勉強って素敵な口実ですよね?
主人公:俺(伊藤)
ヒロイン:山中智奈美
寺嶋アヤ:同じクラスの陽キャ女子。大根足
田辺ユッコ:寺嶋の友達。本名は田辺雪乃。ギャル
「ちぃ~~す! 寺嶋ァ」
夢を見た翌朝、俺は早速行動に出た。
俺は約束を果たす男である。
「金曜の送別会カラオケ、俺も行きた~い」
いつものメンバーとたむろしていた寺嶋は、振り返って「うええっ?!」と大げさなリアクション。
「原田先生の送別会は女子限定」
口を出したのは田辺ユッコ。クルクルと縦ロールに巻いた茶髪を弄びつつ、暗に「アンタはお呼びでないし」と言いたげだ。
でも負けねぇ。
「え? マジ? ハーレムじゃん」
お調子者キャラの鎧で答えながら、本心では……。
ちょっと……いやかなり恥ずかしいな、そのシチュ。
茶化す言葉とは裏腹に焦る俺。それを、
「下心丸出しィ~」
「伊藤エロ~い」
陽キャ女子どもはキャッキャと揶揄う。ともあれ、参加の許可は取りつけた。視界の端に彼女――智奈美の背中を捉えた。彼女は俺と陽キャ女子とのやりとりなんか全く見ていなくて、地味に心が萎む。
わかってる。
昨日の夢を智奈美は一片も覚えちゃいないんだ。俺と交わした言葉も……。
今一度、智奈美の気高い横顔に目をやる。昨夜までの俺なら、高嶺の花と指をくわえて見ているだけだったろう。でも、今は違う。夢の中の智奈美は、決して孤高の女王様ではなかった。素の――裸心の彼女は、恥ずかしがり屋で怖がりで、とんでもなく可愛かったんだ。
「伊藤君は明るくて、誰とでも話せて、みんなから好かれてる。すごく、羨ましいよ」
俺を見つめたまっすぐな眼差し。
俺の印象は決して悪くなかった。
うっかり好きだって言った俺を、邪険にした風もなかった。
だから。
二学期も半ばになって残り僅かな高校生活、ほんの少しの可能性があるなら賭けてみよう。そう、夢の最後に決めたんだ。
意を決して、俺は席を立った。
「山中さん、山中さん」
大人しい系女子グループを割って、智奈美に話しかけると、彼女たちの怪訝な視線が一斉に俺に突き刺さった。
うあぁ……。大人しい系女子って苦手。十秒と会話が続かない自信がある。お調子者キャラという名の鎧の内側に隠れた臆病な裸心が、バッコバッコと騒ぎたてる。
「頼むよ山中さん、数学の宿題、わかんなくてさぁ」
手を合わせる俺に、智奈美は戸惑いの表情。そりゃそうだ。今まで一回もそんなお願いしたことないもんな。それどころか、こうやって個人的に話しかけたのだってはじめてだ。
「俺、次の模試マジでヤバくてさ。昼休みに自習室! 山中さんお願い! このとぉーり!!」
さり気なく出した『自習室』のワードに智奈美が微かに瞠目する。夢の中で智奈美は、ラストの問題が解けなかったと言っていた。そして、自習室の担当教師は数学の赤城先生。智奈美にも旨味があるだろ?
「じゃ、約束な!」
目をまん丸にする智奈美に、照れ隠しでニカッと笑う。ハァ~~。ゴリ押したけど、智奈美は来てくれるだろうか。