表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/73

第7章「届けたい想い」3

 今日は退院祝いにと隆ちゃんが式見先生の家に来て演奏を聞かせてくれるみたい。退院してから隆ちゃんに会うのはこれが初めてだ。


 今はピアノコンクールのための練習で忙しいはずだが、退院祝いとお見舞いも兼ねて、わざわざ私の様子を見に来てくれるとのこと。


 私の方はというと、少しずつここでの生活にも慣れてきて、仕事に出掛ける式見先生の代わりに家事なども手伝っていて、退屈しない日々を送れている。

 

 もう少し落ち着いたら、学校にも毎日ちゃんと通うつもりで、ちょっとずつ勉強もして、勉学にも付いて行けるよう準備をしている真っ最中だった。


 式見先生はピアノ教室を開いている関係で主婦さんとも仲が良くて、その関係からお菓子作りや紅茶にも詳しくて、そういうことを私にも親切に教えてくれるのが最近の楽しみだったりする。


 今日はその成果を見せようと隆ちゃんのためにりんごのタルトを用意してある。

 タルト生地から作るのは手間がかかって大変だったけど、オーブンで焼きあがった時の焼き加減を見たり、甘いりんごの香りを嗅ぐと胸がポカポカして、凄く達成感があった。


 焼いたおかげでリンゴは歯ごたえを残しつつも甘く香ばしく仕上がっているので、きっと隆ちゃんも美味しいって言って喜んでくれるはずだ。



 隆ちゃんがやってくるのを心待ちにしながら自室でテレビを見て過ごす。相変わらず震災関係のニュースが多くて、繰り返し流れる報道を見ていても悲痛に感じることが多く、あまりいい気分はしない。



 再会するときは一緒に笑っていられたらよかった。この前の病室の唐突な再会を思い出しながら改めて思う。



 いつまでもこんな私じゃ、隆ちゃんも気を遣って上手に笑えないだろう。


 隆ちゃんを悲しませたくはなかったのに……、どうすれば、昔の頃のように一緒に笑っていられるのだろう、もう、よく分からない。

 

 お互い大人になってしまって、気を遣い合う関係になってしまった時点で、もう、昔のようには戻れないのかもしれない。


 寂しいけど、心も身体も成長してしまった私たちは、上手に一つになれないかもしれない。つい不安になってそんなことを考えてしまう。


 

「隆之介君が来てくれたわよ」



 式見先生の声が聞こえてようやく私は隆ちゃんが来ていることに気づいた。


 私は式見先生に言われるまで気付けなかったことを、ちょっと嫌になりながら、それでも隆ちゃんと会えるのは嬉しいから、出来るだけ気を遣わないように笑顔でいようと思いながら、最後に鏡で自分の姿を確認してから、部屋を慌てて飛び出して階段を降りて行った。


 ピアノの置いてある広いリビングに出ると、家に到着したばかりの隆ちゃんが花束を持ってそこに立っていた。


「あっ、晶ちゃん、退院おめでとう」


 私の姿に気付いた隆ちゃんが声を出して、そのまま持ってきてくれた大きな花束を私は受け取る。

 ガーベラやカスミソウの綺麗な色合いは華やかで自然と笑顔がこぼれた。


 彼の身長が高くなって、私を追い抜かしていって4年前より一層男らしくなっているからそばにいると自然と胸がドキドキした。

 声変わりもしているし、雰囲気が違って見えるけど、恥ずかしいながらもカッターシャツを着た隆ちゃんの顔色を窺うと確かに4年前の面影があってはっきりと隆ちゃんなのだと分かる。


 隆ちゃんも私のことを見て、同じように変わったところ、変わってないところを感じているのだろうけど、やっぱり目の前にすると緊張してしまう。



 それから、三人でしばらくお茶をして、自作したりんごのタルトも食べてもらいながら寛いだ後、隆ちゃんがピアノを演奏してくれるということになった。


 隆ちゃんは私のことを見て、気持ちを汲みながら待つときは待って話してくれるのでコミュニケーションも取りやすく、私が考えていることを伝えるための負担は少なくて済んだ。

 それはたぶん、色々と隆ちゃんなりに考えてくれているのだろう、そういう心遣いは嬉しかった。


 私はちゃんと話したいと思えば思うほど、タブレット端末に文字を入力するのに夢中になってしまう、でも、それは自分にとっても、隆ちゃんに対しても良いコミュニケーションのあり方ではない、その事に隆ちゃんはすでに気付いているのだった。


 隆ちゃんがピアノへと向かって席を立つ。

 使用するのは電子ピアノでいいということで、リビングに置いてあるレッスン用を使うようだ。


 私は広いリビングのソファーに座りながらお話しするために使うタブレット端末を握る。


 そして、隆ちゃんがピアノの椅子に座り姿勢を整え、その手をピアノに添える姿をドキドキしながら私は見ていた。


 スラっとした体型ながら大きく長く伸びた手指、成長した彼の姿は立派なピアニストそのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ