3.魔法テスト
学園にはトーン馬車を使って1時間、そこから歩いて30分もかかるところにありますの。
トーン馬車というのは馬の10倍の脚力をもつトーンという生き物に前世で言う汽車の車両をつけて引かせるもので、まあだいたい電車と同じぐらいの速度が出るものですわ。
しかし電車と違って揺れが激しく座り心地も悪い。
私が言いたいのは超遠いし、超腰が痛いということです。
「じゃあ……ねえちゃん、ここでお別れだね…ぐずん…ねえちゃん、離れ離れになっても明るく元気に頑張るんだよぉおおお!」
まるで今生の別れのように大声で泣き出すテトを一年の階に置いて私は二年の階へと登りました。
辺りはきゃっきゃっと騒ぎながら二年生楽しみだねとか、休み何していたのなどと会話している中、私は無言でクラスに入り、静かに席に着きました。
この学園ではクラス替えなどなく三年間同じクラスメイトで過ごします。
そしてお察しのようにメアリ・ハドソンの記憶では友達と呼べる存在がクラスに全くいませんの。メアリとマリアの記憶二つを持っているので所々抜け落ちている所もあるのでもしかしたら一人二人ぐらい声をかけてくれる友達いるのかと思いましたが、やはりメアリ本物のぼっちだったとは。
「メアリ、おはよう」
「ちっ」
あら、舌打ち失礼。
振り返るとネフ・サンがいました。舌打ちに驚いたのかニコニコと人懐こい笑顔をしていたのに、目を開いて面白い顔をしてますわ。
「い、い、今舌打ち」
「そろそろホームルームが始まるので早く席戻られたらどうですか?」
笑顔でそういうと丁度チャイムが鳴り、ネフは尻尾を垂らして席に帰って行きました。
軽いホームルームが終わると、私達は体育館へと移動し新学期の名物詞である始業式が始まります。
始業式の内容なんて「日々勉学を〜」とか「毎日の素行が〜」とかなので割愛しますわ。
そして次に始まるのは校庭へ移動して学力テストならぬ魔法テスト。
新学期に必ず行われる全学年で行われるテストで「お前ら長期休みだからってサボるなよ? 休み明けにすぐテストするからな? 覚悟しろよ?」という先生達の声が聞こえきますわ。
成績には入らないのでそこまで頑張らなくていいのだが、このテストは全校生徒の前で行われる為にあまりにも下手な結果を出すと恥となりますわ。
「いやー緊張するね」
いつの間にか隣に来たネフが伸びをしながらそう言いました。
「二年生だから魔法射撃かぁ。僕は魔力が少ないからいつも疲れちゃうんだよね」
「あら、そうなの」
一応知っていますわ。こいつは魔法の源である魔力が少ない為に大掛かりな魔法は使えないけれど、魔力コントロールがピカイチで魔法系のテストはいつもいい点を取っていました。
「今日話し方がいつもと違うね」
「あら、私はずっとこの話し方ですわ」
さすが腐れ縁。
実妹のティナでさえ全く気づかなかったのに。いえ、家族なのに気づかないティナに問題があるのでしょうね。
「話し方ですわって……」
頭に大量の疑問符を浮かべますが、私は目の前で行われていれるテストを集中して見つめます。
魔法射撃は50mほど離れた的、三つになんでもいいから魔法を当てるテストですわね。
的の中心に近いほど点数は高く、ほかにはどれだけ魔力を込めて威力を高められるかとあとは難易度が高い魔法かなども点数に含まられるそうですね。
「次、メアリ・ハドソン!」
先生の声に私は返事をしながら前へと出ます。
後ろからくすくすと笑い声が聞こえ、振り返ると同じクラスの女子が私を見てこそこそと話しては笑っています。
私はふんと鼻を鳴らすとまた前を向き、的と向き直ります。息を大きく吐き集中します。
メアリは魔法をそんなに使うタイプではなかったので私もあまり得意ではないのです。むしろ苦手なのです。
「水の精霊、ウンディーネの名の下に私に力をお与えください〈水槍〉」
…………
しっ、ぱい……かしら?
呪文を唱えても何も起こらず私は流石に冷や汗を垂らしました。
「やっぱり魔力馬鹿には魔法は難しかったようね」
またクスクスと笑い声が聞こえて来ました。
そう、メアリは魔力馬鹿または魔法音痴と呼ばれているのです。
魔力は学年一とも言われるほどあるのに、その魔力の扱いが未熟過ぎて正しい呪文を唱えても使いたい魔法が使えない。ネフとは真逆ですわね。
悔しさで唇を噛みしめながら、私はなんでもいいから魔法が発動する様に必死に集中しました。