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12 幼馴染(3)

幼馴染4人のお茶会がお開きになると、エレーナは逃げるように寮の部屋へと戻った。


メイサに淹れてもらったお茶を飲んで、ようやくほっと一息つく。


「お嬢様、やはりまだお顔の色がすぐれませんね。体調は大丈夫ですか?」

「ええ、疲れているだけよ。メイサのおかげで無事に今日を乗り切れたわ」

「それはよかったです」

「フィルが私の髪型を見て、メイサの技術を絶賛していたわよ。そうそう、今週末のお休みの日に一緒にアトリエ・ボルトに行こうって誘われたの。メイサも一緒に来てくれる?」

「まぁ嬉しいです。もちろんご一緒させていただきます。楽しみですね」

「ふふふ、アトリエ・ボルトに行くのも楽しみだけれど、私はメイサとフィルの話も面白くて聞くのが好きなのよね」

2人ともおしゃれや流行に興味があるから、話が盛り上がるのだ。

「そういえば、アトリエ・ボルトの近くに素敵なカフェが新しくできたと聞きましたよ」

「そうなの? それなら今週末にフィルと3人で行ってみましょうね」


(今週末まであと少し。楽しみがあるからきっと耐えられるわ)

……なんて安易な考えだったと、すぐに打ちのめされることになった。




翌朝、寮を出て校舎へと向かう途中、エレーナは目を疑った。

ちょうど男子寮から出てきたロキにばったり出くわしてしまったのだ。


ロキも学内の寮に入るなんて思ってもいなかった。

てっきり公爵家から通って、セシル王女を王宮まで毎朝迎えに行くのかと思っていたのに。


瞳を見開いて思わず立ち止まってしまったエレーナにチラリと視線を送ったロキは、エレーナの方へ近づき「行くぞ」と一言声をかけるとすたすたと歩き出す。


数秒遅れてロキの言葉を理解したエレーナは、思わず周りを見渡した。

──私に話しかけてくれた?

状況が呑み込めず呆然としているエレーナへ、前を歩いていたロキが振り返ると、「おい、行くんだろ?」と声をかけてきた。


「……はい!」

反射的に足を踏み出したエレーナは慌ててロキの後を追う。


──どういうことかしら。


横に並ぶのは躊躇ってしまうから、ロキの少し後ろを付いていくように歩く。

朝が強くないロキは、少し気だるそうだ。

端正な顔に相まって妙な色気が醸し出されているようで、前を歩くロキの横顔を覗き見ると少し落ち着かない気持ちになってくる。


前を行くロキの広い背を見つめながら、エレーナは必死に足を早めてついていく。

自分の後ろで小走りになっているエレーナに気づいたロキは、舌打ちをして歩く速度を落とした。


──え?今、舌打ちしたよね!?

「ロキ、何か急ぐ予定があるの? それなら……」

先に行っていいよ、って声をかけようとした時、「ロキ様!!」と呼びかける可愛らしい声が聞こえてきた。


声の方を見やると、ふわふわのピンクゴールドの髪が見える。

──ああ、そういうことか

胸の奥がスンと冷える。

(ロキはセシル王女を出迎えたかったから急いでいたんだ)


「ロキ様、おはよう。エレーナ様もおはようございます」

「ああ」

「セシル様、おはようございます」

元気一杯に微笑むセシル王女の姿を見て、エレーナもお腹に力を入れて微笑んでやり過ごす。


「ちょうどお二人に会えてよかったわ。エレーナ様、今日のお昼もご一緒してくれませんか?」

「お昼ですか? はい、構いませんよ。今日も食堂でよろしいですか?」

「ええ、よかった! ロキ様も一緒によ」

「は? 俺も?」 

「ええ、もちろんじゃない。一緒じゃなきゃダメよ。ね」


嬉しそうに微笑みながらロキを見上げるセシルは、本当に可愛らしかった。

屈託なくロキに視線を向けられるセシルが羨ましくて、そんな自分の気持ちを持て余したエレーナはただ手を握りしめてやり過ごすことしかできなかった。



◆◇◆



やっと今週の学校生活が終わった……

長かったわ……こんなでは先が思いやられるわね。


終礼のチャイムが鳴った時、思わず気が抜けてしまったくらいだ。


毎朝、寮を出て男子寮を通りかかるとロキに会い、横に並ぶことなく連なって教室へと向かう。

少し時間をずらしても見事にロキにかちあうのだ。

どうすればいいか解らなくて、エレーナは考えることを放棄した。


最大の苦行はお昼の時間だ。

毎日一緒に3人で食べたい、とセシル王女に請われ、承諾するしかエレーナには選択肢がない。

仲睦まじくしている二人を、昼食中ずっと目の前で見ることになったエレーナは精神的疲労が半端ではなくて、食欲もわかなかった。


授業が終わってから図書館に行くと、またロキと出会ってしまう。

同じ大きなテーブルの端と端に座り、ほとんど会話を交わすことはないのだけれど。

目の端で捉えられる位置に座るロキを意識しないようにしても、やっぱり存在が気になって心が落ち着かない。


──これって見張られているのかしら?


ずっと息苦しくてどうすればいいのか解らなかった。




「エレーナ」

教室に入ってきたフィルが、エレーナの机の近くまでやってくる。

「フィル! 久しぶりね」

「ずっとセシル王女にエレーナをとられていたからね。エレーナとゆっくり話せていないってシュリの機嫌が悪いよ」

「私も2人に会えなくて、本当に寂しかったわ」

「明日、アトリエ・ボルトにいく予定は大丈夫だった?」

「ええ、メイサも私も楽しみにしているわ。そうそう、メイサが近くに人気のカフェが新しくできたって言っていたの」

「じゃあ、そこにも立ち寄らないとね。明日は寮まで迎えに行くね」

「ええ、よろしくね」


フィルとメイサとの約束が、今週のエレーナの支えになっていた。

明日は久々に心穏やかな日が送れるかもしれない。

ロキのことを忘れて楽しもうと心に決めた。





(気持ちが疲れすぎて、今から図書館で勉強する気力がわかないなぁ)


ロキにまた図書館で会うかもしれないし。

今週は、本当に疲れたわ。

寝不足になる試験中よりも、今の方が心身ともに疲れている気がする。

今日は学園の中庭のガゼボで少し休んでから帰ろう。


今週は色んな感情に振り回されすぎて、エレーナの心にはもう余裕がなかった。




中庭のガゼボを通り抜ける初夏の風が心地いい。

周りに人がいないのを確かめると、ベンチに座ったエレーナは大きく伸びをした。

(う〜〜気持ちいい)

ガゼボの近くに植えられているクチナシの香りを風が運んでくる。

瞳を閉じたエレーナは大きく深呼吸をして花の香りを堪能した。

ガゼボの外に広がる手入れされた中庭を見ているうちに心が落ち着いてきたのか、エレーナは柱にもたれ、いつしかゆっくりと微睡み始めた。


気持ちがいい。

エレーナは微睡みの中、誰かが頭を撫でてくれているような安心感を感じていた。

誰だろう。

お母様かな。


頬を撫でる風がクチナシの香りと共に恋しい香りを運んでくる。

この香り………シダーウッドだ。

ロキの香り。切ない香り。

気持ちが溢れ出して涙が出てくる。


きっと都合のいい白昼の夢。


………ロキ………

もう邪魔はしないから。

どうか私にも微笑んで。


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