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1.モルペウス


「お前は相変わらず夢への落ち方が独特だにゃ」


 目を開けると、そこは夢でした。

 揶揄ではなくて本当にこれは夢の中なのですわ。


 どこもかしこも真っ白で、ぼやけてる。

 殺風景だけれどなぜか居心地が良い。

 それはたぶんここが素の私でいられる場所だからなのでしょう。


「何にゃ?ボケっとして。俺を撫でたいのかにゃ?」


 足元を見ると、尻尾が二股に分かれた黒猫が擦り寄ってこちらに撫でろとお腹を見せつけてきました。


「あら、ご機嫌よう、モルペウス」


 私は黒猫ーーモルペウスを見下ろしながら、挨拶をすると、黒猫は挨拶を返しもせずに腹や喉を撫でて欲しそうに目をうるうるさせました。


 ここは紛れもなく私の夢の中。

 モルペウスは私が前世の記憶を取り戻したその日から夢の中に現れる猫ですわ。

 もちろん私も彼が()()()()()問いただしたこともありましたが、いつものらりくららとかわさらてしまうのです。

 私もさしてこの猫に興味がないのでそこまで深く詮索しませんでしたし。


 ただ、彼のおかげで私はこの世界について少しだけ理解しましたの。


 そうですね、この世界についてわかりやすい説明のために一度回想編に行ってみましょうか。


〜〜以下回想〜〜


『ふっっざけんなぁああああああ何が農家じゃあああぼ』


 失礼、回想中の私のお見苦しいところを見せてしまいました。

 普段は決してこんなこと言わないのですよ、ええ私は完璧な淑女(レディー)なので。


 さて、ここの部分は飛ばしましょう。

 すぐ落ち着きを取り戻すと思うので少々お待ちをーー


『あぁぁぁん?? なんだとこのクソ猫!!! 私を元の世界に返せ尻尾引きち』


 ここではないですね。

 次行きましょう。


『私が死んだ!!? このマリア様が死んだと言うの!? 誰よ!? 誰が殺したのよ!?? 犯人を言えこの毛玉野郎、今すぐそいつのことをこ』


 次、行きましょう。


「●●●●!! ●●●●●●●●●●●●!!(自主規制)」


 ……


 ……お待ちください! ブラウザーを閉じないで!


 えーと、そう……ここ、ここです!

 これを見せたかったのです!!


『つまり、私はなんの取り柄もない農民の娘に転生したのね』

『や、やっとわかってくれたかにゃ……』


 何故でしょう、モルペウスが息を切らしているようですわね。あと毛が一番剥ぎ取られていますわ、なんて不恰好な猫なんですの。


『ったく、せっかく大手IT企業の御曹司アレン・スペンサーと婚約までしたってのに。私の今までの苦労が水の泡じゃねぇか。チッ』


 ふむ、どうやらまだ回想中の私は混乱しているようてますわ。どうかご容赦ください。


『悲観することないにゃ、ここにだって御曹司はごまんといるにゃ』


 黒猫はぴょんと私の膝の上に乗りながら顔を覗き込むようにして見上げた。


『にゃんたってここは乙女ゲーム“下剋上農民娘〜身分差なんて関係ないっ! 私の王子は貴方だけ〜”の世界なのにゃ!!』

『……膝に乗るな。私、犬派だし』


 得意げに言われても全くピンと来ない私は無言でモルペウスの首を掴んで膝から下ろしました。


『にゃにゃ!! にゃんですと!?』


 私が何も知らないこと、あと犬派な事にショックを受けたのかモルペウスはそう叫ぶと耳も尻尾もぺたんと垂れ、拗ねたようにこちらに背を向けました。


『にしてもなんか陳腐なゲームの名前ね。タイトル長ったらしいし、中身スッカスカなの丸わか』

『それ以上はやめるにゃ!! ブーメランだにゃ!!』


 何を言ってるのでしょう。よくわかりませんわ。

 モルペウスはごほんと咳払いして話始めました。


『通称“下剋娘”それがこの世界にゃ。

 主人公である農民の娘は魔法学園で出会うイケメン達と恋をするという王道ストーリーだにゃ。

 ただ一つだけ他のゲームと違うところがあるにゃ』


 ここでモルペウスが心なしかにやりと不気味に笑います。憎たらしいですわね。


『にゃんとこのゲーム、バッドエンドが100種類以上! 初見プレイでハッピーエンドまで辿り着けるのは0.0001%未満の超高難易度の乙女ゲーム! 発売直後から“納得いかない”“現実よりクソ”“開発者は鬱病”など酷評の嵐! 日本クソゲー大賞乙女ゲーム部門で堂々の一位に輝いたクソゲーオブクソゲーなのにゃにゃにゃにゃにゃ!! 痛い! ヒゲはやめて!」


 ヒゲを引きちぎらんばかりに引っ張りながら回想編の私は猫に質問します。


『は? そのゲームやったことないんだけど?

 普通こういうのってやりこんだゲームとか大好きな本の世界に転生してチートしたり、逆ハーレム作るんだよね? バグったの? 転生場所バグったの?』

『に、日本の文化をよくご存知だにゃ』


 ヒゲを相変わらず引っ張られ、涙ながらに言う猫。

 まあ、私はお父様が日本人なのでよく日本にも遊びに行きますの。なので多少の文化なら知っていて当然ですわ。け、決してオタクなどではなくってよ。


『もうこの世界に来たからにはそこらへんは諦めるにゃ。今更どうこうはできないにゃ。それよりもイケメン達を落とす作戦を立てるべきだにゃ』

『ふん、私を誰だと思ってるの?』


 鼻を鳴らして私は猫を手放すと仁王立ちして言い放ちます。


『社交界の華、マリア様よ! バッドエンドだらけだろうが私の手にかかればどんな男だってイ、チ、コ、ロ。

 ふふふ、見てなさい。返り咲いてやるわ、私の魅力の恐ろしさ存分に味わうがいいわ!!』


 高笑いする私を見ながら黒猫は『そのセリフは悪役だにゃ』とドン引いている顔していますがそんなのどうでもいいことです。


 そういうわけで、私の「玉の輿作戦」が今、始まるのです!

 今後のマリアの活躍にご期待くださいませ!

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