お菓子の王子様
なんなんだ、この可愛い生き物は?!
年上の男性に可愛いって!また思ってしまった。
氷の王子様って言われてるアレクだけど、今はお菓子の王子様だよね。
ってなんだか変かな。
あまりにも可愛かったので、その姿見たさに私はまたタルトを切り分け、アレクの口元へと運ぶ。
「あ〜んして」
至福の表情でぱくりとタルトを頬張るアレク。
どうしよう、やばい。
可愛い。
あ〜んにハマってしまいそうで怖い。
気が付けば私は、残ったタルトを全てアレクのあ~んに費やしてしまった。
恐るべしお菓子の王子様。
自分で食べるよりも、見ている方が満足なんてね。
「あ、俺も君のをほとんど食べちゃったね」
「アレク、気にしないで」
私が見たかったからいいんですよ。
ニコニコして言うとアレクは「どっちのケーキも美味しくて甲乙つけ難いよね」と感想を述べていた。
うん、私もそう思うよ。
「そろそろ仕事してこようかな」
「ん、仕事ってここで?」
「そうだよ。学園祭の出店依頼をするんだ。ティア、少し待たせるけどいいかな」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
アレクは立ち上がってショーケース近くにあるカウンターへ歩いていった。
少し冷めてしまった紅茶を飲みながら、カウンターを見ると、アレクは男性従業員二人と話をしている所だった。
一人は髭を蓄えた恰幅の良いスーツ姿の男性。見た感じ店長さんかな?
あとの一人は細身で背が高く、少し長めの茶髪を後ろで結いている。
白いコックコートと赤いタイを身に着けている所を見ると、パティシエさんだろう。
三人はカウンターの奥にある部屋に入ったようだ。
暇になっちゃったな。
私は窓の外を眺めていると、先程アレクと話していた細身の男性が銀のトレーを片手にやってきた。
「失礼します」
そう言うと、いちごと生クリームがたっぷり載ったシフォンケーキのお皿をテーブルに置いた。
「あの、私注文していませんよ」
「あ、これはサービスです」
えっ、サービス?どういう事だろう。
首を傾げていると、細身の男性はお辞儀をしてから話し始めた。
「アレクが元気になったお礼です」
「アレクの···お礼?」
アレクの知り合いなのかな?
「ああ、すみません。俺はこの店のパティシエで、ケヴィンと言います」
「ティアです」
私が名乗ると、ケヴィンさんは目を細めて優しい笑顔を見せた。
「俺とアレクは旧友なんです」
この人はアレクのお友達なのね。
なんだかとても優しそうな人だ。