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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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第13章「雨とピアノの回廊を登って」1

”何のためにピアノを弾くのか、何のために頑張るのか”


 ずっと、あの日コンクール出場を決意してから、私は考えながら今日まで練習を続け、本選まで上り詰めた。

 

 そして、納得できる”答えは見つかった”から、後は舞台の上で最善を尽くすだけだった。


 本選では学生のオーケストラが一緒に演奏してくれる。

 学生だからと初見の人は侮ってしまうところだけど、演奏してくれるのはクラシックのコンクールにも出ている有名な高校のブラスバンドで、実力は申し分なく、私の要望を含んだ演奏にも紳士に対応してくれる。


 もちろん、副賞になっているオーケストラと共に演奏する日が来れば、それに越したことはないが、今日の演奏だって十分に楽しめるものであることは間違いなかった。



 控え室に向かう途中、ホールの外で雨が降り出しているのが見えた。

 天気予報では確かに雨が降るかもしれないと予報していたからそれ自体は不思議なことではないが、突然に降り始めたお天気雨のようだから余計に気を取られた。


(―—————雨、か……)


 私の足は止まっていた、それほど激しいわけでもないから恐怖は感じないまでも、心が曇っていくような不安定な心情にさせられた。


 良いことばかりではなく、明るいことばかりではない。

 低気圧、悲しい気持ちはシンシンと降り続く、雨のように身体も心も冷たくさせる。


 今日という日に限って、空は無情にも感傷的にさせようと、それを私に訴えかけているように感じた。


(私はもう振り返ったりしないよ、辛いのは、失った思い出だけだから)


 暗示のように自分に向けて言い聞かせて、私は雨から視線を逸らし控え室へと向かう。

 でも、雨の音だけは、片耳しか聞こえない私の耳に反響し続けた、現実から目をそらしてはいけないと、この悲しみに耳を傾けたまえと、まるでそう激しく訴えかけてくるように。


(そんなことは分かってる、十分に分かってるよ。


 だから、あなたも今日の”私のプログラムに耳を傾けなさい”


 そうしたら、あなたにも少しは私の気持ちがわかるようになるから)


 私は危険な思考を振る払うように、心の中で言葉を吐き捨てて、控え室に向かった。

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