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鬼『子』の眼にナミダを


 三石きこという少女は僕にとって『隣人』だったのだろう。

そして、彼女にとっても僕は『隣人』だったのだろう。

この二年間、同じクラスなれど会話もろくにした時も無く、しようとも思わなかった。いや、純然たる男子高校生としては女の子の友達、知り合いは数多い程、自分の価値を高めるものであるからコミュニケーションを取ろうとしたという記憶はある。

 結果から言えば『成功』だった。入学当初、適当に釣るんだ男友達と女子の輪に突入して友達になろう、という建前で『彼女候補』を目利する為に、テキトウに適当な女子グループに話し掛けに行った。

 

 そこに彼女、三石きこは『普通』『当前』にいた

 

 第一印象と言えば『何も覚えてない』というのが正直なところである――いや『印象がない、特徴がない』というのが第一印象だったのかもしれない(単に隣にいた、ななかの事が気になってただけかもしれないが)

まぁ、我が勇気ある足軽部隊は、その女子グループとファーストコンタクトして、携帯番号も入手する事を成功したのだが――三石キコとは、それだけだった。

携帯の番号を交換したその夜に、挨拶がわりにメールを送ったのだが、メールが送れなかったのである。その時はアドレスの打ち間違いか、と思い、明日にでも、また聞けばいいか。なんて思ったのだが、次の日には、そんな事も僕は忘れていた。

 そう、前に述べたように、結果は『成功』だった。

 だって、三石きこという存在は、僕にとって『成功』にも『失敗』にも区別されてなかったのだから。

 それ程にまで僕にとって、彼女の印象、彼女の存在は、『どうでもいいもの』だったのだ。

 その後も、文化祭、体育祭といった、学級一体になるイベント以外では、会話なんてろくにせず、いや、文化祭、体育祭の時さえも会話なんてろくにせず、この二年間を過ごしてきた。

 僕は、ななかの存在に目移りしながらも、平凡な男子高校生として生活し、たぶん、三石きこも、誰かの存在を気に掛けながら、平凡な女子高校生として生活していたのだろう。

 だから、今から述べるのは、とある切っ掛けで、彼女の存在を、彼女を『三石きこ』という一個人として認識した、後の話しである事を念頭に入れてほしい。

 三石きこは、友達が多い訳ではなかった。どちらかと言ったら独りで居る事が多く、たまに近くの席にいる女子や、ななかと会話する程度で(会話といっても、明日のテストの範囲とか教科書の貸し借りといった、会話ともいえない会話な内容が多かったが)、昼食時も、すぐに教室を抜け出して、屋上で独りで昼食を摂っていた。勉強もそこそこ出来るみたいで、学内ランクをみると、総合で三十番台には入る程の、頭の良さである(蛇足ではあるが、僕もいつも三十番台である――下から数えて)

見た目だって、よく見ると可愛い印象で、身長は百四十五後半から百五十前半、体型もやせ型ではあるが、頬にまだ肉付きがあり、眼は大きく、アヒル唇(ここは個人的にヒット)で、髪型も、肩に掛かるかくらいの茶色のセミロングで、毛先に軽くカールが掛かって、全体的に幼い印象が強い。女子の情報に長ける友人に話しを聞くと、隠れファンも多く、年上にモテるらしい、告白した人もいるらしいが、見事に撃沈したらしく、他校に彼氏がいるのではないか?というのが友人の予想である。

友人曰く、「人懐っこくないトイプードル」らしい。


 そう、何故、彼女をここまで認識し、恋に翻弄するうら若き乙女の様に、彼女に対して述べたのか。

 あれは、夏も終わりを迎え、そろそろカーディガンだけでは寒さに耐えられなくなってきた秋の中頃、放課後に僕は独りで学校の屋上にいて、カメラ片手に洗朱色の空を写真に納めていると、逆側のドアから人が入ってくる音が聞こえて、振り向くと三石きこが居た。三石きこは僕に気づいてなかったらしく、柵の手前まで歩いていくと、何か紙を破り捨てて空へ放り投げていた。


 その時である。


 彼女の茶色いセミロングの髪が、まるで生きてるように蠢き見る見るウチにお尻の辺りまで伸びて、色も黒、いや、漆黒色に変わった。

それに対しても驚いたが、なによりも驚いたのはそこじゃなかった。


 彼女の頭には、十センチ程の乳白色の突起物が左右に二つ、そうまるで


 鬼の角のような……


 昔話に出てくるような、地方の伝奇に出てくるような



 鬼の子を、僕は認識した。

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