帰り道
帰途についた私たち。
アレクは鼻歌を口ずさみ、今にもスキップをしそうな程、陽気で上機嫌だ。
何がそんなに楽しいのだろう?
「アレク、ご機嫌だね」
「そうだよ。君と一緒だし、君の分身は胸にあるし、言うことないよね」
そう言ってアレクは微笑むと私の頭をワシャワシャと撫でた。
うわわ!私は犬かなにかですか?
髪を片手で整えながら、アレクを見上げると、少し眉を上げた彼はパチっとウインクをした。
うーん、ホントに変われば変わるもんだよね。まさか、アレクが鼻歌歌ってウインクするとか、誰が想像できるだろうか。
「アレク、この後の予定は?」
「学園内デート」
「ええっ!?」
「って言いたいところだけど、生徒会の仕事がまだ残っていてね。今日は生徒会室に缶詰めになりそうだ。ティアも手伝ってくれる?」
「もちろん、いいよ」
私は苦笑交じりに返事をした。
そういえば、朝からずっとデートしていたみたいなものだなと思ったから。
こうして手を繋ぎながら、話しをしたり笑ったり。
私は凄く楽しかった。
アレクも楽しかったのかな?
「ねえティア、今日のお昼は学園のカフェに行かない?」
「いいね!」
おお、学園のカフェかあ。
メニューが豊富でとても美味しい。
友達のジュリアとよくランチをしに行くんだ。
私は魚介パスタのペスカトーレが好きで良く注文するんだけどね。
「アレクは何が好きなの?」
「ペスカトーレかな」
「えっ、私もペスカトーレ大好きなの。好みがおんなじね」
「ん、知ってる」
あれ、まただ。
なぜ私の好みを知っている?
私は訝しげにアレクの顔を覗き込んだ。
「ねえアレク、あなたはなんで私の好みを知っているの?」
アレクは一瞬驚き、そして非常に真面目な顔をして答えた。
「ティア、再三言っているけど、僕を誰だと思ってるの?」
そして「君の事は全てお見通し」とか言ってケタケタと笑ってる。
ああ、真面目に答えるつもりがないようだ。
ダメだなこれは。
突っ込んで聞いても濁されるだけな気がする。
私はため息をふっと吐いて諦め、アレクの手を引っ張った。
「ほらアレク、あと少しで学園に着くよ」
「ティア、そんなに急がなくても学園は逃げないから」
伝わってくる手の温もりが心地よい。
アレクは私の歩調に合わせて歩いてくれる。
穏やかな陽射しの中でニコニコと微笑む彼を見上げ、私も嬉しくて笑う。
あれ?徐々に歩調が緩やかになってきた。
不思議に思った私は「アレク、どうしたの?」と、声をかける。
返事がない。
どうしたんだろう?
アレクは立ち止まり、学園を真っ直ぐに見据えている。
その顔からは笑みが消え去り、そして繋いでいた手をするりと離された。
離した手が冷たく感じられる。
「アレク?」
私の声だけが響き、その静寂の広がりは無情に私を包み込んだ。