ただただ甘い父娘喧嘩(おやこげんか) あるいはただの茶番
文章がとっちらかり気味で見にくいかと思われますので、前もってすみませんと謝らせて頂きます。
「なんでよ! クソ親父のわからず屋っ!」
ここは現代の地球。
「クソは言いすぎだろ!? ……そもそもダンジョンなんて場所に行かせん!!」
…………訂正。
20年前にゲームみたいなステータスの概念とゲームみたいなダンジョンが発生して、同時にダンジョン絡みの問題も発生して、それらが落ち着いた頃。
そんな地球だけどちょっと違う地球にある日本。
その日本に住む佐藤さん家の居間で、親子喧嘩が起きていた。
ちゃぶ台を挟んで、向き合う父娘。
その間にはギスギスとした空気が漂っている。
「うっさい! わたしはダンジョンに行きたいの! 行かなきゃならないの!!」
年齢的に命の危険がある階層へは行けない法律が有るが、逆に言えばその手前までは入れる事になっている。
なので目的があって行きたい娘と。
「ダメだ!」
それを許さない父親の構図がここにある。
父親の方は 佐藤和三。 まだ40手前で髪も豊かにある若い父親。 中の上のしょうゆ顔。
娘の方は 佐藤上白。 本当は“かみしろ”にしたかったが、それでは名前っぽくないと判断され、みしろになった。
容姿は結構整っていて、笑顔はとろける様に甘いと友達にも評判のカワイイ系。
高校生になってから遅めの反抗期が来たのか、最近は父親をオヤジと言うようになって、和三が悲しんでいる。
これまでは家族としてそこそこ上手くやっていたが、娘の訴えに耳を貸さず、こうしてただただ拒否してくる和三にイライラが積み重なる上白。
こうなれば娘の方は要求を意地でも通したくなるし、父親は拒否の構えを崩す気は無くなり意固地になる。
「ダメ!ダメ!ダメ!ダメばっかっ! どうしてダメなのか、ハッキリ言いなさいよっ!!」
「ダメなものはダメだ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
話は平行線。
ダンジョンへどうしても行きたいが、どうしてそこまでNOと言うのか。
以前から今回ほどぶつかってはいないが、こうやって拒否やはぐらかされ続けてきた彼女から、ついに奇声が飛び出した。
「イヤ! もうイヤぁ!!」
彼女は以前から友達にダンジョンへ行こうと誘われていたが、こんな父親からOKをもらえず断り続けているので、友達関係がちょっとギクシャクし始めている。
それで今回断ってしまったらその友達との関係が形だけっぽくなりそうな感じがしていて、そんな意味でも行きたいのだ。
なのにコレ。 そりゃあ奇声が出て、ついでに頭を掻き毟りたくもなる。
「…………」
父親たる和三だって、本当は娘のこんな姿なんか見たくない。
でもこうさせてしまっている事に、自分自身へイラ立ちがある。
が、今までの人生経験から、ここは拒否1択なのが正解だと思っているので心苦しく思っている。
そりゃあ自分だって、娘の望むことをさせてあげたい。
でもここは拒否しかない。
この気持ちのサンドイッチから、顔が険しくなるし、上手い説得も思いつかない不甲斐なさから余計にイライラする。
このギスギス父娘喧嘩は、喧嘩別れで終わってしまうのか。
そんな空気になってきた所で、娘がついに行動へ移る。
和三へ詰め寄り、上白が右手を振り上げる。
「クソ親父なんて、大嫌いっ!!!」
頬打ちとついでに、口も出た。
パチーン! と、いい音が居間中に響く。
「あ…………」
娘はなにやら、振った手を見ながら呆然とする。
どうやら手が出たのは無意識だったみたいで、言葉だけのつもりだったようだ。
平手を受けた父親の方も父親の方で、まさか頬張りされるとは思っていなかったみたいで、驚いていた。
(ビンタ? まさかビンタさせる位に娘を追い込んでしまっていた?)
…………と思いきや、どうにも娘の心を察そうとしている様子。
(こんなことをさせる俺って、父親失格……?)
ついでに自分も追い込もうとしている様子。
こんな固まっている父親を見た娘は、こうなっても何も言わない事に“ぷっつん”したらしい。
物凄い形相をして、娘が言い放つ。
「何とか言いなさいよっ!!」
意訳すると、ギブミーリアクション。
打った事についてどうすれば良いのか、返事が欲しいらしい。
が、父親の心にそんな余裕は無い。
手をあげさせてしまった。
このショックで一杯だ。
「ねぇ、本当に何か言ってよ?」
が、娘には届かない。
どころか更に話しかけられ、そこで我に帰る。
そして帰るのと同時に、怒りが爆発した。
自分のダメさ加減に。
父親はブチ切れた。
ぷっつん。
そんな音が聞こえそうなほどに、ぷっつんした。
「分かった。 言ってやる」
この静かなリアクションに、怖さとリアクションがあった安堵感が入り交じる、細いため息をもらした後に娘は元の位置に戻って身構えた。
「命の心配が無くても大怪我するかもしれない危険なダンジョンに、大切な娘を送り出す許可を簡単に出すマトモな親が、どこにいる!!
怪我をしてほしくないから、ダメだと言っている!!」
身構えていた娘は、とても驚く。
いつのまにか質問したときの答えが「はい」か「いいえ」か「…………」しか無くなってしまった父親が、ここまで喋ってくれるとは思っていなかったから。
「手先が器用な上白が作ってくれたお菓子は最高で、その素晴らしい指が怪我で上手く動かせなくなったらと思うだけで身震いがする!! ダンジョンへは行ってほしくない!!」
「え……あの…………」
異常に熱く語りだす父親に娘はたじろぐ。
が、ぷっつんしてしまった父親は止まらない。
「出来ればまたお菓子を作って欲しい! オレは甘いものが好きだし、上白が作ってくれたお菓子を食べて「美味しい?」「あぁ」「良かった」なんてやり取りで喜んでくれるのは幸せだし、こんな娘を大切に思わない訳が無いだろう!!」
「お父さん……もういいから………………」
少し前まで呼んでくれていた呼称に戻り、照れ出した娘の姿を見て、嬉しさから奮起する父親。
「大事な大事な娘には、いつまでも怪我ひとつなく元気でいてほしい! 出来れば、ずっと傍にいてほしいと願わない父親なんているものか!!」
「もう、いい……もういいからぁっ!」
「あ…………あ、あぁ。 そうか、うん」
穴があったら入りたくなるほどに顔を真っ赤にした娘と、何もかも洗いざらいぶちまけてしまったのを自覚して顔を真っ赤にする父親。
正直、なんだコレ。
そんな空気が流れる居間だが、そこに変化が起きた。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
父娘の間にあるちゃぶ台の上から、強い光が発される。
「くっ……なんなんだよ」
目を瞑るのが間に合い、瞼越しに見える光が消え、念の為に更に数秒待ってから目をうっすらと開けてみる和三。
すると……。
「なんだぁ? プリン?」
「ア・ラ・モード?」
どうやら上白の方も同じタイミングで目を開けたらしく、親子で同じものを視認しているらしい。
ちゃぶ台のちょうど真ん中に、デデンとプリン・ア・ラ・モード。
「大きなプリンにウエハース、複数のクリームも……」
「沢山のフルーツに、フルーツソースもたっぷり……」
しかもビックリするほどの豪華なやつ。
その上でスプーンも2人分添えてあるという、至れり尽せりのプリン・ア・ラ・モード。
見てるだけで父娘の口の中にツバが溜まっていく。
今何が起こっているのか?
それを見極めようとプリン・ア・ラ・モードを睨んでいると、不意にメッセージウィンドウがプリンの上に飛び出した。
《佐藤和三は特殊条件覚醒スキル【ぷっつんプリン】を会得しました》
《【ぷっつんプリン】は、ぷっつんして甘い言葉を叫ぶか、ぷっつんして叫んだ結果甘い雰囲気になった時に発動し、プリンを生成します。
生成されるプリンは甘い雰囲気の具合に連動しており、甘さに応じた豪華さになります》
ダンジョンに縁のなかった佐藤和三、ダンジョンと関係の無い所でユニークスキルを手に入れる。
が、そんなのは関係無い。
このプリン・ア・ラ・モードがスキル由来のモノで、食べても問題ないモノなのだと知れれば十分。
「うわあぁぁぁあああ!!!」
「Foooooooo!!!」
父娘2人で雄叫びを上げ、豪華なプリンが食べられる事に頭の全てを支配された。
…………この後、うるさい雄叫びを聞きつけて注意しに来た和三の嫁である三温にプリン・ア・ラ・モードが見つかり、激しい取り合いの結果ほとんどを嫁と娘に取られて、和三が涙を流したのは言うまでもない。
そのちょっと後の父娘。
「所で、お父さん?」
「どうした?」
「わたしがダンジョンへ行きたい理由だけど、お菓子作りに便利でお店で買うと高い素材がダンジョンの浅い所で採れるんだって」
「そうなのか?」
「うん。 お小遣いで買うと他のが買えなくなるから、自分で採りに行きたいんだ」
「……そうだったのか」
「そうだったの。 だから認めてほしいの」
「なら、絶対に危ない場所には行かない。 危険を感じたらすぐに逃げる。 これが約束できれば認める」
「やった! …………あ」
「どうした?」
「ダンジョン行きをそんなに心配してくれてたんなら、そう言ってくれれば良いのに」
「あ〜〜、それな」
「うん」
「仕事では理由を言うと、大抵が言い訳と受け取られてしまってな。 言うだけ無駄ってのが染み付いちゃったんだよ」
「ええ……」
「だから職場での意思表示は“はい”か“いいえ”か“先延ばし”か“聞かなかったことにする”。 それと“良くも悪くも結果を示す”これ以外は無駄話扱いなんだよ」
「なにその会社……」
「男が多く働いている会社なんて、そんなモンだ」
「ええ…………」
〜〜〜〜〜〜
その後の上白(娘)
ダンジョンとダンジョンへ行く人達を管理する組合で、時々付き合いのある人に手作りお菓子を差し入れしていたら、女性菓子職人見習いとして組合併設の食堂にバイトが決まった。
そこで本格的なお菓子作りと、独り立ちする時に必要な資格取得の勉強を頑張っているらしい。
一家の名前
全部砂糖の種類。
上白糖、和三盆、三温糖。
味と性格との整合性は無い。 頭に浮かんだ順とか、それっぽい響きとか。 適当に割り振ったので。
ちなみに佐藤家はみんな、甘いもの好き。