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”小説”震災のピアニスト  作者: shiori


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第5章「もう一度、はじめるために」2

 驚かせてしまわないよう、再会を喜んでくれることを願いながら病室の中にゆっくりと足を踏み入れる。

 個室であることは聞いていなかったので、ここに晶ちゃんがいるとしたら二人きりかもしれないと思いドキドキした。

 

 そして、視界の中に懐かしくも新鮮な、確かに覚えのある顔立ちをした美しい黒髪の女性が文庫本を開いて、集中している様子で読書に浸っているのが確認できた。


(……晶ちゃん)


 あまりに見惚れてしまったために声が出なかった。


(これが、今の晶ちゃんなんだ……)


 少し大人びた日本人形のような、今の状況を見れば薄幸(はっこう)の美少女と呼びべきか、日本人らしい外見をしながら、その美しさは高校生になって小学生の頃よりさらに磨きがかかって、もしも知り合いでなかったとしても緊張して話しかけるのを躊躇うほどであった。


 読書に集中しているのか、2m近くまで近づいても見舞いの花束を抱えた僕がそばにいることに彼女はまだ気づく様子がない。

 僕は彼女の領域に入ったところでそれ以上近づけず、その場に静止した。そして、心からの喜びを込めて名前を呼んだ。



「晶ちゃんっっっ!!!!」


 

 緊張し過ぎていたせいだろう、病室の中だというのに、晶ちゃんを目の前にして顔を見ると思わず舞い上がるような調子で大きな声で名前を呼んでしまっていた。



 僕が来ることを知らなかった晶ちゃんはピクリと反応して、長い髪を軽くかき上げるような仕草をしながら僕の方に振り返ると、僕を見て呆然と眺めたまま、本を掴んでいた手から力が抜けたのか手を離して、そのまま静止したまま、思いもよらぬ突然の再会の場面にすぐに反応できないようだった。



(あぁ……、気付いてくれた、たまらなく愛しい宝石のような瞳で、確かに彼女は僕のことを見ている)



 僕は突然やって来てしまって、思いがけず彼女を動揺させていると思い安心させようとベッドの方に駆け寄って、膝を落としてベッドに座る晶ちゃんの視線の高さに合わせた。



佐藤隆之介(さとうりゅうのすけ)だよ、晶ちゃんに会いに来たんだ、ここにいるって聞いて」



 僕がそう言うと、突然に訪れた4年ぶりの再会に信じられないという表情をしながら口をパクパクと晶ちゃんはさせていた。



”会うときは気を付けてね、後遺症で声を出せなくなっているから”



 式見先生と電話したときにそう聞いていた僕は、晶ちゃんの声を聞くことは叶わないと知り、胸が苦しくなると同時に信じたくない気持ちでいっぱいになったが、こうして話しかけてみて、それが本当のことであると痛感した。


 感動の再会とはうまく行かなくても、声を出せない晶ちゃんを目の前に僕は自分も含め落ちかせようともう一度、話しかけた。



「ごめん! 無理しなくていいよ、まずは落ち着いてっ」



 僕は晶ちゃんをびっくりさせてしまったと思い、無理させないようにと思いを伝えた。


 晶ちゃんは大げさに頷きながら、次には僕の胸に飛び込んできて、感情を爆発させるように大泣きを始めてしまった。


「ごめんね、今日来ることは内緒にしてたんだ。

 式見先生に聞いて、ここに晶ちゃんが入院しているって聞いて、居ても立っても居られなくて、突然一人で来てしまって、びっくりさせちゃったね」


 声にならない涙声を発しながら晶ちゃんは泣き続ける。痛かったのだろう、苦しかったのだろう、寂しかったのだろう。

 連絡もロクにしなかったから僕に忘れられてしまっていると不安に思っていたのもあるかもしれない。

 簡単には謝罪しようのない罪悪感を憶えながら、それでも僕は今、目の前にいる晶ちゃんの気持ちが少しでも救われるようにとギュッと抱きしめ返した。


「―――久しぶり、だね……、ずっと待たせてしまってゴメン」


 抱き締める手を腰に添えながら、くびれの付いた腰に以前よりはるかに成長を遂げた女性であることを僕は意識させられながら、力いっぱい身を寄せてくる晶ちゃんの温かくて、柔らかい少女の身体、その新鮮な感覚にドキドキしながら、4年ぶりの再会に懐かしい気持ちが込み上げて来た。


 晶ちゃんが泣き止んで離れるまでは長かったが、ギュッと抱きしめていられる時間は今まで生きてきた中で一番価値のある幸せな時間だった。


 早くこうして再会出来ていればよかったが、それでも今でも僕のことを覚えてくれたこと、こうして気持ちを爆発させるほど、心に留めていてくれたことで僕は救われた心地になった。


 サラサラとした長い黒髪を撫でて、こうして触れているだけで愛おしさが沸き上がり、確かに抱き締めている女性が晶ちゃんであると理解し始めた。


(晶ちゃんの身体、柔らかくて、温かいな……)


 急なことで迷ったが、ここまで来て本当に良かったと心の底から思った。


 晶ちゃんの気持ちが少し落ち着いたところで僕たちは話しを始めた。


 近くに置いていたタブレット端末を取り出した晶ちゃんは涙を拭い、慣れた手つきで文字を入力して音声の読み上げソフトで入力した文字を内部スピーカーを通して流す。


 緊張しているのか、焦りながらも集中した様子で入力するその健気な様子に大切にしなければという気持ちが込み上げてくる中、僕は出来る限りの優しさで、時間の限り晶ちゃんと接することに決めた。

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