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プロローグ

数ある作品の中で、こちらに立ち寄っていただきありがとうございます。


───どうしてこんなことになってるの?



エレーナは今すぐ後ろの扉から逃げ出したい気持ちを必死で押し殺しながら、引き攣りそうな頬に力を入れて笑顔を保つ。ともすれば、涙が浮かんできそうな弱気な心に抗うため、お腹に力を入れて目の前のソファに並んで座っている二人の見目麗しい男女を見つめた。



「─それではエレーナ嬢、あなたにはサカール国セシル王女の指導係をお願いしたい」

グルート学園長の言葉に我に返ったエレーナは、真っ白で長く豊かな顎髭をたくわえた学園長の柔和な顔を思わず見つめ返した。


「………っえ?」

「セシル王女、この学園では新入学生に一人ずつ指導係がつくことになっています。留学生も同じです。こちらのエレーナ嬢は貴国の言葉、サカール語は学内1位の成績、魔術科の成績は2年連続首席の才女でもあります。指導係として彼女はこれ以上なく適任ですよ」


グルート学園長は優しい微笑みを浮かべて、セシル王女に私を紹介した。


学園長の話を呆然としながら聞いていた私に、学園長は視線を向けると優しく頷く。

意図に気づき慌てて膝を折り、カーテシーを行った。

「フューリー侯爵が長女のエレーナでございます」


なんとか動揺した声を出さずに微笑んだ表情を取り繕ったまま、挨拶を終える。


ふわふわした柔らかそうなピンクゴールドの髪、白い肌に映える、可愛らしくも艶かしくも見えるぽってりとした紅い唇。そして庇護欲をそそられるような小動物のような大きなクリクリとした瞳。座っていても小柄さがわかるセシル王女が微笑みながらエレーナに声をかける。

「サカール国王女のセシルです」

そして、セシル王女は可愛らしく首を傾げながら、隣に座っている男性に声をかけた。

「わたくしの指導係はロキ様では駄目なのかしら」


セシル王女が不安そうに上目遣いに見つめる視線の先にいる人を私はよく知っている。


額にかかっている硬そうな煉瓦色の髪が本当は柔らかいことを知っている。照れている時は髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す癖があることも。

すっと通った高い鼻梁に切れ長の蒼い瞳。整い過ぎて冷たくも見える美貌を持ち、頭が切れるが故に冷静冷徹と思われているけれど、本当は努力を怠らない人だ。

私の幼馴染であり………忘れがたい初恋の人。

コールソン公爵家次男のロキだ。

何の感情も見当たらないような視線が、学園長室に入ってからずっとロキから向けられているのを、エレーナは感じていた。


仏頂面で座っていたロキが切れ長の蒼い瞳をセシル王女へ向けた。

「セシル様、指導係は同性と決まっているんだ。それに、俺も同じ学内にいるから」

形の良い薄い唇から出た声を聞いたエレーナの胸が震える。

………少し声が変わってるわ。

3年ぶりだものね。


セシル王女はロキの言葉に満足したのか、花が咲いたような笑顔を浮かべたあと、エレーナを向き微笑んだ。

「エレーナ様 よろしくお願いしますね」


変わらないロキのぶっきらぼうな物言い。相手が隣国王女だろうとも。

ロキの態度をセシル王女は気にも留めていないようだ。

一国(いっこく)の王女に無愛想な態度が許されていることから2人の関係性が窺い知れる。

仲の良さを感じられるやりとりにエレーナの胸がぎゅっと締め付けられる。



───どうしてこんなことになってるの?


何度目かの自問自答を繰り返しているうちに話が終わったようだ。


「エレーナ嬢、明日からセシル王女の指導係をお願いしますね」

グルート学園長の優しい微笑みに救われた気持ちになりながら、学園長室を私は先に逃げるように退出した。



本日はもう1話投稿します。

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