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よかれと思ったのに裏目に出ること、ありません?

 カラオケボックスの廊下の突きあたり、トイレの前。寺嶋は、おちゃらけた普段が信じられないほど真剣に怒っていた。


「あのね、伊藤。アンタが山中さんにしたのはどっからどう見ても嫌がらせだよ?」


「いや、そういう……」


 言い訳しようとして口を噤む。


 だって、「智奈美がカラオケを嫌がっていたから」なんて言えるか? バカ正直に言ったら――いや、夢で本人から聞いたと言っても信じてもらえるわけないけど、でも……。



 きっと智奈美を貶めることになる。



 寺嶋も、他の女子だって嫌な思いしかしない。下手したら、智奈美と寺嶋たちの関係に(ひび)を入れる。


「伊藤は軽く(いじ)っただけかもしれないけどさ。山中さんは傷ついたと思う」


 黙り込む俺を、寺嶋は滔々(とうとう)と諭し……


「可哀想だよ……」


 寺嶋の――平時は笑ってばかりの目からぽろぽろと涙が……なんでおまえが泣くの?!


「な?! えっ!? 寺嶋?!」


 狼狽えまくる俺の前で、しゃくり上げる寺嶋。意味わかんないし……どうすりゃいいんだよ?!


 オロオロおたおた手を彷徨わせる。女の子の慰め方なんて知らない。


 なんだよ?! 謝りゃいいのか? 何に? 誰に? どうして寺嶋が泣くんだよ?!


 思考は堂々巡り、頭の中を『?』が埋め尽くし、渦を巻く。


 テンパった俺の頭はもはや竜巻が吹き荒れたみたいにグシャグシャだった。マジックで書き殴っていくように、冷静な思考が塗り潰されてゆく。


「あ、あんなの……」


 俺の裸心は白旗をあげ、お調子者キャラの鎧が勝手に言葉を紡ぎ出す。


「その、アレだって……『シャレ』だ」


 ハッと我に返った時には既に遅く。絶妙なタイミングでトイレから出てきた智奈美と、ガッツリ目を合わせた俺の思考はフリーズした。



◆◆◆



   嗚呼……


      嗚呼……


       やってしまった……。


  よりによって智奈美の前で。


 寺嶋に意味不明な理由で泣かれ。


智奈美を助けようとしたのを『シャレ』だと。


 あんな言い方したら……


   まるっきり悪意じゃねぇか。


 俺は、夢の約束を果たそうとしたのに。


  智奈美のプレッシャーも恥も全部持っていくつもりだったのに。


阿呆だ。


  これ以上ないほど、俺はド阿呆だ……。





 カラオケからの帰り道は、駅まで寺嶋に付き添った。泣かせたのは俺だから。


 道々で、途切れ途切れに寺嶋が語ったのは――。


 寺嶋は送別会の幹事だった。

 智奈美を誘ったのも寺嶋。俺の参加を許可したのも寺嶋。で、俺が智奈美の歌に乱入したのを『行き過ぎた弄り』と捉えた寺嶋は、責任を感じて……結果涙腺が決壊したと。



 ……うん。


 寺嶋は、人情にアツい奴だ。

 コイツは皆に等しく――智奈美にも楽しんで欲しかった。純粋に。

 寺嶋は智奈美の本心なんか知らないし、知る方法もなけりゃ、知る義務だってないわけで。


 俺がたまたま智奈美の裸の心を――彼女の夢に入りこんで、彼女が心に封じ込めていた悩みを知ってしまったから……



 いろいろな条件が、悪い方に作用した。



 結果、俺は踏まなくてもいい地雷を踏んで、好きな子に最悪な言葉を吐いてしまったのだ。


「ごめん……。私、日程調整とかいろいろ、ストレス……溜めてて、それもッ……あっ、て……」


 メソメソと「ごめんね」と繰り返す寺嶋に、俺は死んだ魚の目で、ただ、バカの一つ覚えみたいに「いいよ」「気にすんな」と繰り返した。

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― 新着の感想 ―
[一言] やってしまいましたなあ( ˘ω˘ )
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