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8.ナナ先生


 ゆっくりと瞼を開けると、見慣れない天井が見えました。


 真っ白な清潔な天井をぼんやりと眺めていますと視界の端から黒い影が覆い被さってきます。


「おねぇええぢゃんんん! いきかえってよがっだぁあ!」


 その馬鹿力で頭を捻り潰さんばかりに抱きついてきます。全くもう、本当にうちの弟はゴリラなんだから。


 打ち砕かれた胸は息をするたびに軋む様できたが、これも生きている証拠と前向きに捉えましょう。


 なんとか顔に張り付いていたテトを引き剥がし、辺りを見渡します。どうやら私はカーテンで仕切られたベッドの上で眠ってたようです。

 少し硬いベッドの上でよいしょと体を起こします。

 すると、カーテンを開けてあまり馴染みのない擁護の先生、えーとたしかナナ先生が顔を出しました。


「起きた? 具合はどう?」

「まあ、よくはないですわね」

「命があっただけ良かったと思いなさい。たまたま回復魔法が得意な子がいて応急処置が間に合ったからよかったものの、心臓はショックで一回止まってるんだから」


 なるほど、数秒心停止していたわけですわね。

 静かにテトに視線を送りました。すると、


「てへっ」


 おい、舌出しててへぺろじゃねえ。何ワロてんねん。歯を見せるな。


「ちなみに、あの女の子に刺されたクゥーオンって子は病院に運ばれてなんとか一命は取り留めたわ」

「ちっ」


 おっと、ごめんあそばせ。

 ナナ先生の話に舌が勝手に動きましたわ。


「そんなことより命の恩人にお礼がしたいわ。どちらにいらっしゃるのでしょう?」

「ああ、あの子なら授業出てるわ。二年なのに光魔法だけじゃなくて回復魔法まで使えるんだから相当優秀な子みたいね」


 ナナ先生は私の目やら体温やらを検査しながらそう答えました。

 二年ということは同じ学年ですわね。

 にしても同じ学年なのに全く名前はおろかあの一度見たら忘れられないような顔も覚えていないなんてメアリはどこまで人間に興味がなかったのでしょう。


「あの子のお名前は何と言いますの?」

「知らないのかい、同じ学年でしょ? えーと確か」


 ナナ先生は一通り検査を終えると、また奥へ引っ込みガサゴソと書類をひっくり返す音が聞こえてきました。


「あったあった。最悪の場合(ケース)様に一応対応してくれた子の名前を教えてもらってたのよ」


 ぐしゃぐしゃになったメモを渡してくださったのですが、この短時間でここまで黄ばむとはどこに放置されていたのでしょう。

 それはともかくシワだらけの紙を伸ばすとそこには綺麗な文字でこう書かれていたました。


『ミア・ローズ・ワトソン』


 なるほど、これが宿敵(ライバル)の名前ですわね。

 ふ、待ってなさい。私が完膚なきまでに叩きのめしてあげますわ。


 こうもしていられないと勢いよくベッドから起き上がるとぐらりと視界が揺れました。


「あ、ちなみに命はなんとかあるが全治一か月、一週間はベッドから起き上がれないほどの傷は背負っているから無理しないようにね」

「そ、それは早く言ってください……」


 かくして私は新学期早々、クズ男のメンヘラ女に刺されたクズ男の女Aとして噂さることになりました。

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