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6 回想(1)

誤字報告を頂きました。ありがとうございます。

10歳の時にエレーナは治癒魔術を初めて使った。相手はロキだった。



公爵家の領地の林でエレーナとロキが魔術制御の特訓中に、ロキの兄のデインが訪ねてきたことがあった。なんの流れだったか、学園の騎士科に在籍していたデインに、ロキが剣術の稽古をつけてもらうことになったのだ。


(2人の打ち込みを目で追うのが難しいくらい速いわ!)


ハラハラと2人の稽古を見守るエレーナの前で、稽古用の木剣が乾いた音を立ててぶつかりあっている。

デインが厳しく打ち込み、ロキが必死に防いでいるようだ。


(騎士科で毎日鍛錬されているデイン様の攻撃を防いでいるなんて、やっぱりロキはすごいのね)


しばらくやりあっていたが、デインが繰り出した一撃がロキの木剣を折ったところで鍛錬が中断となった。



悔しそうなロキの頬に赤い線が見える。

折れた木剣が当たったようだ。

「ロキ! お顔に傷が……」

慌てて走り寄ったエリーナの言葉に、ロキは頬から流れる血を手で乱雑に拭った。

「ロキ! ちゃんと手当てしないと傷が残ってしまうわ」

「いいんだよ。こんな傷」

よほど悔しかったのか、ロキは唇を噛み締めたままだ。


そんな弟を愛情たっぷりに見つめながら、デインが声をかける。

「ロキ、上達したな。良くこれだけの時間防ぎきったな」

デインの言葉にもロキの表情は憮然としたままだ。

「……毎日鍛錬しているのに攻撃が一度もできなかった」

「はは、俺も毎日鍛錬している上に、騎士科でもしごかれているからな。そう簡単に追い越されるわけにはいかないんだ」

「魔術なら負けないのに……」

「そうだな、お前は魔力量も多いし、魔力も強いから魔道士を目指すのもいいかもな」

「魔道士?」

「ああ、近衛騎士が王室や王都を守るのに対して、魔道士は国を守るんだ」

「国を守る……?」

「魔道士の仕事内容は色々あるが、主なのは魔獣討伐だろうな。魔術を使って攻めてくる敵に対抗する仕事もある。もちろん、攻撃魔術や治癒魔術が得意だったり、魔道具などの錬金術が得意だったり術者の適性はあるから配属先はそれぞれだろうけれど」

「俺は? 俺はどれだと思います?」

「お前は……そうだな……。お前はなんでもいけそうだな。だからこそ、人が決めた道ではなくて、自分自身が頑張りたいものを選べよ」

「俺は……俺は欲張りだから、新しい魔術を作ってもみたいし、守る魔術も使いたい……」

「夢なんて欲張りでいいんだ。じゃあ、両方頑張れよ」

デインの言葉でロキは何か考え込んでいるようだ。



2人の会話を聞いていたエリーナは、そっとデインに話しかけた。


「デイン様、私は治癒魔術を勉強したいのです。その場合、卒業後はどうなりますか?」

「治癒魔術か。国立研究所に行って研究したり、治癒魔術士となる道なんだろうな」

「治癒魔術士……」


エレーナが瞳を輝かせたのを見たデインは苦笑する。

「エレーナが治癒魔術士か……戦場に出ることは侯爵どのが納得しないだろうが……」

デインは思わず、子煩悩な侯爵が近い将来に娘から夢を聞いた時の衝撃を慮る。


「……治癒魔術士は戦場に出ることがあるのですか!?」

ロキが慌てたように尋ねる。

「ああ、戦闘はしないにせよ、治癒魔術士は魔獣討伐にいく魔道士団について行くこともあるはずだ」

魔獣討伐で魔道士が傷を負う可能性が高い。なので、討伐には治癒魔術士を帯同して行くことがほとんどだ。


「それでは、私が治癒魔術士になれば、魔道士になったロキと一緒に討伐に行けるかもしれないのですね!」

嬉しそうな声を出したエレーナをロキが訝しげに見る。

「お前、戦闘の場に行きたいのか?」

「治癒魔術士になればロキと一緒にいられるでしょ。それに私の魔術でロキを助けられる可能性があるのは嬉しいわ。だって討伐でロキが怪我したら悲しいもの」

エレーナの言葉を聞いたロキは、横をフイと向いて髪の毛をガシガシとかきむしりながら「馬鹿じゃないのか」と呟いた。


ふと思い立ったエレーナはロキをじっと見つめる。

「ねぇロキ、少しの間、動かないでね」

そういうと、エレーナはそっとロキの頬の傷の上に手のひらを置いて、心の中で傷が治るように祈りながら魔力を少しずつ流し込む。

ふわぁと柔らかい光がエレーナの掌から溢れ出した。


「できたわ!」

頬の上に置いていた手のひらを退けると、綺麗な肌が現れた。

成功したことが嬉しくてエレーナの声が弾む。


「あ、唇も」

驚いたように瞳を見開いているロキの顔を覗き込んだエレーナは、ロキが噛み締めていた唇に血が少し滲んでいるのを見つけた。

よほどデインに剣術で敵わなかったことが悔しかったのだろう。

エレーナはロキの唇の上にも手をかざし、魔力をそっと流し込んだ。


「よかった、傷が消えたわ」

ちゃんとできたことが嬉しくて満面の笑みでロキの顔を見つめたエレーナは、他に傷がないことを確認するためロキの頬や唇をペタペタ触った。


「エレーナ!」

焦ったように声を出したロキのそばで、デインが驚いたように声をかける。

「エレーナは治癒魔術ができるのか」

「………実は人にやったのは初めてなんです。前に怪我した兎を見つけて、今みたいに手をかざして祈ったらできたのです。だから今回もできるかなって……勝手にごめんなさい」

思わず下を向きながら答える。


人に初めて使った魔術なんて言ったら怒られちゃうかしら……ちゃんと治るかわからないのに考えもなしに使ってしまったことを咎められるかしら……冷静になったエレーナがどんどん血の気が引いていく思いでいると、デインが笑い出した。

「ふふふ、君たちは本当に規格外だよね。面白い」

デイン曰く、治癒魔術を使える人は限られているらしい。

魔力が多ければできるものでもないそうなのだ。


「エレーナ、俺の怪我は治さなくてもいいくらいだったのに……」

ロキが不機嫌そうに言う。

「だって……ロキの綺麗なお顔に傷が残ったら嫌だったんだもの」

「……綺麗?」

「ええ、ロキのお顔は綺麗よ。蒼い瞳もすごく綺麗だわ」

ロキの顔を覗き込んだエレーナをギョッとしたように見たロキが慌てて顔を背ける。

「……ロキ怒ってるの? ごめんなさい、兎にしか使ったことない魔術をロキに使ってしまって……」

「いや、怒ってない。ただ……ちょっと顔が近くて……」

尻つぼみになるロキの言葉が聞き取れない。

「え? なんて言ったの?」

「なんでもない! ……わかった。これから、俺がエレーナの治癒魔術の練習台になってやるよ。だから他の奴には絶対使うなよ」

「え? そんなにダメだったの?」

「ああ、すごく危険だよ……あんなの他の人に味わわせたくない」

顔が赤くなったロキを見て、そんなに危ないのかとエレーナは落ち込んだ。



話を聞いていたデインが、笑いながらロキに声をかける。

「魔力が流れ込んできたのがわかったか?」

「はい……まさかあんな風に感じるなんて……治癒魔術って他の人からでもそうなのですか? これじゃ身が持たないです……」

「いや、多分加減をまだ知らないのと、エレーナの魔術の効果自体も強いんだろうな」

「……そうですか」


エレーナは話がわからないまましょんぼりとデインとロキを交互にみる。

デインがエレーナの頭を撫でながら、「大丈夫、危険はないよ。これからも魔術の制御特訓を続けるんだよ。加減を覚えていこう」と優しく言ってくれたので少し安心した。


耳まで真っ赤になったロキは髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き乱しながら「とにかく俺にだけ使うんだぞ!」とエレーナに約束をさせていた。

横でデインはずっとお腹を抱えて笑っていた。


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[気になる点] |これからも魔術の制御特訓はつづないにていくんだよ。 『つづないにていく』は、方言でしょうか、それとも誤字でしょうか?(続けていく、と言いたいのかと思われます)
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