媚薬
コトリっと小瓶を机に置く。
キラキラと輝くピンク色の液体が入ったこの小瓶は、可愛らしいハート形でしっかりとコルクで栓をされている。
私はこの小瓶に付いていた添付文書を読んで腰を抜かしそうになった。
なぜならこの小瓶の正体は【媚薬】。
そう、惚れ薬だったから。
これは先ほど姉のシルフィから譲り受けたものだ。
「あんたもこれで彼氏を作りなさい」
そう言われ首を傾げつつ受け取り、これがまさか【媚薬】であるとは思わずに、そのまま学園まで持ってきてしまった。
姉よ。一体全体、なんてモノを持たせるのか。
確かに私はメガネ地味子だ。
容姿は赤みがかった茶髪に緑色の瞳。背は少し低めといった所。まあ、何処にでもいる地味で平凡な子だと思っている。
放っといたら一生彼氏なんかできないだろうと心配する気持ちも分かるけど、これを学園で使えというのか?
教室の隅で頭を抱えていると、女性の声が室内に響き、私は慌てて教室の入口を見やる。
「ティア、あんた生徒会室に行かなくていいの?今日は仕事が山積みで忙しいんじゃなかった?」
「いけない、忘れてた!ジュリア、ありがと。行ってくるね」
同級生で仲の良いジュリアが声をかけてくれて助かった。
私は机の上の小瓶をひっ掴み、生徒会室へと駆け出した。
今日は溜まりに溜まった書紀の仕事を少しでも片付けようと早起きして出てきたんだった。
【媚薬】に気を取られ、仕事の事を忘れるなんてどうかしている。
私は走りながら頬をペシペシと叩いて気合を入れ直した。
今日中に片付けないと、あの人の逆鱗に触れてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
生徒会室にたどり着いた私は、部屋のドアをノックした。
こんな早朝に来ている人はいないだろうけど。
「どうぞ」
部屋の中から返事があったので、私はドキッとする。
うわ!もう来てる人がいるの?
まさか、この声。
あの人じゃないよね···。
私は「失礼します」と声をかけ、そっとドアを開けた。
広い生徒会室の一番奥、大きな執務机に向かい書類を記入する人物が私をジロリと見る。
ああ、ついてない。
あの人がいるなんて。
「あ、生徒会長。おはようごさいます」
「···ああ、おはよう」
控えめな声で挨拶をすれば、しぶしぶという感じで返答があった。
一番会いたくなかった人物、この学園の生徒会長。
私、この人苦手なんだよね。