5.校舎裏にて
「さすがメアリだよ! 上級精霊のノームを召喚できるなんて!」
ネフがそう言いながら走って私を迎えにきました。
私はふんと鼻を鳴らしながら「当然ですわ」と返しました。故意に出したわけではないけれど運も実力のうちですわ。
ネフはしばらく私を褒め称えたいましたが、名前を呼ばれて「それじゃあ行ってくるよ!」と手を振り走って行きました。
私は慣れない魔法で疲れてしまったのでネフのテストを見ずにその場を離れました。
私はたしかに学年一の魔力を持っていますが、使う魔法が意図せず上級魔法などの魔力を根こそぎ持っていかれるものになってしまうと流石の私も疲れてしまうのです。
日陰を探していると突然歓声が聞こえてきました。あれは確か一年のテスト場ですわ。
たしか一年は魔法がいまいち扱えないので体力テストとかだったはずですわ、それでこんなに盛り上がるなんて。
「やっぱ、あいつすげぇな。砲丸投げで球が場外飛んでったぞ」
「100メートルも5秒で走り切ったしな。トーンよりはぇよ」
「もう人間じゃねぇよな」
「姉は魔力馬鹿で、弟は筋肉馬鹿か」
あ、これは。
「ねぇちゃぁああん!」
噂の人外、テトが一年のテスト場からこちらに手を振っていている。ぴょんぴょんと跳ねているが人の身長を軽々超えて跳ねている。
一年達が振り返ったので私は笑顔を貼り付けて手を振りかえす。振り返さなければ、冷たい人と思われてしまいますので。
するとテトは嬉しそうに跳ね上がりながら両手で降り出した。
それだけ見ると私はゆっくり休める場所を探しに行きました。
あら、ここなんていいじゃないですか。
私は校舎裏の影になっている所で一息つきました。
テスト中のこんな校庭の隅で涼んでいる方は他におらず、ゆっくりできますわね。
こんな所で油売ってないで早く王子でも攻略しに行けよと思うかもしれませんが、恋愛はがっついたものが負けるものなのです。家宝は寝て待てというやつですわ。
「君、さっきのノーム召喚すごかったね」
急に声かけられて思わず吃驚してしまいました。
慌てて振り向くと、そこには青い髪の泣きぼくろイケメンが立っていました。
「休憩中に驚かせてすまない、私はクリス・マーヴィン・クゥーオンだ」
キターーーーーーーー!!!
攻略対象ですわ!
まあ私の本命は王子ですけれども、彼もしっかりとした金持ちには変わらないですしキープとしてしっかり好感度を上げとくのも損ではないですわ。
「いいえ、私はメアリ・ハドソンです。先程のノームはたまたまですわ」
「たまたまでノームを召喚できるなんて中々に面白い女……いや、素晴らしい人じゃないか!」
何か聞こえた気がしたけどいいわ。
彼は膝ついて私に手を差し伸べた。
「どうか、私と一緒に今度にどこかへ遊びに行かないか?」
さすがゲーム!!
展開が意味わからないぐらい早いですわ!
何もしてないのに興味持たれるなんて主人公フィルター万歳!
こんなの楽勝ですわね!
「もちろん、楽しみにしていますわ」
私はふふと笑いながら彼の手を取りました。
その瞬間、目の前が真っ赤になり大音量で「にゃーにゃーにゃー」と猫の声が聞こえてきました。
腑抜けたアラーム音のエマージェンシー状態に私は動揺しましたが、目の前のクリスは平然としていたので私しか聞こえてないという事なのでしょうか?
にゃーにゃーにゃーにゃーと煩わしい音に混乱してしまい思わずぎゅっと彼の手を握ってしまいました。
それを何と勘違いしたのか彼は立ち上がって嬉しそうに私の腰を引き寄せ、そしてーー