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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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第12章「プリンスプログラム」5

(予想通り…! やっぱり隆ちゃんは三番だ!!)


 私は演奏開始後すぐに感情が湧き上がった。

 彼氏である佐藤隆之介の演奏を観客席から一人見守る私、四方晶子は開始早々興奮の渦の中にあった。


 まさか、最後の最後でラフマニノフの『ピアノ協奏曲第三番』が聴けるなんて! こんな嬉しいことがあるだろうか。

 

 これはまさしく、大切な彼からのギフトだ。


 私は喜びに打ちひしがれながら、その演奏を聞き入る。


(……凄い、隆ちゃんは成長してる、このピアノコンクールの中で、まだ、成長を続けてるんだっ!)


 凛々しい表情を浮かべたまま稼働するその指さばき、類い稀なる集中力、圧倒的な表現力。

 自分を鍛えることに余念がなく、努力は嘘を付かないと信じる、天才の彼だからこそできる演奏。


 演奏家としても立派だったラフマニノフのように、彼は立派な演奏家であり、ここでは選び抜かれた一人のコンテスタントだった。


 全身全霊を込めた隆ちゃんの第三楽章に息を呑みながら見守っていた私。

 私を抜かして大きくなった彼の姿を誇らしく見ている内に、演奏は終わり、盛大な拍手が送られた。


 その真下(さなか)、私はホールの後ろの方、大きな扉近くの手すりのところで隆ちゃんの両親の姿を目撃した。


(来てたんだ……おじさんも一緒に)


 隆ちゃんのお母さんは一緒に住んでいると聞いていたから、この東京まで聞きに来ることは想定できたが、ウィーンから遥々お父さんも一緒に来るとは思わなかった。


 そうこう考えている内に、両親は扉を出てしまった。


(しまった……! 追いかけないと……)


 私は二人がいるこんな貴重な機会は早々訪れないと思い、急いで席から立ち上がり、段差を駆け上がりながら、大きな扉を出て、二人の姿を追った。



 二人に会ってどうしたいのか、それははっきりとは分からないけど、今、会わなければ後悔する気がした。それに隆ちゃんの演奏を聞いた感想も聞きたかった。


 ―—————でも、それ以上に私が聞きたかったのは……。


 見失わないように懸命に足を動かし急いで二人を捜す私、そして大勢の観衆がホールにいる中で二人の姿を見つけた私は人混みを掻き分け急いで駆け寄って、息を切らしながらおじさんの腕を掴んだ。


「四方さんの娘さんか……」


 腕を強く掴まれたことに驚く様子もなく、振り返って私の姿を確認したオシャレに髭を生やしたスーツ姿のおじさんはそう呟いた。


「あっ、ごめんなさい晶子ちゃん。

 夫がすぐに帰るっていうものだから、挨拶に行けなくって」

 

 まだまだ若々しい外見をした隆ちゃんのお母さんがそう仰るので私はブンブンと首を横に振った。


 挨拶に行けなかったのは私の方だった。

 ピアノの練習を優先して、隆ちゃんには式見先生の家まで来てもらうばかりで、隆ちゃんの暮らす家まで出向くことがなかったのだから。


 私は隆ちゃんと一緒に帰国していた隆ちゃんのお母さんと今日まで会う機会が持てなくて、それは、私のせいだった。


「そうか、話しには聞いていたが、大きくなって、一段と綺麗になったね。

 それと、ご両親のことは残念だった。

 あんな未曾有の災害が起こるなんてな……向こうのニュースで映像を見ていたが、想像を絶するものだったよ」


 おじさんは私の心中を察する様子で物悲しい表情を浮かべた。

 東日本を中心に発生した震災の衝撃は世界共通だった。



「”私はもう大丈夫です、それよりも聞きたいことがあります”」


 

 私は二人にばかり話させて悪いと思いながらも、どうすることも出来ず、急いで筆談ボードを取り出し、簡潔に伝えた。


 いち早く伝えることを優先でペンを走らせ急いでみたが、二人は足を止めてくれた。


 おじさんは動じない様子だったが、隆ちゃんのお母さんはぴくッと身体を震えてやっぱり私のことを知っていても驚いているようだった。


「すまないね、ここでは君もコンテスタントの一人だ。息子のことも含め聞きたいこともあるだろう。

 本当は君とはちゃんと話すべきだったのだろう。

 分かった、ゆっくり話そう」


 私はその言葉に頷いた。

 もしかして飛行機の時間が迫っているのかもしれないと思ったが、怖くて本当のことを聞くことは出来なかった。


 ホールに備え付けられたモニターでは、赤いドレスに身を包んだ次の演奏者が演奏を開始していた。

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