった会場の空気の中で最後に出て演奏するのは緊張するけど、私は気持ちを切り替えて、最高の演奏を披露しようと気合を入れ直した。


 舞台袖でステージマネージャーの姿もすでに視界に入っていたが、途中に隆ちゃんがいるのを見つけ、視線が重なった。


「楽しんできて、晶ちゃんのための舞台が待ってるよ」


 この大事な演奏を前に声が聴けるだけで気持ちが湧き上がるのを感じながら、隆ちゃんの言葉に私は頷いた。ステージに立つ私を優しい微笑みで見守る彼の姿。ずっと私のことを応援してくれている隆ちゃんの言葉に私は勇気をもらった。


 その笑顔に恥じない演奏がしたい、ピアノと向き合う勇気をくれた隆ちゃんのためにも。


 私は真剣な表情のまま、ステージマネージャーのそばまで向かう。


 張り詰める空気感の中、出番を待つ私。


 一秒一秒が、鼓動を感じるように長く感じられた。


 こういう時に待たされるほうが緊張してしまうのが人間というものだ。

 しかし、このプレッシャーを乗り越えてこそのコンテスタントでもある。


 誰が一番となるのか、その頂点を競い合い姿に、会場の熱気も最高潮になる中、ついに私の名前が呼ばれた。



「四方さん、時間です」



 静まり返る会場の中、ステージマネージャーの言葉が私に届けられる。

 隆ちゃんも後ろで見守っているのが分かった。


 私は満天の星空に向かうように、照明に照らされたステージの上へと歩き出した。

 すでにたくさんの人が楽器を手にして今この時を楽しみにしながら待ち受けていた。


 オーケストラと演奏するのは本当に久々だった。


 大きな拍手の中、私はステージマナーを守り、お辞儀をすると、ピアノ椅子に座って覚悟を決めた。


 これが本選の空気、張り詰めるような緊迫感を肌で感じながら私は鍵盤に指を添える。

 

 やっと、始まるんだ……。


 この日、この時のために膨大な時間を準備に費やしてきた。

 

 たくさん考え、たくさん練習をして、誰もが喜んでくれるよう、聞き入ってくれるよう、私のメッセージを込めて、伝えられるよう入念に準備してきた。


 その集大成をこのステージで披露する。


 すでに迷いはない、さぁ、始めよう、ここにいるみんなと一緒に最高の思い出になりますように。


 そして、私はたくさんの視線を浴びながら、ピアノと真っ直ぐに向き合い、演奏を開始した。

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