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鬼『子』の眼にナミダを 拾参

拾参


「私はね、キコさん。結局のところ、当前のところ、心の芯の髄から、貴女がどうなろうと知ったことではないのですわ。


貴女のくだらない前口上も。

貴女の掃いて捨てる程に在り来たりな物語も。

貴女の独りよがりな独白も。

貴女の慰めを渇望する納口上も。


貴女の存在を構築する、全ての要素が私にとって本当に、本当にどうでもいい事なのですわ、三石きこさん。


あら? そんな顔をなさらないで? 日本人形のような可愛いお顔が台無しですわ。


申し訳ないのですが、そんな剣呑な顔で睨まれましても、戦々恐々してしまうだけですの。

それをご褒美に出来る程には私も人間が出来てませんので――ごめんなさい?

それに、私は同性を愛でるような趣味は毛頭に、毛根の髄の髄までに持ち合わせてないの。

同性愛を否定は致しませんわ。ルートのように聖書に記すような、サウジアラビアやイランのように死刑に処するのもどうかと思いますしね。


そう自由なのですわ。


恋愛は否応なく自由ですわ、三石きこさん。


誰が為に自身を費やし、誰が為に自身を犠牲にし、誰が為に自身への災を厭わない。

それと同時に――。

誰が為に他人を費やせ、誰が為に他人を犠牲にし、誰が為に他人に厄を撒き散らす。


それもれっきとした<愛の象>なのですわ。


革命だってそうでございましょ? どんな革命だって、原点は<愛の為の行動>。

それを向けるベクトルは千差万別ですが、愛の為に先駆者は立ち上がり、拳を掲げ、大地を震わす程に声を高らかに上げたのですわ。


ふふっ。お兄様、話しが飛びすぎてる、ですって? 

いいえ、まったく飛んでおりません。私の話はこれっぽっちも飛んでおりませんわ、正道をまっしぐらに進んでおりますわ。


だって、そうでございましょ?


三石さんは、私の<愛>を犠牲にして、自分の<愛>を守ろうとした。


その一点なのですわ、お兄様。


あら? そんな鳩が豆鉄砲くったような、ずっと母だと思ってた人が実は父で、乳はしっかりあるのに貴方は父でしたか、こりゃ参ったね。はっはっは……。みたいな顔で驚かないでくださいません? ――えっ?そりゃ驚くって?


お兄様。お兄様は、どこぞのラブコメの主人公ですか? まさかと思いますが、私のこの想いに気づいてないとでも仰るのですか? ……本当に気づいてなかったのですか。

流石の私も溜息モノですわね。鈍感さえも通り越して、お兄様は無感なのかもしれませんわね。それはある種の罪ですわよ、お兄様? こんなにまで愛情を曝け出してるのに、それをなにも感じ取ってもらえないと分かったら、常識ある乙女なら自殺ものですわね。

いっそお兄様みたいな男性はこの世からお亡くなりになった方が、この世の為かもしれませんわ。

――しかし、ご安心くださいませ。

そんなダメ男な、害虫以下のお兄様ですが、私は、それはもうどうしようもなく愛しておりますわ。だから、勝手に死んでしまったらいけません。死ぬ時は私におっしゃってくださいまし。死ぬ直前――、いえ、死んでからも私をお忘れにならないように、甘く、凄惨な殺し方でお兄様を殺して差し上げますわ。


まぁ、お兄様を卑下する事は、またのお楽しみ、ということで話を戻させて頂きます――、えっ? やっぱり話が飛んでるですって?



さてさて、三石さん。先述も述べたように、私は貴女になんか、これっぽっちも興味がないのですわ。

では何故、こんなにまで貴女に執着するか、粘着するか、という疑問が出てきますわね。

まぁ、お兄様から三石さんを助ける。という話を聞いたから、というのもありますが、正直に申し上げますと、私はその<助ける>に関しては了承した覚えはありませんの。

お兄様。そんな怪訝なお顔をなさらないでくださいませんか? 私は「ワン! ワン!」としか言っておりませんの。

あらあら、またそんなお顔をなさって、アルパカ面というより、もう只の馬鹿面ですわね。

見て下さいませ、この身体を。どう見たって、<人間>でございましょ? 

確かに同じ脊髄動物で、哺乳類に区分される二つですが。

この艶かしく艶やかで、放漫なまでに豊満な色気。

全ての異性を魅了する丹精なまでに端正で端整な顔はネコ目イヌ科イヌ属には到底真似できない事ですわ。

まぁ、お兄様が獣趣味というなら、私も不承不承ながら犬耳、首輪、尻尾を着用して、金輪際、「ワンッ」としか言わないでも構わないのです――バター犬にだってなり下がる心意気ですわ。


と、このように三石さん。私はこのアルパカ面で馬鹿面の男性にお熱なのです。ベタ惚れなのです。どうしようもない程愛しちゃっているのですわ。


そんな相手が、他の女性を<助ける>なんて言い出したから……。

胃も肺も心臓も耳も脳も子宮も……その他多くの器官は荒縄にきつく縛られたように悲鳴を上げ――。

幹細胞、造血幹細胞、血球、神経幹細胞、神経細胞、ナチュラルキラー細胞は異常なまで細胞分裂を行い――。

酸素、炭素、水素、カルシウム、リン等の分子は全てが窒素に朽ち果ててしまう程にまで――。


悩み、苦しみ、嘆き、怒り、そして何より……。


嫉妬しましたの。



ふふふっ。<嫉妬>とは恐ろしいモノですわね。こんなにまで私が異常な<行動>を行うとは思いもしませんでしたわ。正直、自分でも驚きですのよ。

赤の他人の貴女の情報を得るために何キロも離れた遠方の土地にまで向かうなんて事もしてしまいました。

赤の他人の貴女の行動を把握する為に何人もの人間を動かしました。

赤の他人の貴女を追い込むため、愛しいお兄様までも犠牲にいたしました。


もう自分でも、滑稽な程に滑稽ですわ。


しかも、蓋を開けてみたらなんて事ない。


只、単に<昔好きだった男が忘れられない>だけじゃないですか。


私だって、鬼じゃありません。貴女は鬼に成り下がってしまいましたが。

私は純情なまでに人間。

純粋なまでに人間。

純真なまでに人間。

純然なまでに人間。

純良なまでに人間。

純正なまでに人間。

純潔なまでに人間。

至純なまでに人間。

清純なまでに人間。


人間。仙夕ななかなのですわ。


嫉妬にいきり立つ心もあれば、涙に頬濡らす心もあります。

もっと深淵で、もっともっと深遠なお悩みなら、私だって助力を厭わないつもりでいましたの。

三石さん。三石きこさん? 



死者はどんなに願おうが戻ってきませんわよ。



貴女が三ツ石の神と、どのような契約を交わしたなんて知った事ではありませんけど、粗方の予想はつきますわ。

神の戯言に弄ばれてるのも知らずに……いえ、知っていながらもなお、嘘の契約に縋るだなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がありますわね。


その契約の為に、私の愛しい人に危害を加えるだなんて、もっての他ですわ。

貴女の愛の為にお兄様の日常が一ミリでもズレが生じるのならば……。

私はどんな凄惨でも――。

どんな残虐でも――。

どんな残酷でも――。

どんな勝手でも――。

どんな無法でも――。

どんな無用でも――。

どんな無秩序でも――。


つまり、どんな手を使ってでも、私の平凡な<愛>を守りますわ。



さぁ、三石さん? ここは廃病院なんて廃れた、意味のなくなった場所ではもうありませんの。

今、ここで、この宣言で、ここは戦場に変化いたしました。

自分の事だけ考えましょう。

自分の愛の事だけ考えましょう。

生き残るのは、否応なくどちらか一つです。


自分の為の自分による自分だけの、愛の為に戦争を致しましょう。



愛の為だけに革命を致しましょう」



                                              ~続く~

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