結婚式は最後に~めでたしめでたし~
元の世界の現状を見たリアは、再び目覚めると城騒動になった。
三週間も眠っていたからだ。
全ての事が済んだということで、リアはイオスとの結婚式を執り行う事を言われ頭を抱える。
何せ、母国の両親が来るからだ──
リアは──守里は夢をみた。
母が、自分の墓に墓参りをしている。
『守里、貴方が死んで二年が経過したわ』
──うっそ、もうそんなに──
『……まだ、家に貴方がいるようで、いないことが辛いの』
──お母さん──
『……もう少しだけ、このままだけど、だめなお母さんだけど、頑張って生きるね』
──うん、長生きしてね、お母さん──
母が、墓から立ち去ると場面が暗転した。
香奈がいた。
『香奈! どこに行ってたの?!』
『お父さん、お母さん……』
『心配したんだぞ!!』
抱きしめる両親、しばらく抱きしめ合ってから、香奈は口にした。
『私ね、医者か看護師を目指すの!!』
『ど、どうしたいきなり!?』
『どうしたの?!』
『たくさんの人を救わなきゃいけないことを……うん、たくさんの人を救うって約束したの!』
『だ、誰とだい?』
『助けてくれた人と!』
香奈はそう言って家に入り、勉強を始めた。
『たくさんの人を救えるようになってみせる……!!』
──そうか、そういう方法で救うことにしたんだね、応援してるよ──
守里は微笑んでそれを見つめた。
しばらくして、世界が暗くなり、そして明るくなった──
「ん……」
「──陛下!! お妃様が目を覚まされました!!」
ばっと起き上がる音がリアの耳に届くと、目の下にクマを作ったイオスがリアの視界に入った。
「……私どれくらい……」
「三週間、眠り続けていた……」
「oh……」
リアは声を漏らした。
「ごめんね、心配をかけて……」
そう言うと、イオスがリアを抱き起こして抱きしめた。
「……」
「後……ぐるじいからゆるめて……」
「陛下!! お妃様の顔色が青く青く!」
配下の言葉に、ようやく放したイオスに、リアはふぅとため息ついた。
「お妃様との大事な事があるんですから、陛下しっかりしてください!」
「わ、わかっている」
動揺しているイオスを見てリアは首をかしげる。
「一体何?」
「何って、お二人の結婚式です!!」
「あ」
リアは思い出した、結婚式だけはやってない事を。
ゴタゴタしていたため、延期延期とイオスが涙を流していたことを思い出す。
「ちなみに、結婚式は……」
「明後日です!」
「……ちなみに来賓に……」
「リア様の父君と母君がいらっしゃいます!」
「ギャー!!」
リアは頭を抱えた。
父と母はおそらく滞在するだろう、その間猫をかぶることは必須なのだ。
「皆の者には、普段のリアの発言は言わぬよう厳戒態勢を敷いた故……頑張れ」
「頑張る……」
リアはげんなりとして答えた。
──ああ、またあの口調の日々か、面倒くさい……──
式の前日、アーデルハイト王国の国王と妃──リアの両親がやってきて、リアをこれでもかという位猫をかぶりまくった。
周囲はその違いに笑いを堪えるのに必死だったという。
「いつの間にこんなドレスを」
魔術文様を刺繍であしらった色鮮やかなドレスと、ヴェールを纏ってリアは不満そうに言う。
「其方を妃にしてからな」
「大分前からじゃないですか」
「だが、事が済むまで出せなかったのだ、許せ」
イオスの言葉に、リアは首を振った。
「別に私は怒ってはいませんよ、ただ陛下がこのようなドレスをこっそり作ってた事が不満なんです、私に内緒で」
「すまないな、本来ならば其方の意見も取り入れるのも大事なのだが……其方の意見を入れると簡素なドレスになって式向けじゃないと侍女達から打診されてな」
「全くもう」
イオスとリアのやりとりを、仲睦まじく見ているリアの両親を見て、リアはため息を吐いた。
「お父様とお母様、いるとすごい心労が……」
と小声でぼやいたのをイオスは苦笑した。
「女神リシュアンの名の下に、ともに支え合い、生きることを誓うか?」
「誓います」
「誓おう」
「では、誓いの証の交換を──」
リアとイオスは互いの胸につけていたブローチを交換する。
「これにより、二人は夫婦となる誓いは立てられた──」
神官の言葉に、周囲はわっと歓声が上がった。
「遅い結婚式ですまないな」
「別に構いませんよ」
「ふ、お前らしい」
イオスはリアを抱き寄せて、そっと頬に口づけをした。
リアは一瞬きょとんとしたが、笑って口づけを返した。
『おめでとう、どうか世界をよろしくね──』
──はいはい、頑張りますよ。女神様──
女神リシュアンの祝福に気づいたのはリアだけだったが、リアはそれを言うことなく、そっと胸にしまった。
そして全てが済んだからこそ、リアは問いかけたくなった。
──そういえば前々から言いたかったんですが説明責任大体果たしてない気がするのは気のせいですか?──
『……』
リアの問いかけに無言になる女神リシュアン。
──やっぱりかー!──
『ご、ごめんなさい!! あんまり説明しちゃうのもどうかと思って……』
──自主性に任せないで、ちゃんと毎回口出ししてくださいなー!!──
『ご、ごめんなさい!!』
女神リシュアンと、リアのやりとりに気づいた者は誰もいなかった。
「──と言うわけで初夜だが、何故そう距離をとる?」
ベッドの上で距離をとるリアを見て、イオスは不満そうな顔をした。
「言っておくけど、まだ心構えができてないので、そういうのはやめてちょうだい!」
「……そうか」
しょんぼりするイオスに、リアは言った。
「な、なるべく早く心構えができるよう頑張るから。それまではいままで通り一緒に寝るだけで、我慢してね?」
「……わかった」
「ごめんね」
リアはそう言うとベッドに横になったイオスを抱きしめた。
「……そういう無防備なところが困るのだぞ」
「こら」
リアはイオスの頭をぽすんと叩いた。
そして顔を見合わせて笑い合った。
女神リシュアンに祝福された世界のとある国。
魔術王とも呼ばれた王と、聖女と呼ばれたお妃様は幸せに暮らしたそうです。
あまり良くない出会いから、結婚した二人。
女神に祝福された者同士の運命の結婚だったのかもしれません。
そう言ったら、二人は笑うでしょう。
そんなこと関係ない、という風に。
それはただのきっかけだと、笑うでしょう。
何かのきっかけで、巡り会う人達。
巡り会った二人。
その幸せはいつまでも続きました、いつまでも──
END
守里、もといリアの女神様からのお願いに関する頑張りはこれにておしまいです。
ここまで付き合ってくださりありがとうございました。
では!